サムネ_

宇宙一大切な物ってなんだ 「マルコと銀河竜」レビュー

※本レビューではネタバレがあります。めちゃくちゃ笑えて感動する作品なので、終わってから本レビューを是非とも読みに来てくださるとありがたいです。

 「マルコと銀河竜」は2月28日に発売されたアドベンチャー(ノベル)ゲームだ。TOKYOTOONが開発を手掛ける作品で、「ノラと皇女と野良猫ハート(のらとと)」を手掛けるクリエイターが多数手集まるスタジオが本作を作り上げた。「カートゥーンアドベンチャーゲーム」という名前の通り、最大の特徴としてカートゥーンパートとノベルパートが合わさりストーリーが進行してゆく。以前までの趣向とは異なりエロ要素を廃し、主人公を含むほとんどのキャラクターが女の子となっている。また、CGは1000枚を超えており、開始してからしばらくの間立ち絵が出てこない(これに関しては本当に驚いた)。圧倒的な物量のアップテンポでストーリーを楽しませてくれる本作は、私にとって2020年における最高の1本になると言い切れる作品であった。


めちゃくちゃかっこいいPV、本作のスピード感が溢れている


一癖も二癖もあるキャラクターたち


 まず最初にメインとなるキャラクターを紹介する。本作の主人公は青いスカジャンに黒髪をなびかせるマルコ。大体のノベルゲーは男の人をメインターゲットとしているため主人公は男のキャラクターであることが多い(感情移入させやすいためだ)。しかし本作の主人公は女の子であり、他のキャラクターもほぼほぼ女の子で構成されている。声はちょっと甲高く、目は点でぶっちゃけ「めちゃくちゃかわいい」とは言えない主人公である点も従来のノベルゲーとは違うという意気込みを感じる要素の一つだ。

スクリーンショット (18)

わたしはこの時点では気付いていなかったが、可愛さに全振りしないこの容姿も「なるほどな」と膝を打つ要素となっている。

 対訳として役回りをするのは銀河竜のアルコ。彼女は人型の時にはだいたい頭から角が生えており、小さいトカゲのような見た目になったり、時には大きな竜へと3形態へと変化するキャラクターだ。マルコの相棒であり親友、銀河でとレジャーハントをするバディである。マルコは1度人さらいにさらわれ奴隷として売られていた。その時に助けてくれたのがアルコで、マルコからすると親のような存在でもある。切っても切れない繋がりがこの2人には存在する。

スクリーンショット (19)

 他にも魅力的なキャラクターは多数登場する。銀河を手中にしようとする「アスタロト」やその娘「ハクア」、アスタロトに仲間を殺され恨みを持つ「ガルグイユ」。どのキャラもぶっ飛んだ設定や性格なのだが、地球にはもっとぶっ飛んだお金持ち姉妹「テラ・イセザキ」、「ラッカ・イセザキ」や蕎麦屋でバイトする元気な少女「瑠璃」。闇医師ならぬ闇歯科医師の「パンダグラフ」などなど多くのキャラクターが登場する。人ではないがブタの顔のような見た目の「非常食」や原付バイク「原」などバラエティに富んでいる。どのキャラもなくてはならない存在だ。

キャラクター


2本を軸に進むストーリー

 ストーリーは序盤のカートゥーンパートでマルコたちが盗む「トカゲ石」を盗んだり盗まれたりしながら進行する。マルコたちは大金を手に入れるため、トカゲ石を取りに行ったが、悪役のアスタロトも狙っており、本作の醍醐味でもあるカートゥーンを使ったアクションを早速体感することになる。同時に、マルコたちは生き別れになってしまった母親に会うため、地球を探し回る。この2本が主なストーリーラインとなっており、様々なドラマが描かれてゆく。

 本作は7時間~8時間程度のボリュームとなっているが、そのなかにテンポの良いストーリーがぎっちりと詰め込まれた。ミニマルな作品ながら、ストーリーはしっりと収束し、終わってみるとどこか心があったかくなる完成度の高さを誇っていると思う。

意味不明1

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ぶっ飛んでいるストーリーは考えたら負け。こんなきれいなビジュアルで全力でふざけに行ってる

