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聖ちゃん日記 #2

◉第2話 -2015年5月-

何かを伝えようとして自爆する。
あの日、僕は聖ちゃんに告白した。なんか勢いで。

好きになったと伝えたら、「先生、黒岩くんに嫌われてると思ってた。ありがとう」と返された。なんで?っていう黒岩くんの表情がかわいい2話ですね。聖ちゃんは普段と同じように接しようとするのに、黒岩くんは「僕のことも先生に好きになってほしい」なんて言うので、危険信号察知して距離をとる。それを追いかける黒岩くんっていう構図。

勝太郎さんの両親との顔合わせもありました。聖ちゃんにとって勝太郎さんは常に自分の前を歩く存在、背中を追いかける存在。反する黒岩くんは、自分が背中を見せなければいけない存在なわけです。聖ちゃんが黒岩くんに惹かれた理由はここにもあったか、と思います。斜め上を見上げる憧れの視線じゃなくて、自分を並行に見つめてくれる視線が必要だったのかもしれない。自分の存在価値を認めるにはそっち方向の矢印だったのかもしれないですね、聖ちゃんの場合は。

一方の黒岩くんなんですが、自分に好意を持っているるなちに対して

「あいつ、気持ち悪い。俺と同じくらい」

って心の声で言うシーンがあるんですよ。この台詞があるの、秀逸すぎませんか? 後の心の声にも似たようなのがあるんですが、ここでの気持ち悪いものっていうのは恋愛感情のことかと。というか恋っていうものを自分に向けているるなちのことを、気持ち悪いって思うんですよ。それってつまり俺のことってなるわけです。もっと言うと、るなちは末永のことは諦めて、私にしてって言いに来たわけですから、自分のことを好きじゃない相手に向かって自分のことを好きになれって言うことも、気持ち悪いに入るんだと思います。自分のことをどうとも思っていない相手に恋愛感情を向けることって気持ち悪い行為で、それと同様、どうとも思っていない相手からの好意自体も気持ち悪いんですよね。

余談ですがこれと同じような構図が『G線上のあなたと私』にもありました。あちらも大変秀逸でした。

その後のあの体育祭ですよ。自分のことをあからさまに避ける聖ちゃんに黒岩くんが

「どうして僕のことなるべく見ないように、話しかけないようにするんですか?好きって言ったから?」
「子供扱いしないでください」

って迫るんですが、それが体育祭で起こるってことも意図だろうと思うわけです。塩谷先生も言ってましたが、若さの象徴なんですよね、体育祭ってとくに。黒岩くんが競技で白旗とって聖ちゃんに笑いかけてたり、ハチマキ交換したり、そういう学生特有のものが、黒岩くんの言う「子供扱い」ってワードにリンクしている気がします。

それを聖ちゃんは「はっきり言ってこういうの迷惑だから、やめて」と突き放した。その後黒岩くんが心の中で

「なんだこれ。おかしいだろ。もっとなんか、素晴らしいものじゃないのか、恋って」

って言うんですよ。黒岩くんの恋は全然上手くいかない。それは相手が先生だからか、そうじゃないかもしれないけど。でもそれでも、るなちにはハチマキ渡さないで先生の車のミラーに巻いて残した。それってやっぱり先生のことを遠い存在として見てないってことにも思えますよね。同級生とするようなこと、たとえ意思表示であってもただひたすら先生に向けてる。それを見て聖ちゃんは本格的にどうしようか、と思うわけです。

でもその後いなくなった黒岩くんを聖ちゃんが見つけて連れて帰るシーンでは、やっぱり自分は先生だから、先生でいないとって気持ちが軸にあるんです。「僕のこと嫌いにならないでください」って抱きしめるところの、「黒岩くん、骨が当たって痛い」っていう聖ちゃんの返しがすごく中学聖日記だなって思いますね。そっか、中3だったか、と思い出させるというか。さっきは冷たく突き放したけど、やっぱり塩谷先生に言われたように、担任の先生なら生徒の内面の事情にも寄り添わないといけない。距離を置きたい個人としての気持ちと、教師としての距離感っていうのが掴みづらくてしんどいんですよね。

結局家に帰れない黒岩くんの傷の手当てをするために部屋に上げるんですが、黒岩くんからしたらえ、そんなこといいの?って感じなんですよ。どうして僕に優しくするのかって聖ちゃんに聞くと「怪我してるんだからさ」って返されますが、なんだって聖ちゃんはまだ先生になったばっかりだから、ラインなんてものあやふやなんですよ。その後ティッシュに手を伸ばした黒岩くんを過度に察して避けてしまう描写があって、

「わたし今、意識しすぎた?」

って聖ちゃんの心の声が入るところも唸りました。だから黒岩くんは、度々もしかしたらって思うんですね。まわりの友達とか大人の人には無理だって負け戦だって言われるけど、自分は手ごたえがないわけじゃないから。ほかの人は表面上だけ見て好き勝手言うけど、その手ごたえの感覚を自分だけが分かってる。だからまわりとの溝が広がっちゃうんですよ。そんな中で聖ちゃんには、ふいに距離を置かれたり、また手を差し伸べられたりするから、なんで、やっぱり、もしかしたら、が余計に増えてどんどん二人の世界に意識が移っていく。まわりのこととか見えなくなってって、こういうことですよね。2話はそういう、駆け引きに及ばないくらいのきめ細やかなやりとりが痛いくらい伝わる回でした。

最後にまたスタイリング的な話ですが、今回も黒岩くんと二人でいるシーンの聖ちゃんは比較的色や柄のあるトップスを着てるんですよね。聖ちゃんの華奢な身体のラインが出るような、ニットのトップスとか。あとやっぱり中学校にいる間の聖ちゃんって、わりとイマドキというか、太めのボトムスに細いベルトをしてたりチェック柄が多かったりするんですよ。教師なんだけどあんまり教師教師してないというか。若いんですよねまだ。黒岩くんとの差が視覚的にさほど見えないようになってる。大きくあるのは教師と生徒という立場の差だけなんですね。黒岩くんから見た聖ちゃん、さぞかわいいんだろうと思います。


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