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サルでもできるミニチュアペイント

 掛けたまえ。CORONAは冷えている。

 お前は自作したミニチュアをジオラマめいたテーブルに並べ、一定のルールに基づいて動かし、戦争をさせる遊びを知っていることと思う。すなわち『ウォーハンマー』や『ウォーマシン&ホード』などのミニチュアウォーゲームだ。

 お前はツイッターアーのTLだか、なんかのニュースサイトだか、『ホビージャパンextra 2018 spring』だかでその存在を認識して多少興味は惹かれたたものの、「うわぁ大変そう・・・・」という至極常識的なブレーキが働き、この真の男の世界をスルーしたままこれまで生きてきたとゆうわけだ。

 率直に言おう。お前の判断は正しい。

 ミニチュアウォーゲームの敷居はそうとうに高い。基本的に金を出せば即遊べるほかのゲームとは異なり、組み立て、ペイント、運搬と、乗り越えなければならないハードルが多い上に高い。しかもミニチュア自体の価格もちょっとのけぞるほど高い。三千円以下でモビルスーツのオーナーになれる日本のプラモ事情に慣れたお前が何の覚悟もなく飛び込むには過酷すぎる荒野だ。

 だが、これだけは言っておこう。高いだけのことはある。

 『100/1スケール ガンダムバルバトスルプスレクス』を買って制作した俺が言うのだから間違いない。

 やべーちょーかっけー!!!!

 そのうえで断言するが、ミニチュアゲームの駒(特にゲームズワークショップ社製)は、造形の緻密さ、芸術性の高さ、設定との整合性、物語性において、この比ではない。誰がそこまでしろと言った! と突っ込みたくなる狂気のクオリティである。

 狂気の企業、ゲームズワークショップは、これを壊さないように運搬してゲーム会に向かえなどという意味不明な難題を当然みたいな顔して顧客に求めてくるのだ。お前は何を言っているんだ。やったけど。

 そうゆうわけで、ミニチュアゲーム界隈は常に新規に飢えており、ゲーム会に「ちょっと見学させてくださーい☆」などというやつがふらっと現れようものならピラニアのごとく群がって全方位からちやほやしまくり骨も残さず自我を研修する有様だ。

 もうちょっと、新規増えると、いいよね。

 いいよね!

 金額に次いで高い敷居となっている「ミニチュアペイント」というやつについて、俺はにゅうねんかつちみつなマーケティングを行った結果、実態以上にペイントという行いに対して苦手意識を持たれているのではないかという結論に至った。

 いきなり俺が「ミニチュアをペイントしろ」などと言ったところで、お前は困惑するしかないことだろう。なぜならお前は高校の美術の時間を最後に、筆に触る機会すらなくメキシコの荒野で生き抜いてきたからだ。ギターケース型ロケットランチャーの撃ち方はわかっても、ペンの振るい方など想像もつかず、尻込みしてしまうのも無理はない。

 そして高校の美術の時間に描かされた油絵とかのあまりの低クオリティぶりを思い出し、「平面にすら満足に絵を描けなかった俺が、ましてや立体物をいい感じに塗り上げるなど・・・・」と、ため息をついてこの真の男の世界から背を向け・・・・・・酒とベイブとスマホゲーに溺れ・・・・・・やがて結婚し・・・・・・・幸せをつかみ・・・・・・・生まれた我が子といっしょにキャッチボールとかしながら・・・・・・・ミニチュアゲームなんて魔境に行かなくて本当によかったなぁと述懐し・・・・・・・なんかバターコーヒーとか飲んだりする・・・・・・A wonderful life・・・・・・・

 そのような無残な未来を回避するためにも、お前の誤解をひとつ解いておかなければならないだろう。

 ミニチュアをいい感じにペイントすることは、油絵をいい感じに描くよりもずっと簡単である。

 この事実ほど世間に認知されておらず、かつすべてのミニチュアゲーマーが実感している事柄はなかなかないだろうと思う。

 絵を描くというのはとんでもないことだ。あの、なんか、よくしんないけど、デ、デッサン? とか? ペン入れ? とか? そうゆうよくわかんないことをたくさんしなければならない高度に専門的な技能だ。