カートゥーンもさることながら、見逃してはならないたくさんの魅力

 圧倒的なCGの多さ、細かな街並みや風景が描かれた背景の美しさ、カートゥーンパートのハチャメチャなギャグも素晴らしいが、私は「言葉としての音」が唯一無二の完成度の高さになっていると感じた。アルコの「パタパタパタパタ」という擬音、非常食の「ブヒ」だけのセリフ、マルコなどが発する「早いはやーい」などの連続したセリフ。これらはぶっ飛んだ世界をプレイヤーが飲み込むまでの「間」として用いられていると感じた。はっきり言って非常食はしゃべる必要がないし、トカゲの状態のアルコの羽の音なんて、わざわざ声優さんがセリフとして話すまでもない。

 しかしながら、多彩なCGとこれらのセリフに声優さんたちの演技力が相まることで、止まった立ち絵やCGに”動き”が生まれてくる。人でないからこそ擬音が生まれ、ファンタジーの世界にテンポを生み出す、本作における画期的な要素の一つとなっている。

リズム3

 筆者は、主に「ブヒ」だけで演技する田中貴子さんの演技力の高さと、トカゲ状態のアルコのかわいらしさを声で表現した吉田有里さんの演技に感銘を受けた。本当にすごいと思う。

リズム1

リズム2

ノベルゲーというフォーマットをどう進化さてゆくか

 ノベルゲーは、かなり古くからあるゲームにおけるジャンルの一つで、昔のゲーム機やPCでも遊べるようにスペックはあまり食わないジャンルだ。そのため、昔から中央に話しているキャラクター、下部にダイアログで文章を表示するという形式は今も変わっていない。ゲーム機のスペックは上昇しているにも関わらず、中身が古い。

 ストーリーを読ませることがメインのノベルゲー(アドベンチャーゲーム)がどう進化していくべきか、という問題は目を背けるわけにはいかない死活問題になりつつあるように感じる。

 その問題に対し「マルコと銀河竜」は、見る人を圧倒するビジュアルやCGの物量に特化した。カートゥーンパートもその一つで、ファンタジーというジャンルだからこそなしえる芸当となった。ぶっとんだ世界観だからこそ、デフォルメされたカートゥーン調でも魅力を損なわない。アニメーションは情報量が増えるため、躍動感満載のアクションシーンでは、よりスピード感やテンポの良さが気づかぬうちに溶け込んでいる。

スクリーンショット (1)

 ノベルゲームの問題点でもある「ただただクリックを続ける」という作業的な要素に対し、ストーリーのテンポを上げ、スピードを持たせるというやり方は、新しい答えを示したと言えると思う。

https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2002/28/news033.html
カートゥーンパートに関して「リアリティーレベルを意図して変える」といった狙いがあることもねとらぼさんのインタビューで語っている。

2020年の傑作「マルコと銀河竜」

 恋愛要素を廃した本作は、発売前から期待されていた通り、ノベルゲームの歴史に名を残す作品であったと思う。序盤の笑える要素がふんだんに取り入れられたシナリオは、めちゃめちゅ笑えるし、どんな人にも遊んでほしいと思える完成度の高さに仕上がっている。

 これらを成し遂げたのは、はと氏の脚本や大空樹氏が描く多くのキャラクター、他にもカートゥーンパートの監督を務める土筆山氏だったり、背景を手掛けるたくさんのクリエイターがいたからこそ成り立っている。ぶっ飛んだ世界観に生きるキャラクターを演じた声優さんたちも、キャラクターの個性を大いに引き出す素晴らしい演技力だったと思う。

 最後になるが、クールなカッコよさと、ずぼらなキュートさを併せ持つ2人は銀河最強のコンビであり、プレイヤーなどという因子は必要としない。しかしながら本作はゲームであり、俯瞰するだけでなく一緒にストーリーを読み解くことで成り立つものだ。従来のノベルゲーとは異なるアプローチをとる「マルコと銀河竜」は、ゲームでしかなしえない感動を与えてくれる紛うことなき傑作である。

 筆者のおすすめは初回限定版のパッケージ版、「マルコと銀河竜」好評発売中です。

https://jp.ign.com/marco-and-galaxy-dragon/41580/interview/

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