見出し画像

平等に生きたきゃ山の中へ行け

ニュージーランドの南島の奥深く、「世界一優雅な散歩道」の異名を取るトレッキングコースがある。

「ミルフォードトラック」。

ブナの木やシダ植物が生い茂る原生林を抜け、標高1000m以上の峠を超えて、フィヨルドの入り江に至る、全長33.5マイル、約54kmの行程だ。

ミルフォードトラックを歩くには、すべての装備を自前で準備する「インディペンデント」と、専門の会社が装備や食事を用意してくれる「ガイデッド」の2つの方法がある。

ガイデッドの方は豪華な宿泊施設や食事が楽しめるが、そのぶん費用は高額になる。それに比べてインディペンデントはかなりお値打ちなので、ワーホリやバックパッカーに人気だ。

住所不定無職の身であるおれが選んだのは当然、

ガイデッドですよね……

携帯の電波も届かない山奥だとは考えられないほど快適な設備の中、トレッキングを楽しむことができた。

毎日10km〜20km、ときに高い段差のある岩場を登り降りすることもあり、へとへとになりながらたどり着いたロッジで食べるコース料理は最上の味がした。

その上、今年は例の伝染病の影響で海外からの旅行者がおらず予約がガラ空き。一番安い相部屋プランを選んだにも関わらず、最後まで部屋を貸し切りで使うことができた。ラッキー!

最終日にはこんな雄大な景色をのぞむ、広々としたダブルルームを独り占め。

さらに幸運なことには、全行程を通じて一度も大雨に振られなかった。というのもミルフォードトラックは世界的に見ても雨の多い地域に属しており、3日に2日は雨が降るくらいなのだ。

ところが蓋を開けてみれば、峠越えの日も見事な快晴で暑いくらい。

最終日のクルーズでも雲一つない青空が広がった。現地のガイドさんいわく、これほど天気に恵まれたのは今シーズン初めてのことだったそう。

ガイドや食事を用意してもらっているとはいえ、一日に長距離を歩くのはそれなりにきつい。山越えの日は、一歩道を踏み外したらアウトのような場所もいくつもあった。

しかし、道中で息を呑むほどの景色や、いきいきとした野生動物の姿に出会うと、もう全部許せてしまうよね。

途中で危うく遭難しかけたり、最終日に右膝をやってしまい2日経ったいまでも湿布のお世話になったりしてるけど、楽しく充実した5日間でした。

山の中でひとりっきりになって、ふっと死の影を感じる瞬間を経験すると、日常のちまちましたことがどうでもよくなる。

正直、こうしてスマホを握って、誰に届くともしれない言葉を綴るのでさえも、なんとくだらない自己満足に時間を費やしていることやらと自虐的に思えてくる。

自然は誰にとっても平等に美しく、平等に厳しい。貴族も平民も、富豪も貧民も関係なく、命を取られるときは平等に死ぬ。文明社会にいるから不平等が気になるのであって、平等に生きたいなら山の中に行けばいいのだよ。

ニュージーランド一周旅行を始めてから山に心惹かれ続けているが、それはきっと、次に行くときは帰ってこれないかもしれないというスリルが自分の破滅願望と噛み合っているからだろう。

ちなみに、この4泊5日の旅行で2300ドル(約17万円)かかりました。これでまた一歩経済的な死に近づきました。よかったですね。

お読みいただきありがとうございます。サポートいただいたお金は地元のカフェやレストランなど、ニュージーランドの経済を回すのに微力ながら使わせていただきます。