「失格人間紀行」(5)
「失格人間紀行」
ー2018年 4月14日 (5日目)ー
長崎の地に降り立った。
ここで行くべきところは流石の僕でもわかる。
というか、この前の吉野ヶ里遺跡に行った時に思い出したのだけれど。
さて、行先が決まっているのだからちゃっちゃと行動することにしよう。
鳩が飛んでいる。
真っ青な空を、それはそれは悠々と。
そのうち1羽が翼を休める。
遥か天空を指す一本指に止まって。
到着した、
長崎の平和公園だ。
「久しぶりだなぁ…、こんなにデカかったっけ」
平和公園、平和記念公園とも言われるが、正確には平和公園だけでいいらしい。
僕は歴史に詳しい訳では無いが、ここで何が祈られているのかは流石に知っている。
さて…来たはいいものの、何をすべきなのかはよくわかっていない。
このままでは見て終わり、という感じになってしまうがそれでいいものか。
まあいいかと歩き出す。
どこかで破裂音がした、
周りを見渡しても何も無い、
ただ1羽の鳩と目が合った気がした。
ーーーーーーーーーーー
移動してきた、そういえば朝から何も食べていない。
それを思い出し、長崎といえばということでちゃんぽんを食べに来た次第である。
うん、美味い。
細かい味の違いなど僕には分からないけど、野菜も麺もかなりのボリュームで、
食べごたえがあるし、野菜が甘い、不思議だ。
「……本日未明、東京都渋谷区で男性の遺体が発見されました。男性の身元は未だ特定されておらず、今後も捜査を続けていくということです」
「いやぁ、こわいね、事故なの?事件なの?」
「えー…警察の調べによると、鋭い刃物で胸部を数ヶ所刺されていたようですね」
「物騒だなぁ、早く犯人が見つかるといいけどねぇ」
店のテレビでニュースが流れている。
確かに物騒だ、数ヶ所も刺すって事は相当に恨んでいたのだろうか。
気分の悪くなる話だ、ちゃんぽんが内臓に見えてきた。
「怖ぇなぁ、兄ちゃんも気をつけなよ」
店主が僕に声をかける。
「はは、ありがとうございます。でも東京の話ですし、大丈夫ですよ」
「ん?なんだ兄ちゃん他所の人か?知らねぇんだな」
?、知らない?なんの事だ?
「どういうことです?」
「この辺でも最近殺人があったんだよ、先月から数えて3件!おっかねぇよなぁ」
初耳だ、ニュースになってもおかしくないと思うのだが。
「それは…でも見たところ街は普通のようでしたけど」
「そうだねぇ、みんな他人事なんだろう。自分なわけないってさぁ、日本人の悪いとこだぜ」
しばらくして店を出た。
不意に怖くなり振り返るも誰もいない。
怖くなり?死ぬのが怖いのか?
そりゃそうだ、死ぬのは怖い。
他人にその時を決められるなんてまっぴらだ。
個人的に痛いのも嫌だし…。
「うーん…この辺は特に見る所は無さそうだな」
店主に貰った地図を見ながら次の行き先について思案する。
「あ、やばい、宿決めてなかった。この辺にあるかな」
地図を見るもそれらしきものは近くに無いようだ。
これは困った、初の野宿となるんだろうか。
『この辺でも最近殺人があったんだよ、先月から数えて3件!おっかねぇよなぁ』
店主の言葉を思い出す。
思わず身震いした。
野宿は辞めよう、何がなんでも宿を探さなければ。
「ネカフェでも民宿でもいいから…何かないのか」
しばらく歩いてみるもそのようなものがある気配はない。
スマホのありがたみを知った。
解約だけにして本体は持っておけば、すくなくともWiFiさえあれば調べ物はできるのに…。
「とりあえず戻るか」
振り向いた瞬間だった。
風が吹く、顔に当たる。
嗅いだことのある臭いがする。
生き物が死ぬ時の臭い。
「あんた死にたがりだろ?」
7~8メートル先に男が立っていた。
僕とそう変わらない年齢だろう。
ただ今まで出会った誰とも違う異質さを持っていた。
生きているはずなのに、存在を感じるのに、
今すぐ逃げだしたい程の死臭がする。
「なんだ…お前…」
男が近付いてくる。
逃げたいのに、脚が動かない。
「ちげぇのか?」
何か、言わなければ。
こいつに呑まれる。
「確かに…死ぬつもりだ。でも、まだ、やらなきゃいけない事がある。
お前の世話には、ならない」
数秒か数分か、男は僕の目をしばらく見つめ、
「ふーん、そう。じゃ、死にたくなったら言ってくれ」
そう言い残して去って行った。
「…!!オエッ…グッ…ゲエェェェ、ゴホッゴホッ」
緊張が解け力が抜けた、
我慢していたが吐いてしまった。
なんなんだ、あれは、
もう二度と、会いたくない。
しかし何故か、また会う気がする。
「はっ…はっ…」
呼吸を整える、手足の震えを落ち着かせる。
「人間の天敵は人間って、よくいったよ」
ショックのせいか駅からここに来るまでの道にビジネスホテルがあったのを思い出した。
今日はもう休もう。
残りは明日行くことにする。
ーーーーーーーーーーーーーー
シャワーを浴び終えベッドに腰かける。
今日撮った写真を見返す。
平和公園で鳩を撮った写真。
「ん?」
その奥、噴水の向こうにさっきの男が写っていた。
「こいつ…」
一体なんだったのか。
まさか旅の序盤であんなものに出会うとは思わなかった。
確かに死にはするが、こんな所で殺されていいわけがない。
殺人事件も、あいつの仕業なのだろうか。
「考えても仕方ない。
もう寝よう。」
地下だ、空気が冷え切っている。
胸にナイフが刺さっていた。
酷く冷たい、不思議と痛くはないが、心臓が凍りつくようだ。
誰かが何処かで呼んでいる。
誰かが何処かで泣き叫ぶ。
やめてくれと耳を塞いでから気づいた、
どれも自分だ。
誰か助けてくれと天を仰ぐも天井があるのみ。
暗い地下には誰も目を向けることは無い。
諦めて倒れる。
「死にたがりだろ?」
ああ、そうだ、死にたいんだった。
刺さっていたナイフを抜いて、喉を掻ききった。
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