マガジンのカバー画像

[私小説] 霜柱を踏みながら

24
私小説です。時系列でなく、思い出した順番で書いてます。私の個人的な思い出の物語です。
このマガジンは私の私小説風のエッセイで、月に3本くらい2000文字前後の作品を投稿していく予定です…
¥100
運営しているクリエイター

2021年5月の記事一覧

最後まで、あなたは溶けきらない氷でした

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 13』 早朝、ベッドの中で起きようかどうしようかとうだうだとした時間を過ごしているときに携帯電話が鳴った。着信画面から相手は誰だかわからないが、日本からだということがすぐにわかって電話に出る。 「もしもし。私、お母さんだけど、ちょっとお願いがあるのよ」 「何?」 「明日ね、乳癌の摘出手術を受けるのよ、家族の立ち合いが必要なんだって、病院まで明日来てくれない?

眉毛のない男と恋をする

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 12』 私は17才の誕生日を迎えていた。高校生なった時から17才ってなんとなく特別な年齢のような気がしていた。16にも18にもないキラキラに少しヌメリやコクを足したような特別さがあるように思っていた。キラキラ感だけじゃなくそのプラスアルファが欲しくて早く17才になりたかった。なぜそんなふうに思っていたのだろうか...流行りの歌謡曲には「17才」という言葉ががよく使

八月の暑い午後、静かにすすむ予感

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 11』 8月15日の午前11時半、灼熱の太陽が照りつけている。拭っても拭っても吹き出してくる汗に辟易していた。念入りにお化粧したつもりだが、ハンカチには汗で流されたファンデーションが付着している。うんざりだと思う。待ち合わせの駅に到着して思わず自動販売機でソーダ水を買った。それをふた口飲んだところで待ち合わせの相手が遠くから手を振っていることに気がついた。相手に負