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燃料電池の普及を加速する奇跡の触媒となるか? ~産学連携プロジェクトが生んだブレークスルー~

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BEASTのX-Techチームのテツです。

今回は、これからの自動車産業の根幹を支える「電池」において、革新的な技術シーズとなり得る「燃料電池用の“非白金”触媒」の開発に成功した東工大・熊本大・静岡大・旭化成の共同研究チームの研究についてご紹介します!
本研究のプレスリリースは今月4日に出ました。)


■この研究の背景と成果

各国政府がCO₂削減の数値目標を定め、世界で電気自動車(EV)の普及が急速に進む中、水素と酸素から電気を生成し走行時に温暖化ガスを排出しない燃料電池車(FCV)の普及加速も望まれる。
だが、現在のFCV価格は1台700万円超トヨタ社MIRAIの価格)となっており、これは市販のEV価格の2倍以上のため日本の一般消費者には手が届かない。また、水素ステーション設置など他にも普及の壁がある。
※EV、FCVについては、こちら

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(燃料電池車MIRAI;トヨタ社HPより)

FCVの価格低減における課題の1つが、燃料電池の「触媒」だ。触媒には主に白金(以下Pt)が使われているが、貴金属であるため材料コストが高い。現状FCV1台あたり約20~30gのPtが使用されているが、Ptは原料ベースで1gあたり4280円(10月20日時価、田中貴金属HPより)と高い。その費用や資源の有限性からFCV1台あたりのPt使用量を現在の1/10程度にしないとFCVの本格的普及は難しいと考えられている。

そんな中、本研究ではPt不使用で、かつ、従来の代替品より触媒活性が高い触媒の開発に成功した。これまでに開発された代替品やこの技術の優位性については後述するが、この新規触媒では、まずPtの代わりに原料ベースの価格がPtの1000分の1以下の鉄を使用する。さらに、従来の代替触媒が抱える課題、つまり、量産化における品質維持と、FCVの電解液条件下での劣化という2つの問題をうまく解決した。

燃料電池としくみの図解

(燃料電池の仕組み;キャタラー社HP、化学Q&Aより)


■そもそも、なぜ今まで燃料電池の触媒にPtを使っていたのか?

燃料電池では、H₂とO₂が反応してH₂Oを生成する反応から電気を取り出す。この化学反応の速度は触媒がない状態では非常に遅い。また、Pt以外の金属を用いる場合は、高温・高圧という条件が必要となり自動車に搭載する電池でこれを実現するのが難しい。つまり、常温・常圧という車載電池の環境下では、従来の代替金属(鉄、コバルト、銀やそれらの錯体など)だと発電効率が非常に低いという課題があった。そのため、高コストにも関わらず、実用レベルの発電効率を維持するためPt使用を継続せざるをえなかった。


■燃料電池にPtを使い続けることが難しいのはなぜか?

現在流通している燃料電池の触媒には主にPtが使用されている。だが、Ptの資源としての制約・高コストが、FCVや燃料電池の搭載端末の普及を阻む原因の1つとなっている。(※FCV:他に、水素ステーション設置、水素タンクの短寿命・点検頻度の高さ等もFCV普及の壁である)
産総研によると、Pt埋蔵量は1.6万トンと推計され、このうち9割近くが南アフリカに偏在して。Ptの年間消費量は約250トン(2012年実績、Johnson Matthey社より)で、現状の使用量をそのまま維持すると、およそ60年で地球上のすべてのPtを使い切ってしまうことになる。20年前に比べてPtの海外価格は約2倍(下記グラフ参照、田中貴金属工業HPより)に高騰している。現在の資源量から推計すると、FCVが普及すれば、世界の自動車の生産台数(約9千万台)の1割も賄えないという試算結果もある。このため、Ptを使用しない触媒の開発が求められてきた。

白金の価格推移

(Ptの価格推移;三菱マテリアルHPより)


■これまでに開発された代替触媒

Pt使用量を減らすため、これまで3つの方向性で技術開発が進められていた。1)Pt粒子を微細化し均一に触媒表面に分散させることで反応に寄与する表面積を上げる2)Ptを担持する炭素触媒の構造を薄くしてPt使用量を減らす3)Pt不使用の新規触媒を見つける、である
1)と2)はPtを使用しているため本質的な問題解決にはならない。そこで、世界の名だたる企業、研究チームが2000年代前半から、こぞってPtの代わりとなる金属を用いた触媒の開発に乗り出してきた。

NEDO海外レポートの非白金触媒の研究開発動向によると、無機系では鉄、ニッケル等、有機錯体系ではコバルト等を中心金属とするフタロシアニン系物質が正極触媒に用いられている。一方、負極ではタングステン系などが多い。正極は酸性下にあるので多くの金属が溶解してしまい安定性に難があり、実用化まで到達していない。

さまざまな非Pt触媒

(非Pt触媒の例;NEDO非白金触媒の研究開発動向2008より一部抜粋)


他にも新しい事例では、日清紡HDと群馬大学が2017年に、カーボンアロイ触媒(炭素繊維等を高温で炭化した含窒素カーボン)を世界に先駆けて実用化に成功している。
また、2019年に東北大学の研究チームが、顔料などに用いられる安価な鉄フタロシアニン系有機金属錯体を炭素の表面に単分子状で修飾することにより、非常に活性の高い酸素還元反応特性を持つことを発見し、その技術を大学発ベンチャー化した。


■この新規触媒は、今までの代替触媒と何が違うか?

上記カーボンアロイ触媒では、製造プロセスにおいて高温での焼成や酸処理を必要とするため、製造コストが高いことが課題であった。また、前述の東北大の十六員環の鉄フタロシアニン系触媒では酸性条件下で触媒活性が低下し劣化が速いことが指摘されている。

この2つの課題を克服し、さらにPtに代わる安価な触媒を、今回、東工大・熊本大・静岡大・旭化成の共同研究チームが開発することに成功した。この触媒は、カーボンアロイとは異なり熱処理が不要で、かつ、十六員環鉄フタロシアニンに比べて酸性下でも優れた触媒活性と耐久性を示す。技術の詳細については、こちら


■市場性とタイミング

富士経済によれば、燃料電池の関連市場全体では2030年に約5兆円まで拡大する見込みであり、これは2019年度比で18.5倍。このうち、本触媒が直接利用されると考えられる自動車(自家用車、トラック、バス等)および燃料電池スタックの市場規模は2030年までにそれぞれ約3.7兆円、7700億円にまで拡大する見込みだ。FCV普及のボトルネックの1つとなっている白金触媒を本触媒が代替できれば、市場の伸びは加速すると考えられ、去年政府が発表した「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取組み」なども追い風となるだろう。

富士経済の用途別棒グラフ

富士経済の用途別 円グラフ

(スマートジャパン記事2019年1月23日、富士経済より引用)


■感想

ここまで燃料電池のことについて書いておいて、こんなオチで終わるのは良くないかもですが、燃料電池の原料となる水素は、現状、その大部分が化石燃料から生成されているため、そういった根本的な課題へのアプローチも今後、必須なんだろうなあと思いました。
電池の世界は関連業界と技術の幅が広く、奥が深いです。キャッチアップしたい、、、

読んでいただき、ありがとうございました!!


■このnoteを書いた人

梁哲治(りゃんてつじ)
京都大学農学研究科・応用生物科学専攻 修士3年目(1留です笑)
普段は、生活習慣病の改善に資する機能性食品について研究してます!
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#技術シーズ #燃料電池 #大学発ベンチャー #自動車

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