 ミニチュアペイントにそれはない。方法さえ分かっていれば、一日でいい感じのペイントができるようになる。専門技能など何一つ必要ではない。本記事のタイトルは誇大広告でも何でもない。それを今からお前にわからせる。

 マシンレイス氏である。彼はなんか敵のロボをハッキングして操ることができる能力を持っており、つよい。彼を塗り上げることで、俺がどれほど意識の低いペイントをしながらミニチュアウォーゲームという修羅道をのうのうと生き残ってきたかを論じてゆく。すでに襤褸めいた袖部分が塗られているが、本当にただ単に「茶色い絵の具を塗った」としか言いようがないほどイージーな工程なのでカットである。

 意識低いペイントの大原則は「凹部分から先に塗れ」である。マシンレイス氏の背中に注目だ。なんか肋骨めいた構造がある。よくわからんが氏は不浄のエネルギーで駆動しており、それを肋骨みたいなもので閉じ込めているようだ。この不浄エネルギー部分を真っ先に塗るのだ。

 慣れていないお前の筆先は大いに震え、絵の具は肋骨部分にはみだしまくることであろう。そうして「やはり自分にはミニチュアペイントの才能などなかった・・・・」と絶望して筆を放り出し・・・・・安楽な暮らしに埋没しながら・・・・やがていかしたベイブとネンゴロになり・・・・・仲睦まじく平和な余生を送るはめになる・・・・・・California dreamin・・・・・

 この無残な未来を回避するために俺から言えるのは二点。「はみでても修正は簡単である」そして「この段階でのはみだしには修正の必要すらない」ということである。何故か。肋骨部分には後からどうせ別の色を塗るからである。これが逆に、凸部分である肋骨から先に塗ってしまうと話がめんどくさくなってくる。実際に筆を手にミニチュアと相対して見るとわかるが、絵の具は凸部分に付着しやすく、凹部分には付着しにくい。リンゴが木から落ちるのと同じくらい普遍的なペイント物理学だ。この摂理を捻じ曲げて凹部分にだけ色を付けようとするのは高度なペイントカラテが求められる案件だ。お前はいきなりそんなものを会得する必要はないし、そもそも会得せずとも「凹部分から先に塗る」を徹底しておけば何の問題もない。

 そうゆうわけで各所に適当に色を付けた。骸骨部分には骨色を。金属部分には銅色を。世のペイントモンスターの中には金属色の絵の具を使わずに通常色のグラデーションだけで金属の光沢を表現する「ノンメタルペイント」なる恐るべきジツを行使する半神的存在もいるが、無論お前はそんな特異能力など習得せずとも何の問題もない。ぜんぜんできない俺が言うんだから間違いない。わかったか。

 そうして、銅色だけではなんかアレなので、金属部分を一部鉄色に塗った。まぁひどいクオリティである。塗ろうとしている部分が塗り切れていないし、凹部分に乾く前の鉄色が溜まって不自然極まりない。何よりこのオモチャ感というかアルミホイル感がやばい。なんだこれは。R.E.A.L.のかけらもない。本当にこんな腰の抜けたうらなり坊やが戦場で敵ロボをハッキングできるのかとお前は大いに疑わしく思うはずだ。

 だが、この段階で注目てしほしいのは肋骨部分である。なんかすごいいい感じではなかろうか。俺にいきなりペイント・ニンジャのソウルがディセンションしてきてペイントカラテ段位が跳ね上がったとでもいうのか? そうではない。先述したペイント物理学を利用したのである。凹部分には色が付着しにくく、凸部分には付きやすい。この原理をあらかじめ理解していれば、先に凹部分を塗っておくことで、凸部分のペイントが信じがたいほど容易くなるのだ。お前が握る筆先がいかに生まれたての小鹿のごとく震えていたとしても、ミニチュアの造形そのものがお前の未熟なカラテを的確にアシストして、はみ出ることなく美しい線を引かせてくれる。俺が「ミニチュアペイントは絵を描くよりも遥かに簡単だ」と述べた根拠はここにある。何の造形もない平面に絵を描く場合、「筆先に一定の力を込め続ける」という特殊な才能を持った人間でなくば美しい仕上がりには決してならない。俺にはその種の才能がひとかけらもなかったので、線の太さがうねんうねんと一定しない腰抜けブルシットな絵しか描けないが、ミニチュアペイントならばそんな才能がなくとも一定の水準には至れるのである。

 そして――ここからが意識低いペイントの最大の見せ場にして真骨頂である。これからマシンレイス氏にとある処置を施すことによって、彼のアトモスフィアに恐るべき変化が訪れる。

 !?

