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シナリオを描いてみよう

 こんにちは、べちかです。 今回は

・ 小説、漫画、映像シナリオ制作などに興味がある人

という方向けに、シナリオの書き方をまとめてみた記事になります。
もちろんこのやり方でなければ書けないというわけでもありませんので、制作のための思考の補助線になれば幸いです。

"おはなし"を考える

 シナリオを作る上で困ることって、極論、2つしかありません。

 1. 何を書くのか
 2. どう書くのか

です。「シナリオを書けるようになる」とは、これらを個別に解決することと言えそうです。

 比較的 解決が簡単なのは「何を書くのか」の方です。
これが出来るかどうかを判別するための簡単な指標があります。
"梗概"を書いてみることです。

 小説賞に応募する際、多くの場合、小説の内容を何百字かにまとめたものが求められます。これが"梗概"です。字数制限があるので、細かな情景描写は含めることができないことがわかります。

 梗概を書く上で抑えるべきポイントは1つだけ。「物語のはじめから終わりまですべて書き出す」ことです。 これが出来る人は、少なくとも「何を書くのか」を捻りだす地力は持っているものと思われます。

物語の背骨 = あらすじを考える

 上手くいかなかった人にお聞きします。突然ですが、桃太郎のあらすじを説明できますか?

 以下はWikipediaから持ってきた桃太郎のあらすじです。

 桃から生まれた桃太郎は、老婆老爺に養われ、鬼ヶ島へ鬼退治に出征、道中遭遇するイヌ、サル、キジをきび団子を褒美に家来とし、鬼の財宝を持ち帰り、郷里に凱旋する
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%83%E5%A4%AA%E9%83%8E

 このあらすじには「桃から生まれて」「鬼を倒す」、「犬、猿、雉を仲間にする」など、桃太郎を桃太郎らしくするディテールが含まれていますね。これらのディテールを省略して、抽象化したらどうなるでしょうか?

主人公が成長し障害を乗り越えて、何かを得る

 少し抽象化しすぎでしょうか? このレベルまで抽象化したストーリーの骨子を、僕は勝手に「物語の背骨」と呼んでいます。注目したいのは、肉付きが異なるだけで共通の背骨を持ったお話の存在です。

 例えばこの背骨に「男の子はゼウスの子」「十二の難行を経る」、「罪を償う」という肉を付け加えるとヘラクレスの逸話になります。 「異世界に迷い込んだ女の子」「心の成長を経る」「元の世界に戻る」だと"千と千尋の神隠し"になるでしょう。これらの作品は既にエンタメ作品として十分な強度を持った背骨ですから、実用に耐えうる大筋が得られるというわけです。

 好きな作品をいくつか分析して、背骨を抽出・ストックしましょう。既存の背骨に独自の肉をつけていくというスタンスをとると、お話は格段に作りやすくなります。

心臓を据える = テーマを設定する

 さて、背骨リストを手に入れたら、具体的な肉付けをする前に考えたほうがいいことがあります。それはこのシナリオで読者に何を感じてもらいたいのか、つまり物語のテーマの設定です。

 あらすじを「背骨」に例えましたので、テーマは「心臓」に例えることにしましょう。

 また桃太郎で考えてみます。桃太郎のテーマはなんでしょう?

 例えば、桃太郎を"正義の桃太郎が悪いことをしている鬼を懲らしめる、「勧善懲悪」の物語"と捉える向きがあります。このテーマを軸にするなら、読者に感じ取ってほしい感想は「正義は勝つ!」になると思います。

 ということはこのテーマに適した肉付けは、「鬼がいかに悪い存在なのか」に焦点を絞ったものになるでしょう。その方が狙った感想を導きやすくなりますよね。逆に「実は鬼にも人を襲わなければならない事情があった」としてしまうと読後感が変わってしまいます。

 心臓と合わない背骨や肉付けをするとテーマがブレてしまうということです。シナリオ全体が伝えるメッセージを整えるために、展開に困ったら判断の指針となるテーマ=心臓を設定しましょう。

 心臓を複数持つシナリオを作ることもできますが、あまり多く設定するのはお勧めできません。最低1つ、多くとも2つか3つ程度にするのが良さそうです。

 「見る人がそのテーマを求めているか?」ということも検討の余地があります。例えば「正義は必ず勝つ」というテーマはありふれていて、スレた見る人には全く響かない可能性があるでしょう。一方で「悪が勝つ」というお話は物珍しくとも、多数派の共感は得られないかもしれません。

