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橋と渡り鳥と、おじさんと

夏の家族旅行で沖縄に行って、もう1ヵ月経つけれど忘れられない時間がある。

4泊の滞在のうち、2日目以降は朝の散歩に行っていたのだけど
2日目は旦那さんの朝釣りに同行して海辺へ

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3日目と4日目は古宇利大橋へ。
2年前に古宇利島に初めていったときからずっと、本島から島にかかるこの橋の虜だった。車で渡りながら、いつか歩いて渡りたい、と思っていたのが今夏叶えられた。
全長約2Km、距離的には大したことないのだけど、海の上を真っ直ぐにかかるこの橋には晴れた日の昼間の日陰は皆無で、夜も街灯が少ないから真っ暗になる。
早朝ならば、と朝6時前に起きて決行してきた。

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小さな達成感、でも2年越しの夢が叶えられて本当にうれしかった。
途中、海までの落差が結構あるので足がすくむけど、360℃シービューの気持ち良さったらなくて、これはこの時間にここに居るからこそ、と言う気分になる。だから、思わず2日間連続で。

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初日の復路、橋の真ん中あたりにごつい望遠レンズを持ったおじさんがいた。軽トラにビーサン、島のひとのような風貌だけどカメラはバリバリ。そのギャップがなんだか格好良くて印象に残ってた。

翌日、また橋の真ん中あたりまで歩いていくとそのおじさんに再会。
目が合ったのでお互い朝の挨拶を交わしたら「虹が出てるよ」と、わたしの後ろを指さしながらおじさんが教えてくれた。

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歩き出したときにパラついていた小雨が上がって、太陽が昇ってきたところで、わたしが散歩をスタートした屋我地島のほうに綺麗な虹がかかってた。
わたしもカメラを持ってたから、一緒に写真を撮りながらカメラの話の延長で、立派な望遠レンズは渡り鳥を撮るためだと話してくれた。

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エリグロアジサシと、ベニアジサシ。
この2種の渡り鳥がもう何十年も沖縄のこの古宇利島近辺を産卵場所にしているそう。どちらの鳥たちも、ちょうど古宇利大橋の欄干で産卵し、生まれ育ってひと夏の間にこの辺りの海で飛ぶ練習をする。そうして時期が来ると、エリグロアジサシはインドネシアへ、ベニアジサシはオーストラリアまで渡ってゆく。
何千キロもの距離を飛んで、また数年経って成鳥となりこの橋のもとへと戻ってきて、産卵するのだそう。

その生態を調査するために、雛鳥のときに足に小さな小さな番号札のようなチップを着ける。飛ぶときに邪魔にならないほど小さく軽い印、でも確実にその鳥がインドネシアやオーストラリアで成長し、沖縄に戻ってきたことが分別できるような、必要十分な情報を鳥たちに装着する。深夜に、鳥たちの棲家に行って素早く。

おじさんは、数年前の雛鳥に着けた番号が、いま飛んでいる鳥たちから確認できるかを見るために、その立派な望遠レンズを使って撮影しているのだと話してくれた。

今年もね、数羽に数年前に着けた印が確認できたんだよ。
ロマンある話、まるで我が子のようなんだ、と目尻を下げるおじさん。そんなふうに想われてる渡り鳥は、幸せだね。

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数万Km・数年のスパンで、命がけの旅を経た鳥と再会する悦びを優しい目で訥々と話してくれた。こんな作業をたくさんの工夫を重ねながらもう半世紀近く続けてる。2年前と比べても古宇利島の変貌ぶりに驚いたわたしからすると、島々が驚くほど変化してきたのをつぶさに見てきたんだろうな、と思う。
この橋が出来て大きく変わり、そしてここ数年のインバウンド需要でさらに変わった。おじさんは穏やかに事実を淡々と語ってくれて、大袈裟な表現や自分の感情を大きく入れない語りだからこそ、現実味をもってその情景が自分の中に沁み込んでくるような気がした。

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ウミガメも見えるんだよ、と橋の上からふたりでウミガメが泳ぐ様子を覗き込んだり、あなた昨日も来てたよね、と昨日からわたしの姿を認識してくれていたようで、家族で滞在してるけど子どもたちは寝てるからひとり散歩しに来たという話をしたり。

おじさんとの立ち話はほんの20~30分ほど。陽が高くなってきたからそろそろ、と別れる間際に

「またこの渡り鳥に会いに来てあげて。ちょっと遠いしお金もかかるけど。」
そう言ってはにかんでくれたおじさんの顔がとても印象的で、そしてその言葉があまりに柔らかくて今でもわたしの中で温かくリフレインしてる。

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楽しいけど、家事から解放されない疲れとやるせなさを感じてたときの、おじさんとの会話。
波長が合うかどうかは、付き合いの長さや環境の共通点だけじゃないんだなと感じて、おじさんの持つエネルギーにすっかり気持ちを整えてもらった感覚があった。

命がけの旅路を経て、誰に教えられたわけでもないのにまたここに戻ってくる渡り鳥。
そして、その渡り鳥の無事を祈って静かに生態を見守るおじさん。
大きな懐のように広がる古宇利の海があって、また次の世代を繋げるために産卵場所となる橋がある。

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どれもがすべて、不可欠。
いい世界だなと思った。



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