テイルズオブリバースをクリアしました
テイルズオブリバース、クリアしました。
まず最初に言いたいのは物凄い良作に出会えたなということです。
これまではTwitterでぽつぽつと呟いていましたが、クリアしてみた上での感想を軽くメモ帳にまとめていたらえらい量になったので初めてnoteを使ってみました。
あまりまとまっていないとは思いますが、一応目次の構成で話していく予定です。
なお、こじつけなども多いと思われますが、あくまで一個人の意見ですので、そこだけは念頭に置いて読み進めてください。
1.テイルズオブリバースのテーマの描き方について
テイルズオブリバースがとても良い作品だと思う理由の一つに、「なぜ差別が起きてしまうのか」「種族とは何か」という奥まったところまで突き詰めて答えを出した点があります。ただ単に「差別は良くない」と主張するのではなく、原因としてある、人の心理や種族という概念にも真摯に向き合っているんですよね。
そもそもたった少しの刺激でここまで対立が浮き彫りになってしまったのは元々心のどこかで「ヒューマは(ガジュマは)自分とは”違う”」と感じていたからだと思います。そもそも現代における差別とはあからさまに行われるものではなく、自分でも気づかないうちに深く溝が出来てしまっているようなものなので、カレギアでもそうした意識は広くあったのではないかな。誰かを違う、理解できないと突っぱねてしまうことが差別に繋がっているなら、ヒトは何をもって”違う”とするのか、何をもって”同じ”であるのか。そう考えた時に、やはり見た目が違っていたところで何かを思い感じる心は同じで、その心を持つからこそヒトはヒトたりうるのだ、という結論に至ります。それを丁寧に丁寧に描き切ったのが凄く好きですね。
2.世界観について
イノセンスRクリア時にも同様の話をしたのですが、聖獣(神)がヒトの世界から立ち去り、世界の主人公が本当の意味でヒトに変わるリバースの時代設定が近代初期なの非常に上手いと思います。
近代初期というのは前近代から近代への過渡期にあたります。この時期で注目すべき点は何と言っても人間が科学を手にしたことにより『神』の存在が消えたことです。科学で世界の謎は解き明かされ、自然は人間の制御しうるものとなった時、神の存在できる領域はなくなった(前近代において人間は人知の及ばぬ自然災害などは『神』によるものであるとしていた)。世界の主導権は神の手にあるように思われていたが、これからは人間が自ら未来を切り拓いていくという考え方が浸透していった、そんな時期なのです。
ヴェイグが聖獣たちに言ったもので、「ヒトはどれだけ苦しくても苦難を自分で乗り越え、自分の足で歩いていくべきだ」という旨の言葉があります。これはまさしく近代的な思想に近いのではないでしょうか。
また、ヴェイグたちのフォルスの種類が単なる地水火風光闇でなかった点にも着目してみると、人間が自然を理解し、制御するようになったことを暗喩しているように見えます。すなわち、フォルスとはヒトに与えられた『神』に対抗する手段=科学のことを言っているように思うのです。
例えば、『鋼』は鉄を鋼に加工する近代鉄鋼業が盛んになることを、『雷』はベンジャミン・フランクリンによって雷が放電現象であることが証明されたことを、『氷』は水の凍る温度と沸騰する温度を基準としたセルシウス温度の発明を、それぞれ示唆しているように見えます。同様に『樹』は植物の体が細胞で構成されていることの発見(ちなみに動物より植物の方が細胞が観測されるのが一年だけ早いです)、『雨』は現在の標準的な雨量計として普及している転倒ます型雨量計の原型の開発などがそれにあたるのではないでしょうか。四星のフォルスもおそらく近代の科学発明と何かしらで関っているでしょう。
私は聖獣の使わせたマオの使うフォルスが『火』だったことも凄く好きなんですよね。火は、人間が最初に手にした科学です。つまり神が人間と同じように作ったヒトは原初の科学しか渡されていなかったのです。ヒトが自らの武器として発展させてきたフォルスは、科学と同様にヒト自身の社会で進化してきたものかもしれません。
最後のあたりはこじつけが強いですが、何はともあれ『再誕』をテーマとする今作が、人類史の大きな転換点であるこの時期をモデルとしたのは本当に素晴らしいと思います。
3.各キャラクターにおける『再誕』
リバースは「他人に言われ頭で理屈として知っていることを、自分で見出した真実としてもう一度心で理解する」過程を描いている作品だと思います。
