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#BlackLivesMatter を叫びながら、非当事者ができること

当事者性と非当事者性について考えている。

目次
・当事者ではない立場から
・日本における「難民」の定義
・難民申請のプロセス
・罰則を巡る専門部会での攻防
・#BLM を叫ぶだけで終わらない


当事者ではない立場から

#BlackLivesMatter が報道されるようになって、まず私の目に入ってきたのは燃やされる街や略奪されるスーパーマーケットの惨状だった。いまでこそ平和的なデモも多く目にするが、一番最初のその衝撃は強かった。
それらの抗議手段について、こう擁護する記事を読んだ(1)

アメリカ史の大半において反白人至上主義に反する運動の中の最も正当かつ効率的な策略が、まさに略奪だったということである

暴動と言われるほど加熱した抗議と、それを容認する主張を見て、ためらいがあった。抗議に賛同することへのためらいと、反論することへのためらい。両方があった。

賛同しかねるのは、その行為は普段私が持ちうる倫理を逸しているからだ。盗みや暴力はいけないという前提を揺るがしてくるからだ。
それでも面と向かって抗議者たちを糾弾できないのは、彼らがその倫理を、いままで守っていたはずの倫理を、捨てざるを得ない窮地に立たされているとわかるからだ。前述の記事は2014年のものである。それが6年経っても有用とされる通り、今回と同様の理不尽な殺人が繰り返し起きているからだ。「黒人だから」という理由で。

だから何も言うことができないでいた。私は完全に、その問題に対して不利益を被る被害者ではなかった。どちらかというと現状を黙認しがちな加害者になりうる。何を言うべきか決めかねて、ただ情報を追うことしかできないでいた。

その過程で、非当事者なりにこの構図に既視感を覚えた。ある黒人男性が「こんなことはずっと繰り返されてきて、俺たちはその度に抗議した。毎晩、毎晩、毎晩だ」と叫んでいた。

その叫びは地元である沖縄にもあると思った。本土復帰前、そして復帰後も、米軍属関連の事件・事故がある度に抗議運動が起こった。何度も、何度も、何度も。中には暴動もあった。それでも変わらない。安易に自分ごととして共感や投影するのは違うと思う。でも同じだと感じた。

当事者と非当事者を分かつ線が歪んだように見えた。だから無視できなかったんだとわかった。

そうして言葉を探しあぐねている間に、警官に殺害されたジョージ・フロイド氏の弟、テレンス・フロイド氏が発言した。平和的な抗議を求める言葉、彼にしか言えない当事者の言葉だった。

あなた方の怒りは私の半分にも満たない。

これを言えるのは、彼ら家族しかいない。自分自身でその怒りを押さえ込んで、憎しみに飲み込まれない姿を見せた。そして理性を働かせることを大衆にも求めた。これは彼らにしかできない。

その言葉を受けて、ようやく自分に引き寄せてできることを考えられるようになった。当事者の言葉は強く、重い。では非当事者の役割は何か。日本にいる、日本国籍の、日本名を持つ私にできることは。
沖縄のことを考えた。私が沖縄の諸問題の当事者であるとき、非当事者に求めたいのは、知ってもらうことだ。
次いで大学時代を過ごした茨城のことを考えた。じつは、アメリカの黒人差別を見て連想したのは茨城の方だった。なぜなら茨城は東日本入国管理センターを擁しているからだ。

ここから先は、私が卒論以来おそらく初めて、強固な意地を持って調べものをした記録になる。引用が多く読みづらいかもしれないが、難しい部分はなるべく読みやすくなるよう、文意を外さない程度に言葉を平易にしている。もちろん本来は原典通りに引用するのが筋だとは思うけれど、私には噛み砕かないと理解するのが難しい部分もあった。
気になる人はぜひ文末のリンクをたどって、もし誤りがあれば指摘してほしい。
そして一度考えてみてほしい。

