わたしの愛した「てるみり」 〈後編〉

愛し合う演目に恵まれなかった宙組トップコンビ、てるみり。
このコンビを追っていた頃がわたしの宝塚ファンとしての青春時代だった。

先に「仲睦まじいというより師匠と弟子のように厳しい関係に見えるトップコンビだった」と書いた。そのようなふたりをなぜこれだけ愛して追いかけたのか。
それは、ごく稀に見せるふたりのグッと近い距離のやり取りが、あまりにも尊かったからだ。
それはある意味「ツンデレ」に近いものがあったのかもしれない。ツンが98%位を占めていたけれど。
そのたった2%のデレの威力が、それはもう半端なかったのだ。

凰稀かなめは厳しくストイックなトップスターだったが、本来の彼女の性質は末っ子気質のおちゃめで可愛らしい女性だ。わたしが彼女に心を掴まれたのは、銀河英雄伝説の上演中に男役7名で出演した『嵐にしやがれ』というテレビバラエティでの、両手を口に当てて可愛らしく微笑む彼女だった。男役の姿とのギャップにやられたのだ。
トップとして出演する宝塚の公式映像などではキリッとした姿が多く見られたが、たまに漏れる素の彼女がわたしは好きだった。

そしてある日事件が起きる。
宝塚GRAPH事件である。

宝塚GRAPHは劇団発行の雑誌でタカラジェンヌのさまざまな記事が見られるが、その号ではトップコンビのテーマ記事があり宙組のトップコンビ特集だった。そこで掲載されていたてるみりコンビの写真とインタビューが、そりゃもう凄かった。ここに全部転載したいくらいだができないのがもどかしい。カジュアルなスタイルでヤンチャな雰囲気の凰稀かなめ……というより「りかさん」と、ベレー帽でゆるっと可愛い女の子な実咲凜音というより「りおん」。余談だが実咲凜音の愛称はみりおんなのだけど、かなめさまだけは「りおん」と呼ぶ。これも素晴らしいデレポイントである。
とにかくこの特集でのふたりが可愛くて可愛くて可愛くて、インタビューも初々しくて、わたしたちは萌え滾ってしまった。てるみりコンビに心を奪われた瞬間だった。
ひとつだけ書くと、みりおんはかなめさまの美しさに慣れるためにお部屋にかなめさまの写真を大量に貼っているというエピソードが披露されていた。

なにそれ可愛い!!!!!!!!!

みりおんってなんて愛おしい子なの!!!!!!!!

今でもてるみりファン仲間の中では「GRAPH」といえばこの号のことである。

そしてこの時期上演されていたAmour de 99‼︎というショーでのデュエットダンスがとても良かった。少しお芝居がかった振り付けで、かなめさまのアプローチにみりおんがツンっとしてみたり、みりおんが甘えてみてもかなめさまがぷいっと離れたりする。でも、しゅんとしたみりおんをかなめさまが後ろからギュッと抱きしめ、ダンスが始まるのだ。キャーーーーー!!!
我々の中では「ツンデレデュエダン」と呼んでいる名場面だ。

しかしてるみりの供給はここからしばらく止まる。
演目に絡みが少ないため、公式の座談会やトーク番組でもあまりエピソードが生まれない。ツーショットもトップコンビだから無理やり撮ったみたいなのがたまにあるくらい。わたしたちはそれでも目を皿のようにして探した。みりおんの口から「りかさん」と出ると喜び、かなめさまの口から「りおん」と出ると萌え転がって歓喜する。しかしわたしたちはなかなか報われなかった。同期である緒月遠麻(きたさん)とのエピソードの方が圧倒的に多く、雪組からの仲である「きたてる」の方がはるかにトップコンビのようだった。

わたしたちはスカイステージの映像をコマ送りしながら、かなめさまとみりおんの目が合う瞬間を探したものだった。そうしていると嫌が応にも二人の関係性が開いていることを感じる。その理由は前に述べた演目上での関係性の変化だったと思う。
しかし、わたしはかなめさまのお茶会(ファンクラブで開催する、非公式のファンミーティングのようなもの)に毎回参加していて、そこにはいつもみりおんからのお手紙が届けられていたのを知っている。毎回「大好きです」と健気にお手紙を書いてくれる相手役さんは可愛いものだ。いつの間にかかなめさまと同じくらいみりおんのことが大好きになり、彼女のお茶会にも通うようになった。
みりおんの口から語られる「りかさん」は厳しくもあたたかい先輩として指導していることが窺えた。そんなストイックなところが憎らしくも彼女らしいと思えた。

