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映画で知り、本で生き、舞台で弾ける。

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映画、本、観劇の記録です。 この3本の柱でわたしは成り立っています。
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#読書日記

BLANK PAGE (空っぽを満たす旅)

【読書感想文】BLANK PAGE 空っぽを満たす旅/内田也哉子 樹木希林さんと内田裕也さんの娘である、内田也哉子さんが書かれたエッセイとなる。 この本はかなりの人気だと聞いている。現に私の知人の半分がこの本を購入していた。也哉子さんのお母様である希林さんの人気も凄まじかったが、その娘となると若い方も加わってさぞかし人気なのだろうと思う。 希林さんは、女性の方、それも若い方というより年を重ねられた方に絶大な人気がある。 希林さんが生前書かれたエッセイは今でも売れているようだ

八月の母

「八月の母・早見和真」を読了した。 長く苦しい本だ。 読者を嫌な思いにさせる本だと思う。 それは批判しているのではない。それだけ考えさせられる本ということだ。 冒頭は幸せそうな家族の描写から始まる。 しかし、これから長い長い苦しみが描かれるのだろうなと予測させるものが言葉の端々から感じ取れる。 この物語は愛媛県で実際にあった事件を元に書かれたものだと聞いている。 母親と子供、切っても切れない呪縛でがんじがらめにされた事件だったとしか私は知らない。 物語は愛媛県伊予市とい

父のビスコ

読書記録[父のビスコ / 平松洋子 著 / 小学館] 食べ物の記憶というのは不思議なもので、もう何年もその食べ物にお目にかかってないのに、思い出した途端に鼻腔にその時の匂いが広がり、頭の中にその時の状況が浮かび上がる。 誰にでもそんな思い出の食べ物がひとつやふたつあると思うが、この作品は著者である平松洋子さんが生まれ育った倉敷で巡り合った食べ物、東京に出てから巡り合った食べ物など自分自身や家族とのエピソードと共に綴られた自伝的エッセイ集だ。 平松洋子さんの子供の頃からの記

西瓜糖の日々

とても変な話だ。 
まるで誰かが見た長い夢の話を聞かされているようだった。

 いま、こうしてわたしの生活が西瓜糖の世界で過ぎてゆくように、
かつても人々は西瓜糖の世界でいろいろなことをしたのだった。
あなたにそのことを話してあげよう。
わたしはここにいて、あなたは遠くにいるのだから。

 とても素敵な書き出しに、西瓜糖の夢の世界に恋いこがれながら読んだ。何を隠そう私はこの本を数えきれないど読んだ。でも不思議なことに何度読んでもまるで新しい本に出会ったような新鮮さと驚き

熟練の技で誘う異界への扉

『枝の家・黒井千次』の寄せて... 若い流行りの作家さんの本ばかりを読んでいると、現代の文学の傾向をあたかも把握したような錯覚に陥ってしまうことがある。「これでいいんじゃない」「これわかりやすい」「今はこんな感じだよね」なんて言葉を並べたて、平気で友人に本を勧めたりして、私って何様なの?と自己嫌悪に陥ったりもする。流行りもんばかりを手にしているとちょっと感覚が鈍ってくるようだ。 そんな中、黒井千次さんの本を久しぶりに読んだ。数年前『高く手を振る日』を読んでファンになった。

ショローに告ぐ、ドライであるということ

『ショローの女/伊藤比呂美』 伊藤比呂美さんのエッセイを読むのは『道行きや』に続いて2回目になる。このエッセイは『婦人公論』に2018年8月28〜2021年5月11日に渡って連載されたものに加筆・再構成された作品だ。 伊藤比呂美さんは1955年生まれ。ということは今年で66歳になられるのだろうか...伊藤比呂美さんはここ3年間は早稲田大学で教壇に立ち、ショロー(初老)を迎えて身体能力の低下を感じつつも熊本と東京を行き来してらっしゃったようだ。あれだけ海外と日本との往復をひ

L'ARMINOTA 戻ってきた娘

13歳の頃の私は何を考え、何に苦悩していたのだろうと考えながら読んだ。13歳という年頃は、何もなくてもどこか不機嫌でいつも何かに悩んでいる年頃なのだ。でもこの作品の中の「わたし」は、突然理由も告げられないまま苦悩の中に放り込まれてしまう。 舞台はイタリア・アブルッツォ州...恵まれた家庭で育った「わたし」は、13歳の時に理由も告げられずに本当の母(産みの親)の元へと戻される。戻されたその家庭は貧困に喘ぐ子沢山の家庭で、いつも暴力と怒号が飛び交う家庭だった。そんな家庭で「わた

羊は安らかに草を食み

怒涛のうちに『羊は安らかに草を食み/宇佐美まこと』を読み終えた。読み終えたからといって怒涛の勢いが終わったわけではない。私はこの感想文を書くにあたって、何を伝えたらいいのか、自分は何を伝えたいのか、とても悩んでいた。戦争の悲惨さか、人の一生の辛さややるせなさか、それとも老いていく人間の尊厳か...。 「もうすぐ桜が咲くわねえ」 「そうね。またお花見に来なくちゃ」 優しげなタイトルで老人たちの他愛ない会話から物語は始まる。しかし実際はそんなに甘いものではなかった。 益江

Hey, you bastards! I'm still here!

Hey, you bastards ! I'm still here ! 映画「パピヨン」のラストシーンで主人公が叫ぶ台詞だ。 著者は、何度となくこと台詞を叫んだに違いない。 『道行きや(Hey, you bastards ! I'm still here !)・伊藤比呂美』を読み終えた。はるか遠い国を思い、そして日本を思う、果てしない読書だった。 私よりお姉さま世代の主婦たちは伊藤比呂美さんの本にかなり励まさせれて子育てをしてきたということをよく聞く。彼女