筋肉を盛る = 世界観とキャラクターを設定する

 あらすじとテーマが手に入ったので、一度抽象化して取り出した背骨に再度肉付けして具体化していくフェーズに入ります。キャラクターと世界観の検討です。

 物語を実際に動かす原動力になるのは、シナリオ世界の中で実際に行動する登場人物であり、それを支える世界観です。人体に例えるなら筋肉でしょうか。

 設定を考えるのはオタク的にはとても楽しい作業ですが、苦手な人のために1つテクニックを紹介します。「ランダム刺激」という方法です。

 例えば古代中国には亀の甲羅をもとに神意を探る「亀卜」という占いがありました。亀の甲羅のヒビというランダムなインプット(=ランダマイザ)を元に、何らかの解釈を導きだそうという試みです。

 落語には客にその場で出してもらった題目三つを織り込んで即興で話を作る「三題噺」という演じ方があります。これは客の発想をランダマイザにした、実践的な応用方法と言えるでしょう。

 このようなランダムな刺激からインスピレーションを得ることでアウトプットに想定外の幅を生み出すことができます。

 ランダム刺激の種は解釈に自由度がありバラエティに富んだものが向いています。タロットカードやWikipediaのランダム検索などよいでしょう。

 実際的にはランダマイズしたい事柄リストと併用することになります。大塚英志氏は著作「物語の体操」の中で、独自のランダマイザとともに、主人公の現在、過去、未来、援助者、敵対者、結末の6項目をランダム生成しておはなしづくりをする練習を勧めています。

 もちろんすべてをランダム生成しなければいけないわけではありません。どうしても入れたい存在(自分が考える最も魅力的な主人公!)は決め打ちしても構いません。

 余談ながら、ランダマイザの解釈は世界観に影響を受けます。例えば「主人公の最大の障害が公権力」だという設定がランダム生成されたとしましょう。世界観がSFならば宇宙警察で星ごと悪者を破壊するような方法で主人公を阻んでくるかもしれませんが、これが日常ものだったら「主人公が悪さをしないか目を光らせているお巡りさん」になるでしょう。

骨格を捉える = プロットを作る

 何を書くか、は決まりました。ここからは徐々に、どう書くかの世界に足を踏み入れていきます。ここで意識しなければならないのは「最後まで読ませるためにはどうすればいいか?」ということです。

 読み手は本来、シナリオに最後まで付き合う必然性がありませんので、面白くなければ平気で途中で離脱してしまいます。

 映画ではこれを回避するために「三幕構成」という考え方で、自然に視聴者をシナリオに引き込む工夫をしています。ここでいう三幕とは

1. 状況説明:登場人物や背景、のちの対立パートに必要な背景を説明する
2. 対立:状況説明が終わり、主人公が行動を始める
3. 解決:対立パートで緊張が高まり、最大の障害を越えて物語が決着する

の3パートのことです。少し詳しく説明しておきましょう。

 状況説明パートでは、登場人物、場面設定、作品のトーン、物語全体を通した主人公の最終目的などを示す導入のパートです。読み手に飽きさせないために、登場人物が何かやってくれそうな期待感や、魅力的な世界観を匂わせます。

 対立パートでは、この「対象」を得るために主人公が行動しはじめます。
この段階では主人公は能動的ではなく、状況に動かされた結果「対象」に向かっていくだけかもしれません。数々の障害を経て、主人公は問題解決に向けてどんどん能動的になっていきます。しかし主人公の健闘むなしく、問題がどんどん複雑に連鎖して、主人公は振り回されます。

 解決パートでは、対立パートで膨らんだ障害を一心不乱に乗り越えて、解決に向かいます。

 つまり三幕構成とは、主人公が最終的に得る「目標」に向けての旅路を

状況説明:主人公が目標を認識する、障害を匂わせる
対立:目標への旅路に主人公が巻きこまれ、徐々に主体的に変化する
解決:連鎖・膨張した問題にケリをつけ、目標に到達する

 というふうに、主人公と目標の関係性の変化を捉えたもの、と言い換えることもできそうです。

ツボを探る = プロットポイントの設定

 さて、パートの進行に従って主人公のスタンスが変化するということは、その節目では主人公の行動変化の引き金になった出来事があるはず。このようなシナリオのツボを「プロットポイント」と呼びます。

 例えば、「状況説明」と「対立」の間には、状況説明が終わって主人公が事件に巻き込まれるきっかけになるようなトリガーがあるはずです。映画では開幕からだいたい25%くらいの位置に配置されていることが多いです。

 この時点で主人公は本格的に事件に巻き込まれていくわけですが、とするとこれより前、状況説明の段で「このあとこういうトラブルに巻き込まれそうだ」と予感させる布石も打っておくべきです。布石のほうをインサイティングイベント、本格的に巻き込まれるほうをキーイベントと言います。

