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バングラデシュ動向ニュース 2024年8月12日 【暫定政権の始動とALの動き】

ノーベル賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が率いる暫定政権が始動した。社会の動きを現地紙報道から伝える。

<社会活動の再開>8月11日日曜日。全国的な抗議行動や衝突の影響で数週間にわたって業務を停止せざるを得なかった多くの企業が通常業務を再開。ダッカ市内では大きな交通渋滞が発生した。
貨物鉄道の運行も3週間ぶりに再開されたほか、長距離列車の運行も徐々にダイヤどおりになる予定。ダッカメトロは今週土曜日から再開されるが、施設の一部が破壊された2駅(ミルプール10駅とカジパラ駅)は当面利用できない。7月18日以来閉鎖されていたダッカ市内の高速道路も11日から一部の通行が可能になった。
警察署の多くも通常業務を再開したと報道されているが、いまだに多くの警察官が市民からの報復を恐れており、法執行機関の正常化はなお時間がかかる見込みである。

<学生や職員らによる組織トップの辞任要求>中央銀行総裁らが職員からの辞任要求を受けて退陣した流れが、裁判所、大学、行政機関に広がっている。最高裁では学生らが敷地で抗議集会を開き最高裁判所長官およびその他の裁判官が辞任。ダッカ大学学長、クミッラ大学学長らが辞任した他、一部の銀行、バングラアカデミー、電気通信規制委員会などでも同様の動きが起きている。

<アワミ連盟の抵抗の動き>ハシナ前首相の辞任で一気に苦境に追いやられたアワミ連盟(AL)関係者関係者の抵抗の動きが伝えられている。
ハシナ前首相の息子で米国在住のサジブ氏は積極的にSNSで発信。「母(ハシナ前首相)は官邸から早急に逃げる必要があったので(大統領に)辞任を伝える時間的余裕はなかった。よって手続き的に辞任はしていない」と指摘したほか、行政組織トップの退陣要求の動きが続いていることについて「これらの行動は暴挙に等しい」と批判した。またNDTVなどのインドメディアにリモートで出演し、ハシナ前首相を擁護する主張を繰り返し述べた。
バングラデシュ南西部ゴパルガンジ県ではアワミ連盟関係者が数千人集まり、軍との衝突があったと伝えられている。ゴパルガンジはハシナ前首相一家の出身地であり、父であるムジブル・ラフマンの墓地があるいわばアワミ連盟のお膝元である。
インドに逃亡しているハシナは、インドメディアを通じて党員や活動家にメッセージを送り、外国勢力、特に米国が追放劇の背後にいると主張した。

<8月15日>また、ハシナ前首相はアワミ連盟メンバーに対して、8月15日の「喪の日(父のムジブル・ラフマンが暗殺された日)」に例年のように国民追悼の集会を行うべきだと伝えたとされる。ダッカ市ダンモンディ32番通りにあるバンガバンドゥ記念博物館はハシナ前首相が逃亡後、暴徒によって略奪、破壊、放火されたままになっているが、アワミ連盟関係者による集会が行われる場合、なんらかの衝突が起きる可能性もある。

<BNP関係者の復帰>BNPの常任委員会メンバーで、かつてスポークスマンも務めたサラフディン・アハメド氏が長く隠遁生活を強いられていたインドから帰国。幹部らが空港で出迎えて歓迎パレートの様相を呈した。BNPにとっては知名度の高いメンバーがカムバックすることで勢いが増す。来たるべき選挙と政権奪回に向けて党の体制建て直しを急いでいる。

【解説】
ユヌス首席顧問の乗る車両がダッカ市内の交通渋滞に巻き込まれる映像がSNSで拡散された。これまでならVVIPである大統領や首相の移動の際には完全な交通規制が敷かれ、車両や市民はただ黙って待つしかなかっただけに、政権トップの行動様式は世間には好意的に受け止められている。
しかし、本来の改革が着実に行われているのかは気になるところだ。急ごしらえの暫定政権に、どれだけの実行力、バランス感覚、リーダーシップがあるのか。それを占う1週間であり、山積みの課題に対して即効性のある対策が矢継ぎ早に発表されてしかるべき期間だ。しかし、ユヌス首席顧問は抗議行動中に警察官に銃殺された学生の家族の弔問のために地方を訪れ、半日以上を費やした。暫定政権メンバーである学生活動家はSNS投稿で最高裁長官の辞任要求をあおり、学生らの抗議行動中にインターネットを遮断した責任を追及する姿勢をみせるなど、やや情緒的な動きが目立つ。
なにより国民への発信が十分でなく、暫定政権が何を目指しているのか、重要政策のタイムフレームについても十分な説明がない。なによりユヌス氏のリーダーシップと実務能力に加え、暫定政権内のチームワークが保たれるのかが注目される。

今後、アワミ連盟は、(ハシナが正式に辞任をしなかったことによる)暫定政権の正統性や合法性、(学生や職員の抗議という手段による)高官の追放など、暫定政権の存在そのものや社会の動きを批判するだろう。対抗心からくるものだとしてもこういった真正面からの指摘は、暫定政権にボディブローのように徐々に効いてくるはずだ。今年中にも行われるかもしれない議会選挙に向けて、アワミ連盟をどう扱うのかは、暫定政権にとって悩みの種になるだろう。

警察の機能回復も喫緊の課題だ。ダッカ市内の交通整理は学生らのボランティア作業から徐々に交通警察に引き渡されているが、市民生活を守るための警察活動の再開はまだ鈍い。地方では刑務所からの脱走騒ぎも相次いでいる。ダッカ市内で比較的富裕層が多いグルシャン地区で住民が車両で自衛団的に活動する姿もみられている。警察内部では警察官によるストライキも起きた。制服の変更(市民イメージを変えるため)、抗議行動中に起きた同僚の殺害事件の徹底調査、死亡した警察官家族らへの補償、昇進における透明性の確保などを要求して、いずれも受け入れられた模様だ。