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日本における「難民」の定義

茨城県牛久市にある入国管理センターは、在留資格がないと見なされた外国人を帰国まで収容する施設だ。
在留期間を過ぎた滞在者や、就労ビザ不保持の違法就労者、難民認定されずに強制退去を命じられた難民申請者などが収容され、収容年数が数年に及ぶケースもある。
収容者の身体・精神状態の悪化が問題視され、ハンガーストライキや自殺未遂、果ては餓死なども起きている。医療体制が不十分で命を落とした収容者もいた(2)。人種差別とはまた違うが、ルーツを異にする他者が苛まれている部分は通じる。
ここでは、主に難民制度に主眼を置いて考えることにする。

そもそも「難民」とは、1951年の難民の地位に関する条約でこのように定義されている(3)

「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」人々
※経済移民との違い
経済移民は通常、より良い生活を求めて自発的に国を離れる。自国へ戻っても政府の保護を受けることができる。
難民は、迫害の恐れのために国を逃げ出し、故郷での状況が安定するまでは安全に帰国できない。

対して、法務省の「難民認定制度に関する最終報告」では、日本における「難民」を以下のように定義されている(4)

我が国の難民認定制度においては,「迫害を受けるおそれがある」ことが極めて重要な要素となる。
その反面,保護を必要としている避難民であっても,その原因が,例えば,戦争,天災,貧困,飢饉等にあり,それらから逃れて来る人々については,難民条約又は議定書にいう難民に該当するとはいえず,「難民」の範疇には入らないこととなる。

漠然と「自国での生活が困難な人=難民」というイメージを抱いていたが、日本の難民の定義では、戦争や貧困は当たらないとしている。その一因を、難民支援協会ではこう説明している(5)

難民条約は、第二次世界大戦の結果、難民となった人を助けるべく生まれた。
しかし、東西冷戦を背景に採択された条約は、西側諸国が共産主義を非難する政治的手段として使われた側面があったことも否定しがたい。
難民の定義に「政治的意見により迫害を受けるおそれがある者」という文言があるのは、そういった背景があることを表していると考えられる。

それに加えて、同協会は「日本は独自の解釈があり、難民として認定される範囲が狭い」とも指摘している。

「個別把握論」
政府から個人的に把握され、狙われていなければ難民ではないという日本独自の解釈であり、認定されるべき人の範囲を極端に狭めている。

戦争や貧困が難民の理由に当たらないとするのは、「個人的に」政府から狙われているわけではないから、という理屈なのだろう。

難民申請のプロセス

「難民」の定義の段階で対象者をここまで絞り込んだ上で、実際の難民申請手続きにおいても壁は存在する。
まず、難民申請のプロセスを見ておく(6)

この過程で、申請者は自身が難民であることを立証しなければならない。先述した法務省の最終報告では、以下のように言及している。

難民であることの立証責任は,申請者に課せられている。もっとも,難民認定の申請者は,立証困難な場合が少なくない。
(難民申請者が)提出した資料のみで適正な認定ができないおそれがあるときは,難民調査官が事実の調査をする。
事実調査は容易でなく,長期化する案件も少なくない。特に最近は,認定制度を濫用する者が各種証明書を偽造・行使する事案が増加しており,事実認定は一層困難かつ複雑となりつつある。

対して、実際の難民申請の支援をする難民支援協会での見方はこうだ。

(日本の)審査では、難民本人が母国に帰れない理由を、客観的証拠に基づいて証明することが要求される。
しかし、そもそも迫害から逃れてくる難民が、その証拠を持って逃げること自体、現実的ではない。出国する前に当局に見つかれば、さらなる命の危険にさらされる。時には、母国に残る家族に危害が及ぶことを心配し、証拠書類を全て焼却してから逃げる人もいる。
また、証拠資料を自力で翻訳できる日本語力を持つ申請者は極めて稀であり、翻訳費用の公的支援もないため、十分な証拠書類を自力で提出することは、ほとんど不可能な手続きになっている。

以上の傾向から、日本において難民認定はされにくい。2018年、日本で認定された難民申請者は、1%にも満たない(5)

