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映画で知り、本で生き、舞台で弾ける。

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映画、本、観劇の記録です。 この3本の柱でわたしは成り立っています。
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#日々の暮らし

【映画】土を喰らう十二ヵ月

見終わった後の感想を最初に書くのは変かもしれないが、とても美しくとても静かな贅沢な映画だと思った。 立春の風景から物語が始まる。 立春といえど、信州はまだ雪に囲まれている。 お茶を立て、漬物を漬け、芋を焼き、筍を煮、梅を漬け、栗を煮… 季節に応じた食材を料理していく。 便利な道具は使わず何もかも手作業。 どれもこれも美味しそう。 美味しそうというだけではなく美しい。 豪華な料理ではなく、どちらかといえば質素な料理であるが、ものすごい贅沢さを感じる。 物語の中の主人公は当た

人生って、複雑で曖昧な問いの連続

2023.5.19(金曜日) obscure 昨夜遅くに降り始めた雨が今朝も飽きることなく降っている。 今日一日降り続くという予報が出ている。 今朝も昨日の件で少し気持ちが沈んでいる。 気温は低いが、湿度が高くて蒸し暑い。かといってエアコンを入れるほどではないと思い、夫にお願いして出勤前に2台の扇風機を出してもらう。 今年はえらく早いお出ましとなる。 ダイソンの扇風機は、羽根がなく真ん中に穴があいている。そこを茅の輪くぐりのように通り抜けたりして猫が遊んでいる。こうやって

ある日の映画鑑賞

Dr.コトー診療所 先日、映画の招待状が届いた。 私に見せたい映画があると、時々招待状を送ってくださる方がいる。 それで、映画『Dr.コトー診療所』を観てきた。 招待状をくださった方に「観てきました」という報告と、私が感じたことを素直に書いて、さっきメールを送った。 流行りの洒落た映画でもなく、奇想天外なストーリーがあるわけでもないのだが、こういう映画は日本人にとっては必要な映画ではないかと思った。 弱い立場の人たちに平等に分け隔てなく愛を注ぐ…言ってみれば民のヒーローの

映画 『川っぺりムコリッタ』

ずっと観たかった映画「川っぺりムコリッタ」をやっと観た。 きっと極上の幸せが待っているだろうと思いながら観た。 荻上直子監督・脚本となれば、私の中であるイメージが浮かび上がる。それは決して悪いイメージではなくて「辛くても悲しくても決してあなたを裏切らないよ〜」という包み込むような優しさが漂うイメージだ。 それが確信になった。確かになった。 ここに登場するギリギリの崖っぷちの人々を暖かく包み込むような映画で、それぞれがそれぞれの事情を抱えて、それぞれの方法で何とか生きている姿

無意識という犯罪

もっとたくさん人を愛して死んでいきたい

「某・川上弘美」を読み終えた。 不覚にも最後は涙するという結果になって、私にもまだ人間のやわな心が残っているのだと再確認した。 「某」という言葉の意味をネットで調べてみると、『人の名前や、地名、場所、時などについて、それとはっきりわからない場合、あるいは、それとはっきり示さず表現する場合に用いる』と書いてあった。 なるほど...と思う。はっきりわからないのだ。 何もかも。 主人公の「わたし」は、突然この世に現れた。人間のような姿をしているが、名前も年齢も性別も生きているの

L'ARMINOTA 戻ってきた娘

13歳の頃の私は何を考え、何に苦悩していたのだろうと考えながら読んだ。13歳という年頃は、何もなくてもどこか不機嫌でいつも何かに悩んでいる年頃なのだ。でもこの作品の中の「わたし」は、突然理由も告げられないまま苦悩の中に放り込まれてしまう。 舞台はイタリア・アブルッツォ州...恵まれた家庭で育った「わたし」は、13歳の時に理由も告げられずに本当の母(産みの親)の元へと戻される。戻されたその家庭は貧困に喘ぐ子沢山の家庭で、いつも暴力と怒号が飛び交う家庭だった。そんな家庭で「わた

