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カイゴはツライ?第7話~暇と時間をもてあます夜勤に苦痛をおぼえる

はじめて夜勤見習いをしたとき、その拘束時間の長さと業務内容の薄さにユリは驚き、あきれた。夕方4時から次の日の朝9時までの17時間で、仮眠は1時間半である。夕食休憩は時間の空いたときに適当にとることになっている。ユリが勤務する施設は定員9~10名のユニットが10あり、2・3階はユニットが3つなので夜勤者は2名、4・5階はユニットが2つなので夜勤者は1名だ。仮眠は交代でとっている。夜勤者のいないユニットには夜8時まで遅番の職員がいて、朝7時には早番の職員が来る。オムツ交換は夜間は2回ほどで、各ユニットに交換が必要な利用者は2~4人ほどしかいない。認知症があり眠れず動き回る利用者の対応などもしなければいけないが、数は多くない。正直なところ暇をもてあましている状態だ。気の張る先輩職員や苦手な職員との夜勤は苦痛である。もっとも驚いたことは、巡視が義務づけられておらずチェック表などもないことだった。寝たきりで意思の疎通もできない人はちょっと見たぐらいでは、生きているのか死んでいるのかもわからない。それなのに巡視もしなくていいなんて、なんだか納得がいかなかった。先輩職員も、転倒の危険がある利用者の居室は注意してみていたようだが、睡眠中の異常や生死の確認にはあまり注意をはらっていなかった。ユリが勤務する2階では、夜勤者は真ん中にあるステーションに待機することになっている。ナースコールが確実に聞こえる場所ではあるが、オムツ交換や利用者の対応以外まったくステーションから動かず、パソコンに向かいっぱなしの職員もいて、どうやら夜勤帯は内職時間として有効活用されているようだった。先輩職員がステーションにどっかり腰を下ろしていたのでは気詰まりでしょうがないので、ユリはよく「ちょっと見てきます」と言ってフロアを回った。洗濯物をたたんだり、掲示物をみているほうがよほど気が楽である。一度なかなか寝ようとしない認知症のおばあさんがいて、ベッドに添い寝をしたことがあった。仰向けになった状態で見える壁や天井は真っ白で息が詰まりそうであった。そして空虚でさびしかった。家庭的ケアを実践しているはずのユニット型特養だが、居室に私物を置いている人は少ない。8~10畳ほどの真っ白な部屋にベッドと箪笥だけが置いてあるその空間はほんとうに肌寒い光景だった。それでもユリはステーションに戻りたくなく、白い壁と天井をしばらくの間眺めていた。

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