アニーちゃんは父の「心に色はない」という言葉を理屈として知ってはいたけれど、旅の途中のユージーンの姿やノルゼンでの一件でそれを再び見つける。ヒルダさんはナイラさんからの手紙で「あなたはハーフ(半分)なんかじゃない、ヒトなのよ」と言われ、自分がヒトであることを頭ではうっすら知っていたが、それに改めて気づくことができたのは旅で様々な価値観に触れ、試練で自身の出生と両親の愛情を知ったから。ヴェイグはクレアの言う「心に種族はない」という言葉を当然そこにある事実として知っていたものの、クレアの姿のアガーテ様やアガーテ様の姿のクレアを目にして迷い、スールズで皆とピーチパイを食べた時初めてその言葉を再び思い出して心で理解できた。クレアやティトレイ、ユージーンは元々信念として自分が持っていたものを旅で色々なものを見た上で再びその志を固め、信じることを決意する(既にかなり固まっていた想いや考えを旅や試練で確固たるものとした)。そうやって見ていくと、マオはかなり異質なんですよね。
マオはこの物語を通して「自分は何者か」だけでなく、「どう生きたいのか」についても考えていたと思います。そして彼はまだその答えを探している。だからこそ、「一人のヒトとして、世界をよく見てみたい」と思うようになったのではないか。これまでマオは聖獣の目として(本人には特にそういった意識はなかったけれど)生きてきた、そして聖獣が地上に干渉しなくなった今、一人のヒトとして再び歩き始める。マオは「自分のために」もう一度世界を見に行くのです。どのキャラクターもそうですが、とりわけマオは本編を経て『再誕』したと言えるような気がします。
4.エンディングで特に情緒を殴られたところ
ラストシーンはこれまで彼らの物語を見守ってきたプレイヤーの情緒をボコボコにする演出がたいへん多くて好きポイントがカンストしてしまうんですよね。ここでは特に殴られた三つの演出について話していこうと思います。
①アガーテ様の遺体に口づけするミルハウスト
私このシーンめちゃくちゃ好きなんです。ここまで儚くて悲しくて美しい口づけがかつてありましたか? ただ言葉にして伝えるだけで良かったのに、それだけだったのに、それだけのことに気づくまでに二人とも時間がかかりすぎてしまった。でも最期アガーテ様が自分の気持ちを、心を、しっかりとミルハウストに伝えられて良かったです。そしてその後に彼女の言葉が消えないように、己の想いと共に閉じ込めるように、まるで約束を交わすかのように、そっと何も言わずに口づけるミルハウスト。ここまで含めてこの場面が大好きです。
②ユージーンとアニーちゃん
「ヒトはわかり合える」とユージーンが言った時アニーちゃんも一緒に映るのが良いし、その後アニーちゃんが「私たちがそうだったように(細かい台詞うろ覚えですみません)」と続けるの最高なんですよね。見た目に惑わされ何が真実かすらわかっておらず、ユージーンの心も自分の心も信じられなかったアニーちゃんが、本編を通じて「ヒトの心」を信じることができたこと、ゆえにヒトがわかり合えると思えるようになったこと、全部詰まっている言葉だと思うのです。
③ヒルダさん
正直ラストからエンディングまでで一番情緒を殴ってきたのは彼女です。ヒルダさんがターバンを外す場面がとんでもなく好きなんです。情緒がえらいことになりました。「そんな世界になるのだろうか(意訳)」というティトレイの問いに(他ならぬティトレイなのも好きです。彼はずっと一貫して「ハーフの何がダメなのか」、そして「角を隠さなくても良いのでは」と感じていた人間なので)、「少なくともこういうことをする必要のない世界」と答えるの満点of満点です。折れた角もガジュマの耳も全て含めてヒルダ・ランブリングであると思えるようになったんだもんなあ……。エンディング後、まさか予想が当たり、孤児院のようなものを運営する様子が描かれまたもや情緒がおかしくなりました。ガジュマもヒューマもハーフも関係なしに皆仲良くしているのだろうな……。後述の好きなスキットでも話す予定ですが、ヒルダさんの未来を生きる子供たちを考えての行動が好きなんですよね。きっと彼女は子供が好きなんですよ。ヒルダさんの心から楽しそうに笑っている様子が本当に美しくて好きですね(ちなみに素朴な疑問ですが、あの孤児院ってどこに造られたのかなあ。カレギアは森がありすぎるので風景からは推測できませんでした。誰か知っている方がいれば教えていただきたいです)。
5.特に好きなスキット
サブイベントは二周目で回収しようと思っていたので見逃しているスキットは多々あると思いますが、現段階で見たスキットの中で三本の指に入るものを紹介します。
①「昨日と明日のために」(サレトーマ戦後のティトレイとヒルダさん)
スキットのタイトルからしてセンスが凄い。ヒルダさんが戦う理由についての話でしたが、両親の復讐(昨日)と、未来を生きる子供たち(明日)のためにユリスを倒すというのが大変良かったです。ミリッツァへの説得でも「次を生きる子供たちのために」と言っていたように、自分たちのような生き方を誰にもさせないために、まだ見ぬ誰かのために行動を起こせるのって物凄く格好いいと思います。出会った当初は自ら命を絶ち未来を捨てようとしていた彼女が、自ら未来のため明日のために生きているのが本当に好きです。
