疎遠にしたら怖い思いをした話

　私は元来とても臆病な性質で、日常の様々な場面でしんどさを感じることがある。
特に、人との付き合い方で悩むことが多い。

例えば、自分の発言で、他人に嫌な思いをさせなかっただろうか、と酷く気にすることがある。
そうなると、しばらく落ち込み、家族に話を聞いてもらい、その発言が大丈夫だったかを確認するという、とても面倒くさい状況に陥る。家族にしてみれば、いい迷惑だろう。
年齢を重ねて、図太く、強かになるだろうと思っていたが、実際はそうでもない。

　さらに、そういう性格なので、他人に対するストレスも限界まで溜め込んでしまう。
また、相手の嫌味やマウントなどにその場では気付かず、時間差で気づくため、どうしてもモヤモヤの解消ができずに、でも付き合いを続けてしまうことがあった。

　昨年の夏、10年来の長い付き合いであったママ友と疎遠にした。元々、彼女の自分本位な振る舞いに対して、思うところはあった。
だけれど、なんとなく我慢しながら、付き合いが続いていた。

　彼女は思い込みの激しい人間で、それが原因で引き起こされるトラブルも少なくなかった。そして、巻き込まれることが多々あった。実際、ここ数年は、そういう場面が増えてきて、ちょっとしんどいな…と思うこともあった。

　ある時、彼女の勘違いと思い込みで、またトラブルに巻き込まれた。
それは、いつも通り、私には全く関係ない出来事だった。
しかし、なぜだか私がターゲットになり、ひどい人格否定をされた。
彼女は猪突猛進で、思い込みで暴走してしまうことが度々あったが、実際にそのターゲットになってしまったことで、とても苦しい思いを経験することになった。

　その後のやり取りも含めて、もうだめだなと思い、結局彼女と疎遠にすることを決めた。

　今になって考えると、もっと早い段階でトラブルに巻き込まれた時に、しっかりと彼女の問題行動に対応し、逃げるか縁を切るかしていれば良かったのだ。
しかしながら、子供同士が同じ学校で、頻繁に顔を合わすこともあり、その機会を逃していたのも事実だった。

　彼女と疎遠にして半年以上経過した頃のこと。近所のスーパーに行った時、偶然にも彼女に遭遇してしまった。
ちょうど知人と再会し、少し立ち話をしていたときだった。
後ろから物凄い殺気を感じ、振り返らないように横目でちらっと見ると、野菜を選ぶふりをして、私を鬼の形相でじーっと見つめている彼女がいた。
　知人が尋常じゃない様子の彼女に気付き、ヤバイ奴がいると咄嗟に判断したのか、私を別な場所へ自然な様子で連れ出してくれた。

　知人と別れ、スーパーから立ち去ろうとしたとき、物凄い形相で買い物カートを押しながら私を探して回る彼女の様子を見て、慌てて車に乗り込んだ。
きっと彼女のことだ、公衆の面前で、いかに私が間違っており、自分が正しいかを説きながら罵倒するつもりだったのだろう。

今まで様々なトラブルを起こす様子を周囲から伝え聞いていたが、いざ渦中の人間になるとこんなにも恐ろしい思いをするのかと、身震いした。

　彼女と疎遠にするまで、様々なやり取りをしたが、私に対して怒ってみせたり、宥めてみせたりと、あの手この手を使って私を言いくるめようとしていた。その様子は私の母親と全く同じだった。

　私は帰宅して、彼女のことを知る友人に事の顛末をメールした。すぐさま電話がかかってきて、「怖い怖い怖い」と連発していた。
そして、何か彼女からアクションがあっても決して反応しないこと、何かあったら家族や友人に相談しなさいと言われた。

また、スーパーで一緒だった知人から電話が来て
「危害を加えられるのではないかと本気で心配するような目つきの人だった。」
と言われた。全く彼女のことを知らない人間が見ても、そういう表情だったのか、と恐ろしくなってしまった。
結局、私はその夜眠ることができなかった。

　それから少し時間が経過したが、彼女との付き合い方を含め、どうすれば一番良かったのかを時々考えることがある。
けれど、どうやったって、いづれ彼女との関係は破綻していたのだろうと思うようになってきた。結局のところ、正解はわからないままである。

　ただ、（母や彼女がやっていたように）自分の不機嫌を武器にして、他人を自分の思い通りに動かそうとする人は信用できないんだな、とは思った。

　この出来事は、ここ数年でTOP3に入る恐怖体験だった。
これを書きながらも、キリキリと胃が痛くなってきたぞ。

　きっと忘れた頃に、また彼女に遭遇するかもしれない。しばらくは、外出の際、周囲に気をつけながら行動しようと思う。