見出し画像

BLなんて甘いモンじゃないよ、ガチで尻と尻の世界「ファスビンダーのケレル」

歪曲されてオレンジ色の照明が極端に強い、描き割りのようなセット内で働く、屈強な水兵たち。
内在する暴力的な緊張感。
それが「ファスビンダーのケレル」の世界観です。
(「ケレル」とだけ表記されることもあります)
1982年の映画ですから、わりとこの映画はリアルタイムで見て度肝を抜かれたんです。

娼館の女主人を演じるのがジャンヌモローで、私はこれがジャンヌモローとの出会いでした。
「なに?この殺しても死なないようなババァ?」と思ったんですけれど、思えばこれがフランスの国宝級の大女優ジャンヌモローの晩年の姿でした。

しょっちゅうお店で彼女は「誰もが自分の愛する者を殺してしまう」みたいな歌を歌っているんですけれど、これが英語で、コッテコテのフランス人のジャンヌモローは英語も歌もあまり上手ではなかったみたいで、歌い方がたどたどしいんです。
そこが唯一、可愛げのあった点かな?

娼館と言っても女性がいるわけでもなし、つまりは酒場の2階が部屋貸しみたいになっているようで、もう完全に「尻と尻」の世界。

具体的にどこが暴力的だとか、そう言うきわどいシーンはないんですけれど、あのセットの歪曲した感じと色調と水兵たちの肌に光る汗に内包する狂気と暴力的なものを感じるんですよね。

あまりにも突き抜けちゃっているから、ファスビンダーのケレルをLGBT映画と呼ぶような甘ちゃんにはまだ会ったことがありません。
大体が「ハーヴェイミルク」なんかがLGBT映画の元祖と言うコンセンサスができているようですから。

けど、気分が高ぶっていたり、荒れていたりする時に見てしまったら暴力的な気持ちになると思います。
ひとさまにご迷惑をかけてはいけないので、なるべくおひとりでご覧になった方がいいかも知れません。

美術設計はとてもすぐれている映画だと思うのでお勧めなんですけれど、デートで見よう、とかもちょっと無しかも。
誘ったあなたの人格を疑われるはず。
いま、アマゾンでは廉価版が出ているので、一枚持って置いてもいい映画ですよ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?