「失格人間紀行」(2)

「失格人間紀行」
ー2018年 4月11日 (2日目)ー

さて、ひとまず家を出て、明日からの計画を立てるためにネットカフェに泊まった。
まずは九州を一周する事に決め、今夜には福岡を離れる。
沖縄は少し後になりそうだ。

そういえば書いていなかったな。
僕は福岡県に住んでいた。
中でも九州の北端、北九州市で生まれてからずっと暮らしていた。
特に面白い人生を歩んだ訳じゃない、僕の人生については本当に、書こうと思えば2ページにも満たないようなものだ。

家族構成なんかは…必要になったら書くとしよう。
これに関しては少々複雑な事情がある。
あまり書いてて気持ちのいい内容では無いだろうから、今は勘弁して欲しい。
僕がこの紀行文を飽きたりしない限りは、いつか書くことになるだろうから。

3~4時間が経っただろうか、時間は午前11時。
佐賀行きの電車まではまだ時間がかなりある、折角だから思い出の地でも回ってみようか。
そう思い立ちネットカフェを後にした。
まずは……。

数十分後
だだっ広い公園にやってきた。
夏には花火大会の会場になる、遊具などはほとんど無く、ウォーキングのためのタータンと川を眺めるベンチがある程度だ。
ここの祭りには友達とよく来ていた。
人混みにはめっぽう弱いのだが、祭りは好きなので、青い顔をしながらなんとか花火を見上げていた。
人々の喧騒と、そこかしこから流れてくるソースの匂い。
どこかで子供が泣いている、不良が怒鳴りあっている、若者が呼び込みをしていて、
遠くの方でのど自慢をやる音がする。
その全てが1つの爆発音と、
そこから産まれ、散る花に吸い込まれる。

美しい思い出だ。
惜しくはない、もう充分だ。

友達とここでした話を思い出す。
「お前は最低だな」

「はは、やっぱりそう思うか」

「ああ、でも、人間なんてみんな最低だよ」

「そうか?言い過ぎだろ」

「いいや、そうだよ。
でも別にそれでいいんだ、最低で構わないんだよ。
最低だってなんだって、一生懸命に生きようとした結果なんだ。
誰もそれを否定出来ない、全部正しいやつなんてこの世にいねぇからな。
だからさ、
死ぬなよな。」

「え?ははっ、なんだよそれ、死なねぇよ」

「…だよな、わりぃ」

「ほんとだよ、まったく。縁起でもない」

……嘘をついた事になるのかな。
いやまさか、あの時はこうなるなんて微塵も思っていなかった。
希望に満ち溢れこそしてないが、明日に絶望もしていなかった。
ただなんとなく生きている、それだけで充分だった。
誰もがきっと、最初はそうなんだ。

次に山に登った。
この辺では有名なスポットである。
ロープウェイで山頂まで着くと、夜なら美しい夜景が、
昼でもこの辺りを一望できる展望台がある。
カップルや家族連れが殆どを占めている。
僕みたいに1人で来ている人は稀だ。

パシャ

一枚写真を撮った。

ここも友達とたまに来ていた。
流星群を見に来た事もあったし、
失恋した友達の傷を癒すためにみんなで連れてきたこともあった。
他にも、数回。
ともあれもう来ることも無い。
どうせなら夜景を見たかったが、昼の景色もそう悪くない。

「あ…そうだ」

これはとてもいけないことなので、
これを読んでいる誰かさん、良い子の皆には真似して欲しくない。
どうかもうじき死ぬ予定の若者の、悪ふざけとしてあたたかい目で見てほしい。
幸い平日ということもあって人が殆どいない、咎められることは無いだろう。

『俺はここにいた』

もしかしたら必要になるかもしれないと思って持ってきていたマジックペン、
それで展望台の手すりの端っこにそう書いた。
頑張らないと見えないし、誰も触らないような場所。
落書きはいけないぞ、これを読む人はしないように。

こんな事を書いてしまうのは、やっぱり死ぬのがどこかで怖いからなのだろうか。
それとも、誰かに見つけてほしいのだろうか。
こんなものを書いているくらいなのだから、誰かにはこの旅の存在を、俺の余生を知ってもらいたいとは思っているみたいだが。
自分で自分がわからない。

なんのための人生だったのだろう。

下山した、空が赤く染まり始めている頃だった。
最後に1箇所行きたいところがある。
そこに寄って、駅に向かおう。

しばらくバスに揺られて着いた、
地元の大きな神社だ。
いつ来ても人の気配がない、
だが不思議といつも綺麗に掃除をされていて、
どことなく温かく、それでいて緊張感がある。
何度もここにお参りした、
初詣は勿論、受験の時も、ライブの当選祈願もしたし、まあ、それ以外の願いもした。
効果があったかは覚えていない、
そんなにいい事があった記憶も無い。
ああ、だけど、何故かここでおみくじを引くと必ず大吉が出る。
1度全部大吉なのではないかと疑ったが、友達は中吉や吉などを普通に引いていた。
僕はこの時点で運を使い切ってしまっているのではないかと思っている。

「久しぶりに引いてみるか」

チャリン
箱に100円を入れ、
くじを引く。

……大吉だ。

「うおっ」

強い風が吹いた、
おみくじは飛んでいってしまった。
読めたのは大吉と、旅行の所だけ。

『初のうち思ふ様に無』

…後半軌道に乗ってくるということで、いいか。
おみくじなんてそんなもんだ。

パシャ

社の写真を何枚か撮った。
気を取り直して駅に向かう。

カランカラン

風に揺られて鈴が鳴いた。
別れの挨拶のように思えた。

駅につき、電車に乗った。
2駅ほどして席が空いた。
座ると疲れが出たのかいつの間にか夢の中にいた。
誰かが遠くで手を振っている。
それが恐ろしく不安で、これ以上失うものなどない僕から、何を奪うつもりなんだと叫びたくなった。

数時間後には新天地だ。
ようやく旅が始まった気がする。
じゃあ今日はこのへんで、
おやすみ。

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