モンスター

こんなに怖い思いをしたことがない。

これまでの人生はとんとん拍子に過ぎていった。行きたい高校、生きたい大学に入り好きな人とは付き合うこともできた。やがて、段々と天狗になり始めた。やれば何でもできると思うようになっていた。実際、何でもできたのだから。できない奴を見ると勝手にいらいらし、「ちゃんとやれよ」と罵った。人はみな何でもやればできると思っていた。

だが、それは間違っていた。自分はただ、できないことから逃げていただけだった。苦手な歴史科目を選択せずに受験し、脈なしだと思ったら早々に手を引いた。僕が罵った人は、僕ができたことが苦手なだけだったのだ。たまたま僕が得意でそいつが苦手。それだけだ。そいつは苦手に挑戦していたのだ。

今、僕が逃げていた様々なことが目の前に現れた。それは、本を読むことだったり、英語だったり、はたまた苦手な食べ物かもしれない。そいつらが手を組んで勇者である僕を倒そうと巨大な怪物に化けて立ちはだかっている。足がすくむ。思うように剣が振れない。いや、そもそも剣など持っていないかもしれない。僕は何を持っているのかを探すところから始まる。そんな戦いに果たして勝てるのか。怖い。

向こう側にいる勇者は「僕も同じだったよ」と声をかけてくれる。しかし、その人の手には大きな盾と大きな剣が見える。

ああ、僕の盾は、どこ。僕の剣は、どこにあるんだ。

「何もなかったから素手で戦ったよ」とおしゃべりしているのが聞こえる。そいつは筋骨隆々だった。

僕はわかった。人と同じ武器を探すのではなく、自分の武器を探せ。自分だけの武器があるはずだ。たとえそれが大きな剣や、逞しい肉体じゃなくてもいい。

自分だけの武器を見つけろ。そして、一歩前に踏み出せ。見える景色が変わるだろう。

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