肉体のジェンダーを笑うな

母親が出す母乳のように父親が医療によって父乳を出す話や、女性のPMS(月経前症候群)の辛さを知リたくて生理が始まる夫、か弱い女性という立場が嫌で筋肉ロボットを装着する女性などが現れる。荒唐無稽な内容ではあるが、本質はものすごく深く考えなきゃいけない問題が潜んでいる。男女の区別は生物が誕生してからあったのだけど、男女の区別だけではなくその人個人の肉体的な特徴の線引きがどうも腑に落ちない主人公たちがいる。いや、この作品の中の人物だけではなく、現実の世界にもそう思っている人は確実に

松本まりかの皮膚感覚に怖さを感じる

小説、ドラマ、演劇の連動企画で「向こうの果て」が始まった。ドラマでは松本まりかさんが主演をやると聞いて期待が高まった。まず小説を読み始めた。著者(竹田 新)は最初から松本まりかさんをイメージして書いたのではないかと思うほど私の中ではピッタリと当てはまった。この台詞はこんな感じで言うだろう...と想像しながら読み始めた。 松本まりかさんの少しかすれた声や皮膚が薄いのではないかと思わせる中身が透けて見える不安定さのようなものが私は以前から好きだった。かすれたか細い声は女の底にあ

すべての道は舞台に通ず

2021.4.17(土曜日) Go watch a play 2  ざぁーざぁーと激しい音がしている。走る車の音もタイヤに水気を含んでいるようでスムーズではない。昨夜、お芝居の帰りは傘もささないでいいくらいの小雨だったが、いつの間にか夜は明け本降りになっていた。 その雨のせいか今朝は少し肌寒く、リビングの床暖房をつけた。猫も嬉しそうにお腹を床にペタッとつけてくつろいでいる。私も夫も床にペタッと座り、テレビでニュース番組を見る朝だった。政治家の言葉は私たちの耳を通り抜け雨の

そうして私たちはプールに金魚を、

「ポジティブ、怖っ」「ポジティブ、怖っ」「ポジティブ、怖いよ」「つまりね、この街で生まれた時点で死んでんのよ、生まれてこのかたずっとゾンビよ」 女子中学生の仲良し4人組のこんな台詞からこの映画『そうして私たちはプールに金魚を、』は始まる。知人に「あなたの好きそうな映画よ」と勧められて観たが、確かに好きな映画だと思った。2012年に埼玉県で実際にあった事件を元に作られた映画で「第33回 サンダンス映画祭」のショート・フィルム部門にて、グランプリを獲得している。 2012年の

みんな、森に行っちゃうんだよな

私は多感な子供の頃、パラレルワールドが存在することを信じていた。もうひとつの世界があって、そこにも「私」が存在していて、ここにいる「私」とは違う人生を生きているのだと...それは今になって思えば、自分の人生には何かしらの不都合があって、もうひとつの世界では私は幸せで何不自由のない生活をおくっているのだと思い込むことで自分を慰めていたのではないかと思う。 そんなパラレルワールドを舞台にした「森へ行きましょう・川上弘美」を読了した。とてもおもしろくて、複雑な作品だった。 19

いつか、いっぱしの酒飲みになりたい

私は自他共に認める酒好きである。以前は「女だてらに酒好きなんて公表するべきじゃない」と言われたこともあるが、今はもうそんなことを言う人はいない。会う人ごとに堂々と酒好き宣言をしている。 そんな私が憧れている酒好きおじさんがいる。吉田類さんだ。出版されたばかりの『酒場詩人の美学』を読んだ。いろんな地方を旅をし、そこでお酒を飲む。旅先で出会う人やお酒にまつわることが書かれている。素敵な人の周りにはやはり素敵な人が集まり、楽しく飲み、喋り...、でも吉田さんの場合はそれにのめり込

わたしは過度にロマンチック

遠い昔に一度読んだことのある。 「銀の匙」をまた読んだ。 何だか美しいものに触れたくなって、友人が待っていたのを借りて読んだ。 この本を読むと自分が日本人だということがとても嬉しくなる。誇りになる。普段はアメリカか、イタリアか、中国か、インド、アジアのどこか...あるいは宇宙人かもと思うような生活をしているくせに、わたしは紛れもなく日本人であることを自覚し、そしてその日本人で良かったと心から思える。 この本は、作者・中勘助が、小箱にしまってある銀の匙から思い出されることを