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【訂正版】経口中絶薬とは?副作用は?価格は?日本産婦人科医会に直接、話を聞いた。

 2021年12月、製薬会社「ラインファーマ」(イギリス)が、経口中絶薬の日本国内での使用承認を申請した。SNSでも経口中絶薬について話題となり、一時はトレンドに上がるほどであった。

 社会問題に広く関心がある私は、この話題について取材を試みた。様々な取材先を検討した結果、日本産婦人科医会(以下、医会)に取材を申し込んだ。

 当初は、取材に応じてもらえるなどと思っていなかったものの、取材に応じていただけることに。対応いただいたのは医会の幹事長を務める、北里大学北里研究所病院 婦人科石谷健(いしたに けん)医師。なんと経口中絶薬の価格に関し、医会が情報提供するのは初めてだという。色々とお話を伺った。

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 (小林)この度は取材を受けていただき、誠にありがとうございます。まず質問なのですが、そもそも経口中絶薬とはどういったものなのでしょうか。

(石谷医師)「ミフェプリストン」という妊娠のホルモンを抑える薬と、「ミソプロストール」という子宮を収縮させる薬との組み合わせで薬を服用することで、妊娠初期(妊娠9週0日まで)の人工妊娠中絶が可能となります。

 妊娠初期の中絶には、手術による方法(※1搔爬法または※2吸引法とも呼ばれています)と薬による中絶方法がありますが、経口中絶薬は薬による中絶方法で用いられます。

 ※1搔爬法ーそうはほう。子宮内部から「かきだす」手術方法のこと。
 ※2吸引法ー管・チューブのようなものを用い、吸引する手術方法のこと。

 国内では、早くて2022年秋以降に販売が予定されています。インターネットで購入しても個人輸入禁止薬物として規制がかかっており、個人での入手はできません。

 母体保護法指定医師がいる医療施設内で最初のミフェプリストン1錠を服用し、服用36~48時間後に2つ目のミソプロストールを口の中(両頬に2錠ずつ合計4錠)に30分間含んだ後、飲み込みます。

 そしてミソプロストールを服用して8時間以内に、約9割の人は中絶が完了します。(子宮内容物が排出される)

 (小林)副作用にはどういったものがあるのでしょうか。

(石谷医師)比較的頻度が多いものとして、腹痛(30%)や嘔吐(20%)がみられます。他にも、出血が多くて貧血になる場合や、薬剤のみでは完全に排出されず、手術による中絶方法が追加で必要となる方も約1割ほどいます。

 ちなみに、「中絶手術では、術後に出血が多く大変だった」との患者さんの話を報道したマスコミもありましたが、実際には薬による中絶の方が出血量は多い傾向にあります。

 また、中絶が完了するまでの間に腹痛の持続などを感じ、「胎児が含まれた血の塊が比較的多量に排出される状態」を見てしまうデメリットがあります。これは無意識の状態で臨む中絶手術と異なる点です。

※(修正前は以下の文言で掲載していましたが、医会から訂正がありました。)

 また麻酔の効果が出ているなか、中絶が完了するまでの間に腹痛の持続などを感じ、「胎児が含まれた血の塊が比較的多量に排出される状態」を見てしまうデメリットがあります。これは無意識の状態で臨む中絶手術と異なる点です。

 (小林)医会の木下勝之会長は、同薬について「相応の管理料が必要」とメディアの取材に答えています。その価格は10万円ともいわれており、価格が高すぎてなかなか服用できず、手を出しにくい可能性も含まれます。

 一方で、価格が安すぎると「薬があるから大丈夫」と安易な考えに陥りやすいのもまた、理解できます。そこで個人的な質問なのですが、医会として「もう少し安価で提供するよう働きかけるなどのお考え」はあるのでしょうか。


(石谷医師)自由診療である人工妊娠中絶は、個々の医療施設の判断によって価格設定がなされます。   
 よって、価格について日本産婦人科医会が介入する余地はなく、経口中絶薬について製薬会社や医療機関に安価で提供する働きかけを行うことは不可能です。

 薬による中絶方法といっても、経口中絶薬の薬代だけしかかからないということではありません。
 国内での治験(臨床試験)では、安全性の観点から全例入院で行う規制当局の指示があったように、治療前後の診察・検査や経過観察が必須となります。

 さらに大量出血や約1割の方には、排出されなかった場合の追加手術も必要となります。そうすると…

薬代約5万円+「相応の管理料」として診察・検査(+追加手術)費用

がかかります。合計で約10万円くらいになることは予想可能であり、これでも従来の手術による中絶方法よりも若干、安くなると考えられています。

 経口中絶薬の薬代も海外では約300ドルとなっていますが、治験はほとんど行われていません。日本では安全性を重視し、多額の費用を投じて十分な治験を行っています。
 そのため製薬会社が販売継続可能となるには、採算面を考えると約5万円前後になるだろうと推計されます。

 確かに海外の一部の国々では、無料~数千円(報道では740円)の安価で経口中絶薬を利用できるとされています。

 しかしそれは経口中絶薬に限らず、手術による中絶も含めて手厚い公費補助があり、自己負担額が少ないだけで、経口中絶薬の値段が約300ドルであることに変わりはありません。

 これらの事情から、「開業医の権益を守る」とか「安易な中絶を助長させない」ため、医会が薬による中絶費用を「10万円」と言っているのではなく、「国内での経口中絶薬の提供を持続可能とするうえで必要な費用の目安」としてご理解いただけると思います。

 (小林)「目安」としての費用という意味なのですね。

(石谷医師)はい。その通りです。
 また医会ではこれまでに強制性交(レイプ)によって妊娠してしまい、人工妊娠中絶に至った場合にかかる中絶費用の公費補助を拡充する働きかけを行ってきました。
 現在では多くの都道府県で警察予算による全額公費補助が受けられるようになり、経口中絶薬についても、治験計画段階から年余にわたって協力していますし、販売後も安全な運用により国内で普及継続できるようサポートしていきます。

 乳幼児虐待等の予防の観点からも、人工妊娠中絶の費用について自己負担額が少ないに越したことはありませんが、一部の海外の国々のように全ての人工妊娠中絶に公費を投入し、自己負担額を少なくすることについて、納税者である国民の理解を得ることは現段階で難しいと考えています。 

 まずはしっかりとした性教育を学校で行い、望まない妊娠を回避する(中絶を繰り返さない)ことが大切で、そのうえで経済的弱者や全ての人工妊娠中絶に対する公的なサポート(費用はもちろん、中絶後の避妊指導や心理的ケア)の充実が望まれます。

 (小林)最後に、同薬について読者の方々に何かお伝えしたいことがあれば教えてください。

(石谷医師)経口中絶薬は「患者さん自身や子宮への負担感のある手術をしなくて済む」という点では大変メリットのある薬剤ではありますが、副作用などのデメリットも無視できません。

 手術による方法、薬による方法、いずれも安価で自由に選択可能な一部の海外の国々では、半々の選択状況となっています。 
 限られた時間内で人工妊娠中絶を選択するだけでも大変辛いことですが、母体保護法指定医師の先生と十分相談のうえ、自分に合った納得のできる治療法を選択してください。

 (小林)取材は以上となります。ご協力いただきありがとうございました。

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 この度、取材にご協力いただいた日本産婦人科医会、そして取材に対応いただいた石谷健医師に大変感謝申し上げる。
 人工妊娠中絶。そして経口中絶薬…今後どのように話が進むのか注視したいところだ。


サポートして頂けたら嬉しいな。