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映画で知り、本で生き、舞台で弾ける。

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映画、本、観劇の記録です。 この3本の柱でわたしは成り立っています。
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#本好き

熟練の技で誘う異界への扉

『枝の家・黒井千次』の寄せて... 若い流行りの作家さんの本ばかりを読んでいると、現代の文学の傾向をあたかも把握したような錯覚に陥ってしまうことがある。「これでいいんじゃない」「これわかりやすい」「今はこんな感じだよね」なんて言葉を並べたて、平気で友人に本を勧めたりして、私って何様なの?と自己嫌悪に陥ったりもする。流行りもんばかりを手にしているとちょっと感覚が鈍ってくるようだ。 そんな中、黒井千次さんの本を久しぶりに読んだ。数年前『高く手を振る日』を読んでファンになった。

肉体のジェンダーを笑うな

母親が出す母乳のように父親が医療によって父乳を出す話や、女性のPMS(月経前症候群)の辛さを知リたくて生理が始まる夫、か弱い女性という立場が嫌で筋肉ロボットを装着する女性などが現れる。荒唐無稽な内容ではあるが、本質はものすごく深く考えなきゃいけない問題が潜んでいる。男女の区別は生物が誕生してからあったのだけど、男女の区別だけではなくその人個人の肉体的な特徴の線引きがどうも腑に落ちない主人公たちがいる。いや、この作品の中の人物だけではなく、現実の世界にもそう思っている人は確実に

今日も更紗は、絶賛生存中

数年前にこの本に出会った。私にとっては「家庭の医学」よりも体の為になる本だと思っている。 私はいろんな持病もあり、精神的に「もう嫌だな」と思っていた時に大野更紗さんのことを知った。そしてその足で本屋に直行してこの本を手に入れた。難病を扱った闘病記は他にもたくさんある。それらのほとんどは神妙な面持ちで読まれることだろう。この本も括りでいえば闘病記になるのだろうが、この本はそんじょそこらの闘病記とはちょっと趣が違うのだ。 笑える。 こんな大変な苦しい思いをしている人のことが

言葉を舐めるな、甘くはないぞ

この本はひとことで言うならかっこいい本だと思う。かっこいいイケメンが書いているわけでも現代の流行を描いているわけでもないが、「文学は実学である」と言い切る。それがかっこいい。 「文学は実学である」を再読した。コロナがピークの時にこの本に出会い、いろいろなことを学んだ。この本に限らず目の前に本があったおかげで、神経が崩壊していくかもしれないという不安から逃げてこられたような気がする。しかし、文学は実学であるかどうかは現代においては難しい課題だと思う。医学や化学のように生きてい