前にも書いたが、不仲では決してなかったと思う。
ただ、愛し合うような役がなく、そうなると組の顔である二人として先輩が後輩に厳しくなってしまう、そういうことなのだと思う。

そんな中で迎えた凰稀かなめの退団公演『白夜の誓い/Phoenix 宝塚‼︎』。
たった5作の本公演でショーは2本しかなかった。2本とも藤井大介演出作品だった。どちらもいい作品だったとわたしは思うけれど、もっと他の演出家のショーも観たかったと思う。

この『白夜の誓い』が曲者だった。
トップコンビの役は夫婦である。だが、かなめさま演じるグスタフはまず心のマドンナのような女性に恋するのだ。これを演じるのが伶美うららという、一時は凰稀かなめの相手役になるのではと囁かれた絶世の美貌の娘役であった。なんと彼女はポスターにまで載っている。娘役でトップ以外にポスターに載るのは大変なことである。
そしてみりおん演じる妻は政略結婚で、冷たい関係から始まる。その後、心を通じ合わせることは通じ合わせるのだが、その描写がうっっっっすい。そして緒月遠麻演じる親友との激しい愛憎の果てに幕を閉じる。おーーーーーーい!!!!!
トップコンビとは!?!?!?!?!?

これはひとえに演出家の力不足だとわたしは思っている。いくら緒月遠麻も退団公演であるとはいえ、トップ娘役との愛憎より親友との愛憎にスポットライトを当てるなんて宝塚歌劇としてのセオリーから外れている。いやもちろんきたてるファンは盛り上がったでしょうよ!?でも公式のコンビを蔑ろにするなんて座付き演出家としての資質を疑う。いや私怨ですすみません。でもやっぱりおかしいと思う。
わたしは悔しくてハンカチを噛んで泣きながら退団公演に通った。
ショーが名作だったことが救いだった。「孤独だっていいじゃない」と歌うテーマソングは凰稀かなめの孤高なトップ姿にしっくりとなじみ、退団した今でも彼女はコンサートなどで必ず歌う。

凰稀かなめは公演を重ねるうちにお芝居をどんどん変えていくタイプの役者だった。深まっていく芝居の中、それまで言葉のやりとりのみであった妻と心を通わせる場面で、ある日かなめさま演じるグスタフはみりおん演じる妻を抱きしめたのだ。あの時の衝撃はすごかった。何度も観て、そのシーンに心を凝らしているからこそものすごい衝撃を受けた。そうして、これまでこの二人のコンビを愛してきた気持ちも少し報われたような気持ちがしたものだ。
お茶会かなにかだったと思うが、かなめさまは演技の変化について「りおんの芝居がそこまで高まってきたと感じたから抱きしめた」というようなことを語っていた。やはり厳しい師匠のようなかなめさまが、弟子みりおんを独り立ちさせた瞬間でもあったのかもしれない。

みりおんはかなめさまの退団を聞いたときに、「自分はまだやりたいことがあるから残る」と言ったそうだ。その言葉どおり、かなめさまの退団後のみりおんの輝きはすごかった。
花組時代からの縁があった朝夏まなとことまぁ様のトップ就任後は、ふたりの明るい持ち味がフィットして、気安さも手伝ってかトップコンビの仲睦まじい様子が折々に見られた。プレお披露目『TOP HAT』ではトップコンビが出会い恋に落ちて誤解を経て結ばれる王道のラブストーリーを演じ、わたしはこれが見たかったのだと号泣しながら通った。お披露目公演『王家に捧ぐ歌』では原作タイトルロールのアイーダを演じ、堂々とソロを歌い上げて愛に生きて愛に死ぬ役を演じきった。宝塚を代表するタイトルロール『エリザベート』も演じた。朝夏まなとと離れてトップオブトップ轟悠の相手役までも務めた。彼女本来の実力と魅力がめきめきと発揮され、トップ娘役としてトップスターに愛される様子を見て、心から安心して応援したものだ。
やがて彼女は単独退団を決め、ひとりでサヨナラショーをした。
そのサヨナラショーの幕開きで歌われたのが、凰稀かなめとのお披露目公演『銀河英雄伝説』の曲「蒼氷色の瞳」であったことに泣いた。
退団の挨拶でも彼女は感謝している相手役として「凰稀かなめさん、朝夏まなとさん」とふたり名前を挙げた。当たり前のことかもしれないが、嬉しかった。
そしてかなめさまもその日のSNSでみりおんの退団について触れてくれていた。観劇に来るなどのわかりやすい行動はなかったが、元相手役のことをちゃんと大事に思ってくれていることがわかり、また泣いた。

