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映画で知り、本で生き、舞台で弾ける。

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映画、本、観劇の記録です。 この3本の柱でわたしは成り立っています。
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#日々の出来事

史上もっとも迂闊な四畳半

『愉快』な本である。 『おもしろい』とか『楽しい』というのとはちょっと違っている。『愉快』としか表現のしようがない。「森見登美彦・四畳半タイムマシンブル〜ス(原案・上田誠)」を読み終えた。それもたった半日で。頭の中に登場人物が現れる。そして彼らのドタバタとした行動が私の頭の中で繰り広げられる。目は本に向かって文字を追っているのだけど、その映像が映し出されていく不思議さを感じる。クルクルと場面が変わりクルクルと人の気持ちが流れていく。とても愉快な経験だった。この技法はどういう

師を選ぶ。存在を攫われそうで怖いけど

歌うたいが切ない歌の弾き語りで、女性達をメロメロにすることがあるように、この人は文字でそれをやってのける。それも31文字という短い文字でだからたまらない。誤解がないように言うとメロメロになるのは女性だけではない男性もそうだろう。僕も俺もその文字の中に埋もれて眠りくなるに違いない(あくまでも個人的見解ではあるけれど) 短歌や川柳が好きでいろんな歌人の短歌を読んだりするが、私自身は短歌を作ったことはない。これからも作るかどうかわからない。でも木下龍也さんの作品がとても好きで彼が

いつか、いっぱしの酒飲みになりたい

私は自他共に認める酒好きである。以前は「女だてらに酒好きなんて公表するべきじゃない」と言われたこともあるが、今はもうそんなことを言う人はいない。会う人ごとに堂々と酒好き宣言をしている。 そんな私が憧れている酒好きおじさんがいる。吉田類さんだ。出版されたばかりの『酒場詩人の美学』を読んだ。いろんな地方を旅をし、そこでお酒を飲む。旅先で出会う人やお酒にまつわることが書かれている。素敵な人の周りにはやはり素敵な人が集まり、楽しく飲み、喋り...、でも吉田さんの場合はそれにのめり込

狂うほどの棘が刺さる時

衝撃的な作品だった。私も読みながら狂ってしまうのではないかと思うほどだった。 島尾敏雄「死の棘」日記を読み終えた。 昭和二十九年九月三十日 この晩より蚊帳つらぬ。 という文章で始まる。これは作家・島尾敏雄の日記をそのまま本にしたものである。彼は若い時からずっと日記をつけていたようだが、この本に掲載されたのは、昭和29年9月30日から昭和30年12月31日までの日記で、もちろん日記だから実話である...それも衝撃的な実話である。 島尾敏雄は昭和19年末、海軍震洋特攻隊長

わたしは過度にロマンチック

遠い昔に一度読んだことのある。 「銀の匙」をまた読んだ。 何だか美しいものに触れたくなって、友人が待っていたのを借りて読んだ。 この本を読むと自分が日本人だということがとても嬉しくなる。誇りになる。普段はアメリカか、イタリアか、中国か、インド、アジアのどこか...あるいは宇宙人かもと思うような生活をしているくせに、わたしは紛れもなく日本人であることを自覚し、そしてその日本人で良かったと心から思える。 この本は、作者・中勘助が、小箱にしまってある銀の匙から思い出されることを