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「例えばの話なんだが」

しばらく黙っていた友人が急に語り出した。

「大切な人、まあ好きな人とか家族とか友達でもいいけど、お前のそういう人達を俺が殺したらどうする?」

何を言ってんだとしか思えない。
それでも真剣な顔で答えを待っているようなので、真剣に考えてやった。

「まずは理由を知りたいかな、きっと怒るし絶望するし、殺してやりたいとすら思うかもしれないけど、とりあえず理由を聞きたい」

ふむ、と言って友人はまたしばらく黙り込んだ。
そして口を開いた。

「理由が無かったらどうするんだ?」

ふむ、と僕も考える。

「それは無いよ、絶対に無い」

言い切った、言い切れたから。

「わかんねぇだろ、なんとなくかもしれねぇ」

その言葉に思わず笑ってしまった、人は意外と自分の事がわかっていないものなんだなと。

「理由が無いのにそんなことをするようなやつを、僕は友達に選ばないよ」

そうかな、と友人は言った。

「結局は他人なんて一部分しか見えないだろ。どんな関係の人同士だって、他人だ、自分とは違う生き物だ。
相互理解なんて出来ない、意思疎通ができる程度。
その通じた意思すらも、本心とは限らない」

で、と切り出してみる。

「何が言いたいんだ?」

僕は彼に向き直り問う。
そして彼も僕に問う。

「なんでこんな事をした?」

まだ生暖かい血溜まりの中で、よく研いだナイフを持った僕を見ながら。
怒りと絶望で顔を歪ませ、全身を震わせながら。

「それはどっちの理由だ?
殺した理由なら…あちゃー…そういえば理由を考えておくのを忘れてた」

彼の家族だったものの頭部を蹴り飛ばしながら言った。
首をナイフだけで切断するのは結構大変だった。

「お前が!!お前がこんな事する必要無かっただろ!
なんで…なんでこんなこと…
お前、これから自分がどうなるのか、わかってんのかよ……!!」

怒りをぶつけてくる、そうだ、君はそういうやつだ、それでいい。

「……………………あり……がとう…」

彼はその場に崩れ落ち、泣きながら僕に礼を言った。
呆れたものだ。

「おいおい、家族を殺した殺人犯にお礼なんて言うなよ、その思考は邪魔だ」

血は拭かなくてもいいだろう、家族が血まみれで倒れていたらそりゃ起こしに行くだろうし。
ナイフの指紋も気にしなくていいだろう、血でもう拭った。この程度でいいのかはわからないが、まあこれだけわかりやすい状況で指紋を調べたりはしないはずだ。

「ありがとう…ありがとう…ごめん…ごめんな…」

彼は壊れたおもちゃのようにお礼と謝罪を繰り返している。

「だからもう辞めろって、無駄にする気かよ。
お前の腕を信頼してるからこんなことしたんだぜ?
これからしばらくは続けなきゃいけないんだ、うまくやってくれよ」

ゥゥゥウウウウウ

サイレンが聞こえてきた、警察が来たようだ。
タイムオーバーだ、お別れだ。

「うまく演れ、気を抜くなよ、僕はここで退場だからな」

ガチャッ

「武器を捨てて手を上げろ!」

突入した警察官の指示に従う。
さて、うまく演れとは言ったものの、僕はズブの素人なのだが、大丈夫だろうか。
まあ、こういうのは習うより慣れろだろう、
成り切ればいいのだ、きっとやれる。
さて。

「どうぞ逮捕してください。

僕が殺りました」

昔、彼の部活を観に行った時、ほんの少しだけ憧れた事を思い出した。
初舞台が悪役というのも悪く無いだろ、きっと。

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