ここでてるみりの歴史は一旦幕を閉じる、と思われた。

みりおんの退団後2年ほど経ったある日、なんと凰稀かなめのソロコンサートのゲストが実咲凜音と発表されたのだ。
それまでSNSなどでまぁ様とのエピソードはときどき見られたみりおんだったけれど、かなめさまとは一切絡みが見られなかった中の大事件である。

東京で1日のみのコンサートだったが、当然万象繰り合わせて馳せ参じた。当日までにもSNSにお稽古でのツーショットなどが掲載され、ニコニコとピースサインで並ぶふたりが現実とは思えず心臓がもたなかった。当日は期待値を上げないように心の準備をしながらもソワソワソワソワと開演を待った。

そこで見られたふたりの姿は本当に、わたしたちが見たかったもの、そのものだった。

モンテ・クリスト伯の名曲「手を伸ばせば」の前奏が始まり、みりおんの鈴の鳴るような美声で「エドモン!」と当時のセリフが発せられたとたん会場は悲鳴に包まれた。この曲はオープニングの愛し合うふたりが歌う曲で、かなめさまのサヨナラショーでも披露された、数少ないふたりの幸せなデュエット曲だ。そこで微笑み合い手を取り合うふたりが美しくて美しくて、会場はみんな泣いていた。そこからのコンサートはふたりが相手役として歌ったデュエット曲がすべて披露され、かなめさまがピアノ伴奏にチャレンジということでみりおんがエリザベートで歌った「私だけに」がふたりで奏でられたりと奇跡のような演出が続いた。
「これまでは(デュエット曲を)一人で歌ってたのよ」と言うかなめさまに、「これからはいつでも呼んでください!」とみりおんがニコニコ返す、その柔らかな雰囲気の姿はあの頃のてるみりよりもさらに尊く、あまりの供給過多に天を仰ぎ八百万の神に感謝した。しかしもっと衝撃の事実が待っていた。

そこでかなめさまから語られたのは、あの頃の自分の厳しさについてだった。
宙組のトップに就任する際に、彼女は劇団側から「宙組を立て直してほしい」というようなことを言われたというのだ。その頃の宙組がどのような状態で、その指示が劇団の誰からどのくらいの真剣度で発されたものかはわからないが、かなめさまはそれを真剣に受け止め、宙組のみんなに厳しく接したのだという。
「りおん〜、ってただ可愛がっていられたら良かったんだけどね」と、かなめさまは言った。
この瞬間、ふたりの仲にヤキモキし続けたあの頃の自分が全て報われたような気がした。

みりおんはかなめさま退団後も、お茶会などのことあるごとに「りかさんに全てを教えていただいたおかげで今の自分がある」というようなことを語っていた。
就任から退団まで、わたしたちの思うような典型的なトップコンビ像はあまり見せてくれることのなかったふたり。
けれどその関係は、かなめさまがトップスターとして自分を律して厳しく接し、それをみりおんはトップ娘役としてしっかりと受け止めて成長する、そんな関係だった。その時間があってこそ、みりおんはまぁ様の隣でトップ娘役としてあれほど輝いた。
それは唯一無二の、とても素敵な関係ではないだろうか?

わたしの青春だったふたり。
今はそれぞれ単独で女優さんとして活躍されているけれど、わたしは彼女たちがお互いを相手役としていたあの数年を忘れない。
応援していく中でいろいろな感情を味わい、もっと宝塚の舞台上で見たかった姿もあったけれど、それも含めて大切な思い出として、これからも永遠に大好きです。

あの頃鍛えられた動体視力は今も健在で、先日上演されたエリザベート・スペシャルガラコンサートで同じ舞台に出演したふたりがカーテンコールで隣同士に立ち、舞台上で移動した時にかなめさまがみりおんの腰に手をやってエスコートしていた一瞬をわたしは見逃しませんでした。あの頃の仲間たちも全員見逃していなくて、笑った。

最後に一つお詫びがあります。
「てるみりbot」という、てるみりのセリフやインタビューを呟くbotのTwitterアカウントがあるのだけれど、あれは当時のファン仲間が立ち上げたアカウントで、わたしが数年前に管理人を引き継いだのです。
が、パスワードなど全てデータを紛失してしまい、設定も何も変えられないままネットの海に今もつぶやきを放流しています…………
内容もっと整理したいのになぁ!ほんとにごめんなさい!!この場をお借りして、懺悔します。

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