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映画で知り、本で生き、舞台で弾ける。

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映画、本、観劇の記録です。 この3本の柱でわたしは成り立っています。
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#スキしてみて

ショローに告ぐ、ドライであるということ

『ショローの女/伊藤比呂美』 伊藤比呂美さんのエッセイを読むのは『道行きや』に続いて2回目になる。このエッセイは『婦人公論』に2018年8月28〜2021年5月11日に渡って連載されたものに加筆・再構成された作品だ。 伊藤比呂美さんは1955年生まれ。ということは今年で66歳になられるのだろうか...伊藤比呂美さんはここ3年間は早稲田大学で教壇に立ち、ショロー(初老)を迎えて身体能力の低下を感じつつも熊本と東京を行き来してらっしゃったようだ。あれだけ海外と日本との往復をひ

何にでもなれる...、望むなら虫けらにでも

『THE LOBSTER』を観た。 デストピアな国のお話だ。 「独身は罪である」という思想の国家がある。市民は素直にそれに従っている。パートナーがいる人はごく普通に生活ができるが、独身者は犯罪者のごとく扱われる。 パートナーがいたとしても離婚したらその時点で独身者としての扱いになり、強制的に『ホテル』という名の施設に強制的に入れられる。 45日間、そこのルールに従って逃げ出すこともできずに生活しなければならない。そしてその45日間の間にその中でパートナーを見つけなければな

日常性というこのもっとも平凡な秩序こそ、もっとも大きな罪がある

占いと予言の違いは何なんだろうか?
この本「第四間氷期・安部公房」を読み始めた私の最初の疑問だった。

予言機械なるものが作り出されたところから物語は始まる。 

『地球にある陸地は水の底に沈んでしまう。
異常気象、温暖化、人間のエネルギー大量消費による二酸化炭素の増加...
そのような原因から、いずれ海面が高くなって...』
現在のニュースでも時々聞くような台詞だ。
これが62年前に書かれた小説だというのが信じられないくらいの生々しさがある。 

そしてその来る日に備え

みんな、ホントウの自分で、おやんなさい

『みんな、ホントウの自分で、おやんなさい』とは、映画「トイレット」のサブタイトルだ。映画を観終わると、この言葉の意味がよくわかる。 もたいまさこさんが出てる映画は、何となく観たくなる。そしてその映画が荻上直子監督だと、やっぱり猛烈に観たくなる。更に言うならフードスタイリストは飯島奈美さんだ。このカップリングが好きな女性は多い。それと同じように拒否反応を示す人も多いのかもしれないが、私は大好きだ。なんか心にもやもやがあったり、他人のことが必要以上に気になり出したりした時に荻上

肉体のジェンダーを笑うな

母親が出す母乳のように父親が医療によって父乳を出す話や、女性のPMS(月経前症候群)の辛さを知リたくて生理が始まる夫、か弱い女性という立場が嫌で筋肉ロボットを装着する女性などが現れる。荒唐無稽な内容ではあるが、本質はものすごく深く考えなきゃいけない問題が潜んでいる。男女の区別は生物が誕生してからあったのだけど、男女の区別だけではなくその人個人の肉体的な特徴の線引きがどうも腑に落ちない主人公たちがいる。いや、この作品の中の人物だけではなく、現実の世界にもそう思っている人は確実に

松本まりかの皮膚感覚に怖さを感じる

小説、ドラマ、演劇の連動企画で「向こうの果て」が始まった。ドラマでは松本まりかさんが主演をやると聞いて期待が高まった。まず小説を読み始めた。著者(竹田 新)は最初から松本まりかさんをイメージして書いたのではないかと思うほど私の中ではピッタリと当てはまった。この台詞はこんな感じで言うだろう...と想像しながら読み始めた。 松本まりかさんの少しかすれた声や皮膚が薄いのではないかと思わせる中身が透けて見える不安定さのようなものが私は以前から好きだった。かすれたか細い声は女の底にあ

すべての道は舞台に通ず

2021.4.17(土曜日) Go watch a play 2  ざぁーざぁーと激しい音がしている。走る車の音もタイヤに水気を含んでいるようでスムーズではない。昨夜、お芝居の帰りは傘もささないでいいくらいの小雨だったが、いつの間にか夜は明け本降りになっていた。 その雨のせいか今朝は少し肌寒く、リビングの床暖房をつけた。猫も嬉しそうにお腹を床にペタッとつけてくつろいでいる。私も夫も床にペタッと座り、テレビでニュース番組を見る朝だった。政治家の言葉は私たちの耳を通り抜け雨の

羊は安らかに草を食み

怒涛のうちに『羊は安らかに草を食み/宇佐美まこと』を読み終えた。読み終えたからといって怒涛の勢いが終わったわけではない。私はこの感想文を書くにあたって、何を伝えたらいいのか、自分は何を伝えたいのか、とても悩んでいた。戦争の悲惨さか、人の一生の辛さややるせなさか、それとも老いていく人間の尊厳か...。 「もうすぐ桜が咲くわねえ」 「そうね。またお花見に来なくちゃ」 優しげなタイトルで老人たちの他愛ない会話から物語は始まる。しかし実際はそんなに甘いものではなかった。 益江

そうして私たちはプールに金魚を、

「ポジティブ、怖っ」「ポジティブ、怖っ」「ポジティブ、怖いよ」「つまりね、この街で生まれた時点で死んでんのよ、生まれてこのかたずっとゾンビよ」 女子中学生の仲良し4人組のこんな台詞からこの映画『そうして私たちはプールに金魚を、』は始まる。知人に「あなたの好きそうな映画よ」と勧められて観たが、確かに好きな映画だと思った。2012年に埼玉県で実際にあった事件を元に作られた映画で「第33回 サンダンス映画祭」のショート・フィルム部門にて、グランプリを獲得している。 2012年の

言葉を舐めるな、甘くはないぞ

この本はひとことで言うならかっこいい本だと思う。かっこいいイケメンが書いているわけでも現代の流行を描いているわけでもないが、「文学は実学である」と言い切る。それがかっこいい。 「文学は実学である」を再読した。コロナがピークの時にこの本に出会い、いろいろなことを学んだ。この本に限らず目の前に本があったおかげで、神経が崩壊していくかもしれないという不安から逃げてこられたような気がする。しかし、文学は実学であるかどうかは現代においては難しい課題だと思う。医学や化学のように生きてい