 !?!?

 お前は恐れおののき、悲鳴を上げ、後ずさり、畏怖に満ちた目でマシンレイス氏を見ることになるであろう。失禁する者もいるかもしれない。ほんの一分前まで腰の引けたアルミホイル製のうらなり坊やでしかなかった氏が、今や冷酷かつ圧倒的なカラテ戦士としての風格を纏い、お前の前に立ち上がったのだ。

 いったい何が起こったのか。

 どのような超絶技巧が、この劇的な変化をもたらしたというのか。

 そうではない。

 この変化を実現するのに、俺はテクニックめいたことを何一つやっていない。やったのは、「めっちゃ水っぽい絵の具でマシンレイス氏の全身を塗りたくった」。ただそれだけである。

 これを「ウォッシング」もしくは「シェイディング」と言う。水っぽい絵の具は、毛細管現象をなんかいい感じにアレしてミニチュアの凹部分にだけ色が溜まり、どんなヘタクソでもR.E.A.L.な陰影をつけることができる手法である。

 茶色い袖の部分には焦げ茶の色水を、その他の部分には黒い色水をぬりたくり、乾燥を待ったのだ。自分の手で初めてウォッシングをした際の衝撃と感動は、恐らくお前が想像する五倍くらい強く深い。それほどまでに、行いの簡単さに対して効果が絶大すぎるのである。もはやドラッグの一種と言っても良い。塗り残しや、あるいは凹部分に不必要に鉄色が溜まってしまった案件も、ウォッシングさえやってしまえば九割がた隠蔽することが可能だ。

 なんたるお手軽な快楽か。こんなものに手を染めてしまったらメキシコの鉄火場で生き残ってきた真の男たちの魂が堕落してしまいかねない。罪深いにもほどがある。これもまたマッポーの一側面だとでも言うのか!?

 でまーあとはなんかこう、ハイライト? 的なことをするわけなんだけんどもさ。画像の袖部分を注意深く見てもらえればわかると思うが、ウォッシングが乾いた後に、袖の凸部分にやや明るい色を乗せている。こうすることでミニチュアの立体感が遠目にも強調されて、なんかいい感じになるわけなのだが、お前はこれをやらなくてもいい。ハイライトは正直「サルでもできる」と謳った意識低いペイント解説の趣旨にそぐわない。まっとうなペイントカラテを要求してくる分野なのだ。

 だいいち、

 大差ねーよ!!!!!!

 いや、大差ないのは俺がめんどくさがって一段階しかハイライトを入れていないせいである。ここから二段階、三段階と徐々に明るい色を乗せていくことで、さらなるクオリティの向上が見込めるのだが、めんどくせえ!!!! でえじょうぶだ神が我々に与えてくれた秘蹟たるウォッシング先輩に縋ればカラテなどなくともカッコイイミニチュアは作れるのだ!!!! それだけを記憶して今日は帰ってほしい!!!! 以上!!!! 閉廷!!!!


 参考までに、実際のゲームシーンがいかなるものであるかを記録したバトルレポートへのリンクとか貼っておく。

 スペースマリーンVSデストラクション

 ここで俺がミニチュアを交えて戦った真のペイント猛者たちの、荘厳なまでに圧倒的・絶対的ペイントカラテ力量にお前はおののき、平伏し、「やはり自分なんて・・・・」とか思ってしまうかもしれないが、安心しろ。彼らはザイバツでいうところのグランドマスター位階だ。ここまでのカラテの持ち主は実際希少である。ザイバツニンジャたちが「グランドマスターではないから」などという理由で蔑まれたことが一度でもあっただろうか。そうゆうことだ。

 また、こんな意識低い記事ではなく、まっとうに高みを目指したい向上心ある真の男がいるなら、

 このマガジンを購読してみるのも良いだろう。たゆまぬ修練の果てに、いつかはグランドマスター位階に至れるかもしれない。

 以上だ。

 

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