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「プロミュージシャンになりたい」という学生に伝える5つのこと

レッスンをしていると、定期的に「プロになりたいです」と相談を受けます。よくある高校生の進路相談です。僕は(小規模でも)プロのミュージシャンなので、仲間が増えるのは喜ばしいし、やりたいという気持ちが芽生えた決意に敬意を評し、全力で応援するようにしています。

そして以下の点を、冷静に伝えます。


1.いま出来ることを、すぐ始めよう

たとえば高校生なら、音楽学校に進学して頑張ろう、と考えて相談してくれる方が多いです。あるいは大学に進学してからしっかりやります!と意気込んでいる等々、場所が変わったら自分も変われると考えているようです。

ですが、プロミュージシャンを目指すのであれば今からスタートしなきゃいけません。少しだけ早起きして楽器の練習をする、寝る前に作曲してみる、音楽を系統的に聴くなど、すぐに出来ることがたくさんあるはずです。
そして、その今すぐスタートできることをミュージシャンはずっと続けているのです。程度の違いはあれ、やっている内容は同じといって過言ではないでしょう。
違いがあるとすれば、出来ることをどれだけの期間、続けられたかです。
今日が一番若い日だと思って、すぐスタートすることを勧めます。


2.音楽だけじゃなく、他の勉強もしよう

いってみればミュージシャンは社長業なので、経営方針を決めたり、会計管理をしたり、程度の違いはあれど音楽以外の雑務をこなす必要があります。スケジュール管理なんかはその最たるものです。

つまり、無限に楽器の練習をして上手くなっても、自分の売り出し方や人との付き合い方を知っていなければ、自立したプロミュージシャンになることはできません。
雑務は外注すればいいと考えているなら、それはそれで結構なことですが、そうするにしても基本的な考え方や方針は自分自身で決めなければならないのは同じです。

学校で勉強することは、それ自体が役に立つとは限りません。ですが、勉強の仕方を学校生活で慣れておくことはとっても重要です。高校卒業までに勉強の仕方を覚えることが大事なのです。
なぜならプロミュージシャンは、研究職でもあるからです。新しい音楽と古い音楽を比較したり、楽譜を読んで理屈を考えたり、作曲や演奏について常に何かを考えています。勉強から逃げられない職業なのです。

だから、興味があるなしに関わらず、音楽以外のことも勉強しておきましょう。
なお追加して言うなら、英語はしっかり勉強しておきましょう。本当に。


3.自炊と家事をしよう

ぶっちゃけると、ほとんどのプロミュージシャンの収入は多くありません。直球でごめんね、ほんとだよ。
時給換算で公務員に勝てるようになるまで、相当のキャリアが必要になります。
それに音楽を続けるには、結構な維持費がかかります。楽器を買う、音源を買う、Macを買う、サブスクで音楽を聴くなど。

そういった経費を、バイトの量を増やして対応している方もたくさんいるようですが、はっきりいってオススメできません。
ミュージシャンにとって楽器の練習や曲作りをする時間は、なによりも重要です。生活費を稼ぐことは大事ですが、それに時間を浪費していては、いつまでも遅れを取ってしまいます。

生活費を節約する意味でも自炊をできるようになり、家事を回せるようになることで音楽活動の経費と時間を作りだすことを勧めています。
ミュージシャンにとっては、お金より時間が重要だということに、できるだけ早く気がつくべきです。


4.家族との関係を良好に保て

家庭の問題については踏み込めない事情の方もいるのですが、だいたいレッスンに来られるような人は親のお金で来ている、という前提でのお話です。

もしプロミュージシャンになりたいと親に伝えるなら、少なからず動揺するはずです。応援したい気持ちと、暮らしていけるのかという不安、あるいは完全に否定される可能性もあります。
家族に否定されながら活動するのは、それをかっこいいと感じる年頃もあるでしょうが、長い目でみれば良策とはいえません。家族にはサポーターになってもらうくらい良好な関係であるべきです。

ではどうすればいいのか?
前述につながりますが、家事を始めるよう勧めています。
親御さんの不安を逆の視点でみると、親は子どもに沢山やってあげてる事がある、それを全部この子がやれるのか?という不安なんだろうと思います。それは仕事や、生活全般、人間関係についての不安です。

仕事や人間関係はともかく、少なくとも生活する力を親に見せることで、随分その不安は和らぐものです。
親が自分にやってくれたことに感謝し、家族との関係を良好に保つよう家事を習慣づけ、家事スキル(多くの学生は家事がスキルであることを知らない!)を磨く事で将来の音楽活動も好転する。
とにかく、家事を始めるよう勧めています。その中できっと、家族との新たなコミュニケーションが生まれるはずです。


5.他人と比べてもいいが、過去の自分と比べよう

音楽というのは残酷なもので、実力の差が歴然と出るものです。
ですが、すごい人と自分を比べて落ち込む必要はありません。過去の自分と比べて成長していれば、いまはそれでOKなのです。

特に若い頃は自己承認されたくて色々悩みがちです。再生数で競い合ったりします。ですが一番大事なのは、音楽を作る(演奏する)にあたり、それが以前より良くなったと自覚できることです。

この以前よりマシになった、良くなったという感覚なしにプロミュージシャンを続けていくことは不可能でしょう。音楽業界は自分との戦いをしながら誰かとも戦う、格闘技みたいな世界でもありますから、自分のやっていることを肯定していかなかいと心が折れてしまいます。

これはプロになるならないに限らず、自分が以前より成長できているかを確認する習慣は、あった方がいいです。
たとえば年に一度は過去の演奏をみて「なんだこの下手っぴは、俺か!?」と顔を真っ赤にする。去年作った曲を聴いて「なんだこのクソミックス、俺か!!?」とがっかりする。
それって、今の自分が成長している証拠です。それでいいんです。
過去の自分と比べる方法を、ぜひ知っておいてほしい。自分で自分を認めながらやっていくしかないのですから。



追記

僕自身は全然すごいミュージシャンではないですが、それでも片田舎で15年も続けられているのです。これは生存戦略みたいなものを早めに学べたからかもしれません。つまり、自分の心が許容できないことに手を出さないということです。僕は誰かと比べられることが極端に苦手だったので、クライアントワーク以外で表舞台に出るのをずっと怖がっていました。臆病なのです。
ですが、臆病な生き物の方が生態系を生き抜いていくのも自然の摂理ですから、この生き方を自分で否定するつもりはありません。たくさんリスクをとっている人は偉いなぁと思いつつ、僕はリスク少なめに生きたい。そういうミュージシャンもいるということです。おかげで収入は少ないですが、まぁ生きてはいけてます。
とはいえ、最近つとに思うのですが、生徒の背中をしっかり押してあげるためにも、僕はもうちょっとリスクをとって前に進んだ方がいいんでしょうね。もっと表舞台に行けるよう頑張りたいと思います。最後まで読んでくれてありがとう。

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