【音楽】『分かっていない』以前に『知らない』
「分からない」と「知らない」は全然違う。
先日、メトロノーム練習のワークショップに楽器経験0のご婦人がいらっしゃった。イベント開催したお店の常連さんらしく、基本『楽器弾き』のための講座なので正直どうしたものか、伝わるだろうかと不安ながらに90分を終えた。
どうやら内容を理解されたらしく、終了後に「音楽にとってリズムがこんなに大事だってことを知りませんでした。目から鱗でした!」と喜んでくださった。
なるほど。
そもそも楽器をやらない、音楽を作る経験がない人にとっては「リズム」がどんなものであるかだとか、それを磨くことにどれだけの労力がかかるだとか、知る機会がない。せいぜい「音楽の三大要素は『メロディ、リズム、ハーモニー』です」といった教科書的なことに触れるのが精一杯なのだろう。
楽器を志す人にとって「リズム」は大きな課題であり、毎日悩み考え、練習に勤しむ人も少なくない。生活に不可欠というか、組み込まれているというか、とても身近な概念だ。
音楽制作をする人にとっても、どれほど初心者であれ小節や拍といった基本的な概念は理解しているし、リズムがダサいと全体がダメな感じになる経験をするものだから、「リズムは大事だね・・・・」という共通の感覚があるものだ。
知らないから分からない。考えたこともない。
まずは「なにを知らないか?」を問う
自分自身が自然に習得してきたことは、相手の中の「知らない」まで考えが至りにくい。
例えば「拍子は一定に刻む何かだな」だとか「楽譜って音楽を伝える文章みたいなものだ」だとか、あるいは「楽器は練習しなきゃ上達しないんだ」みたいな経験則や「オクターブ違いでも音の名前は一緒になるんだ」みたいな大前提のような知識。僕個人は学校の授業で勉強してきたし、それを活かして幼少期を過ごしてきたから身についているだけで、そうでない人はとても多い。
レッスンに来られる生徒さんは、おぼろげながらそういった概念があることを理解しているが、言葉が割り振られていないので「知らない」し「分からない」。
だからまずは、生徒さんの音楽経験をヒアリングする。
・楽器経験は?
・好きな音楽は?
・どんな音楽をやりたいですか?
この3つの質問で、だいたいの前提を推し量ることができる。経験があったり、好きな曲がある人は問題ないのだけど、それらが”ない”場合、指導方針は極めて基本的なところから始めることになる。
経験がないことを知るのは、案外難しい。
特殊なケースだけど、たとえば学校に行けてなかったりする人にとってはリズムを整えることの意味や意義、その難しさを理解して分かるには手取り足取りの指導が必要になる。(実は結構そういう生徒さんはいる、若い人だけでなくご高齢の方も)
レッスンのコアな部分は、生徒さんが「何を知らないのか?」を引き出すところにあると思う。あるいは楽器なら「何が苦手なのか?」を発見することで、なにをどう指導すれば上達するのかが見えてくる。
そもそも知らないことを誰かに聞くことは”できない”。だって知らないのだから。
分からないことなら「分からない」と質問することができる。逆にいえば、分からないことが見つかれば聞けば分かるかもしれない。
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