 「対立」パートに遷移してからは主人公を振り回すイベントが次々に発生します。クライマックスにつなげるために、最初は反応的だった主人公が問題に対して主体的になるきっかけが起こります。問題が深刻化する中で、主人公が「このままではだめだ、やり方を変えなければ」と気づくような出来事です。これをミッドポイントと呼びます。これは物語全体の50%くらいの位置によく置かれています。

 主人公のスタンスを決定的に変えるためには、直前に敵対者にの脅威を描き出すのが非常に便利です。このようなほのめかしの布石をピンチポイントと呼びます。

 「対立」と「解決」の間で、更に主人公を追い込むようなイベントが配置されていることもよくあります。ミッドポイントで戦略を変えた主人公ですが、そんな表面的な変化ではなく、自分の弱さを見つめ直し、受け入れて、立ち上がり直す「破壊と再生」のようなイベントです。

 「破壊と再生」イベントが起きたら、その勢いのままクライマックスまで一直線に走り抜ければよいでしょう。

表皮を貼る = プロットをシーンに変換する

 特に「対立」パートを描き出すために重要な考え方を補足します。それは「シーンとは何か?」という問いと、「災難の連鎖」という考え方です。

 シーンとは、端的に言うと「何が起こるのか」「キャラクターが起こったことにどうリアクションするのか?」の組み合わせです。

 プロットから逆算して考えてみましょう。主人公には最終的な目的があります。一足飛びにこの目的には到達できないので、大目的を分割した小目的を各シーンでクリアしたいのです。しかしスルッと目標達成できてしまうとエンタメとして面白くありませんから、何らかの障害 = 災難を発生させて緊張感を生み出します。

 重要なのは、道中ではこの災難への対応をすんなりいかない形で決着させることです。それは、それ自体を次のシーンの障害にシームレスに繋ぐことができるからです。

 得たいものが得られない、だから別の方法を考える。得た代わりに何かを失ってしまった、だからこれを取り戻す。表面上上手くいったように見えたが実は問題を深刻化させてしまった、だからあとの災難をドラマティックに描き出すことができる。「災難を連鎖」させることで緊張感を高め、クライマックスまで繋いでいきます。

 これらのジレンマを描き出すために、上手に登場人物や舞台背景を使ってあげましょう。例えばロード・オブ・ザ・リングの魔法の指輪(フロドに力を与える代わりに敵を呼び寄せ、精神をさいなむ)や、ルパン三世の峰不二子(ルパンを誘惑し、問題解決のために必要な助力をしてくれるが、裏切ることもある)などは「災難の連鎖」という点においては非常に強力で魅力的なギミックと言えるでしょう。

身長と体格 = シナリオの長さと緊張グラフの関係

 さて、このような形でシナリオを描き出していくわけですが、実は私はここまで、大きな問題を無視したまま説明してきています。それは小説も映画もマンガもアニメも全部いっしょくたに解説してしまっていることです。当然ながらメディアの形態によって描き出し方も違ってきます。

 それは単純に映画なら具体的な絵として情景描写や動きを書けるとか、小説なら読者の想像力に頼って端折ることもできるだろうとかそういう話だけではありません。メディアごとの尺制限の話です。

 例えばジャンプで週刊連載をすることを考えてみましょう。1週間に1話ずつ、細かく配信されるわけですから、物語全体のプロットとは別に、1話ごとのエンタメ的な緊張の起伏が必要になるはずです。

 一方、映画は(特に映画館だと、よっぽどの駄作でなければ)一度見始めさせたら2,3時間は作品に集中させることができます。じっくりと緊張感を高めるような作品作りも可能になります。

 そして、当然ながら物語の全体尺が長いほど、大きな感情の起伏を生み出すことができる素地があります。例えば「心ないロボットが人間との愛に目覚め、主人公と大恋愛をして、人類全体の考え方が変わっていく」みたいな壮大なテーマ、ストーリーを5分で描き出せ!ってなかなか至難ですよね。

 メディア = パッケージが先に決まっている場合には適したサイズのテーマ、舞台や背景描写を選び出すこと。あるいはその逆で、テーマに適したサイズ感のメディアを選択する、というのもカギになるかもしれません。

最後に

 いかがでしたでしょうか。シナリオを構造的にとらえることで、ずいぶん書き出しやすくなったのではないでしょうか。これからシナリオ制作を目指される方の、一助になりましたら幸いです。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

参考書籍

ストーリーメーカー 創作のための物語論
荒木飛呂彦の漫画術
ストラクチャーから書く小説再入門
アイデア大全
千の顔をもつ英雄(上)
物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術
(順不同)

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