反田恭平さんの音
私は文章を書く時、いつも、頭の中に音楽が流れている。最近はもっぱら、文章を書いていないときもずっと、反田さんの弾くリストの《愛の夢》が流れている。
優しさと情熱と穏やかさ、大胆さと明晰さ、そして色気。全て含まれていて、聴き終わると、なんだか居てもたってもいられないような、素敵な小説を読み終わった時の後読感を感じることが出来る。それが、たった5分45秒で何度でも。
ピアニスト、反田恭平は美しい。
反田さんは、生命の色気を知っている人だと思った。
冬の寒さ、夏の暑さ。全てに宿る命の色っぽさ。
それを知っている。
反田さんが誕生した時、へその緒が絡まり合い、一度、死んでしまったそうだ。彼が命の尊さを知っている理由はこれかもしれない。もしくは、生命の瑞々しさを知っている理由は、初めての淡い恋人の死の無念さを自分のピアノの中にしっかりと織り込んでいるせいなのかもしれない。(反田恭平著『終止符のない人生』より)
命がある喜びを、みずからの命をかけて表現する人だ。
それはそれは、日の光に透ける葉の上の雫のように。
生命に活力を分け与える人。
自分の才能を人のために使う人。
人が一つの人生で使える時間は有限であると知っている人。
命への思いやりと、愛情へと続く優しさを出し惜しみせず、ピアノに全てぶつけてくる。その度胸と勇気は眩まばゆい光を放ち、聴く人の「生きることへの讃美」に訴えかけてくるのだ。
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