②「ヒルダの答」(ランドグリーズの試練の後マオが自分の正体を明かした少し後のヒルダさんとマオ)
このスキットの何が好きって、二人とも本編を通して「自分が何者か」について悩んで迷った人たちなんですよね。ほんの少し長く生きているヒルダさんがほんの少しだけ先に出した自分の答えを教え、以前マオに問われた「ヒューマでもガジュマでもハーフでもない存在は何者か」という質問に答える話なのですが、ヒルダさんが『大人』として『子供』にちょっぴりのアドバイスをしているのがとても好きです。普段はあまりそういう風には見えない二人が、途端に『大人』と『子供』という構図を見せてくるの本当に心臓に悪い。ヒルダさんが「あんたはヒトよ」とはっきりと迷いなく告げるのも好きですね。
③決戦前夜のマオとアニーちゃんのスキット
タイトルを覚えていないんですよね……。ごめんなさい。「歌うマオ」シリーズのスキットにほぼ毎回アニーちゃんが登場していたのをまさかここにつなげてくるとは思いませんでした。アニーちゃんが緊張している時マオに”魔法”をかけてもらったおかげで少しリラックスできたというスキットが序盤であったことを踏まえての「マオ、歌って」だったら凄い好きだなあ。そしてそれに対するマオの返事がべらぼうに男前ですよね。「『勝利の歌』だけしか残っていないから、生きて帰って一緒に歌おう(意訳)」の流れが本当に良すぎる。「一緒に」がまた素敵ですよね。一方的にマオがアニーちゃんを励ますために歌うのではなく、共に喜びを分かち合いながら歌うということ。想像したら凄く可愛くて微笑ましいですね。皆が解散する直前にアニーちゃんが「マオ!ちょっと忘れてない?」とマオを呼び止めて、首をかしげるマオに「『勝利の歌』、歌うんでしょ?」と笑って言うアニーちゃんと、「そうだった!」と楽しそうに返すマオはいると思います(幻覚)。
6.テイルズオブリバースの主人公としてのヴェイグ・リュングベル時々アガーテ様
テイルズオブリバースの主人公としてヴェイグ以上に適したキャラクターはいないと思います。今の私たちのように、日常的に差別についてヒトについて考える人ってやっぱり少ないんですよ。むしろヴェイグのように『なんとなく』差別はダメだとぼんやり認識しているヒトが多数かと思います。スールズを出なければそれで事足りたし、ヒトの心についてじっくり考える必要もなかった。でも世界を巡る上で種族の対立や差別意識の現状を実際に見たり肌で感じたりして、そして自分の家族の体が変わって、否応なしに考えざるをえなくなってしまった。
これは「普段ぼんやりと差別は良くないと思っていたが今作をプレイしていく中でそうしたことに目を向けさせられているプレイヤー」と全く同じ構図なんですよね。平生から差別について真剣に考えているようなキャラクターだったならば、逆に差別主義的な思想を持つキャラクターだったならば、いずれにしても主人公の視点とプレイヤーとの間で溝が出来てしまってゲームとして上手くいかないし、何よりこの作品が本当に伝えたいことがぼやけてしまうかもしれない。だからこそ、プレイヤーを違和感なく没入させるにはヴェイグのような主人公が最適なんですね。
そして、ヴェイグについて語る上でやはりアガーテ様のことには触れないわけにはいきません。彼女もヴェイグと同じように広い世界を知ったことで本当に大切なものが何かを悟るのですが、他にもアガーテ様とヴェイグの対比構造は本編でずっと取られているんですよね。
例えば、クレアとの関わりをきっかけとして変わっていく(クレアをきっかけにヒトの心とは何か種族とは何か考えるようになる)点、思念浄化の後世界各地を巡る最中自分の中の迷いた住民に対する苛立ちを説教の中に無意識に織り交ぜていた点、各地を巡る内に迷いの中に答えを見出したアガーテ様と迷いを深めていったヴェイグ、スールズというおそらくこのような状況にならなければ訪れることはおろか名前すら知らなかっただろう村で本当の世界を知るアガーテ様と、スールズという原点に帰ることで答えに気づいたヴェイグ、などなど。
アガーテ様の最期をヴェイグが目をそらさずに見つめているのが凄く好きで、本編で描かれた『わかり合えたヒューマとガジュマ』というのはユージーンとアニーちゃんだけでなく、ヴェイグとアガーテ様もそうだと思うんです。似た者同士だった二人は、互いに初めてしっかりと対話した相手だった。二人の関係性を表す言葉は、友達も恋人も仲間もどれも何かの要素を欠いているように感じられます。多分二人の間にあるものに名前などなくて、『ヴェイグとアガーテ』としか言えないんじゃないかと思うんですよ。そしてヴェイグが彼女の遺体に向けたあの視線の中にそれら全てが内包されているように見えました。
長くなりましたが、ここまで目を通してくださり本当にありがとうございます。テイルズオブリバースは良いぞ……。
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