1975年〜2002年においてはインドシナ三国(ベトナム、ラオス、カンボジア)からの難民を1万人以上受け入れていた時期もあったようだが(7)、受入事業は2005年に終了している。
現時点では東京五輪を視野に入れてか、かなり厳格化していると言える。
しかし、強制退去を命じられてもすんなり帰国できない事情を持つ者も多い。結果として入国管理センターの収容者数・収容年数が増加し、病死や自殺など健康に害を及ぼすケースが後を絶たない。

罰則を巡る専門部会での攻防

収容長期化を改善しようと昨年から行われている専門部会(8)があるが、そこでの提言骨子では、母国への帰国を拒否する在留者への罰則を検討する案まで出ている(9)

その提言に対しての各委員の意見書を見るに、現時点で部会の参加者の半数以上が提言に賛同しているようだ。そもそもこの提言は専門部会委員長の私案である。このまま通ってしまう可能性の方が高いのかもしれない。
そう思いながら意見書を追っているうちに、必ずしも賛同の声ばかりではないことに気づいた。9人中、3人。私の汲み取り方に誤りがなければ、委員会のメンバー9人のうち3人は、少なくとも罰則を疑問視し、なかでも特に2人の意見が印象深かった。
怒りを抑えて、理性の言葉で、差別と闘っているように感じた。

まず杏林大学総合政策学部の川村真理教授。他国の例や外部の委員会での所見を参照しながら冷静に改善点を述べ(10)、他委員の罰則検討案に対して反論を加えている(11)。川村教授の主な主張はこうだ。

・長期収容を改善するため、収容期間の上限設定を検討すること
・収容者が利用可能な司法審査や第三者委員会を設けること
・難民には当てはまらなくとも、国際的に保護が必要な者を明確化すること

そしてもう1人、宮崎真弁護士は、自身が見聞きした入国管理センターの様子を訴えながら、透明性の確保、拘束期間の明確化、管理センターの環境整備などを提言している(12)

東日本入国管理センターの視察では、糞尿が廊下に撒かれている状況も見、ほとんどの者が医師の処方薬の投薬を受けていることを知り、被収容者が遠くから話を聞いてほしいとの呼びかけを受けながら何らの応答もできなかった。

私はこの両名を支持したい。根拠ある提案と人道に基づいた配慮を期してくれたことに感謝したい。

この提言骨子は、見ての通り未だ「骨子」の段階のようだ。1週間ほど前に結論が出たか問い合わせたけれど現時点では更新がない。
ということは、記録の遅滞や私の見落としがない限り、これから取りまとめの段階に入るものと思われる。その前に、何か思うところがある人はできれば意見を表明しておいてほしい。

私はこのnoteの序盤で、非当事者の役割を考えた。その役割とは、利害関係の外から意見することだと思っている。私は在留外国人やその家族、支援団体ですらない一個人だ。この立場で語りかけたい。成り行きを注視していることを知らせたい。法務省への意見はこちらから送った(13)

#BLM ** を叫ぶだけでは終わらない**

今回は日本における難民制度の負の側面に着目した。反対に、難民・移民の流入による負の側面もあるだろう。

例えば外国人を受け入れすぎて国内の労働市場のバランスが崩れる例もある。ただ、日本は依然として少子化しており人手不足だ。日本に残りたい来日外国人と人手がほしい日本企業との間に、ニーズの合致は探れるはずだ(14)
関連して、技能実習生の労働環境改善も必須の責務ではある(15)。知らなければならないことがこんなにもあって倒れそうだ。

あるいは、生活支援のための財政的な負担や、異文化を持つ人々を受け入れることでの軋轢も考えられる。ただ、それを踏まえた上で。異国に逃げ延びてきた人が閉じ込められ、ときにはそのまま死んでいることと比較してほしい。日本で受け入れられないのであれば、せめて第三国への移住を促すサポートがあってほしいと私は思う。

国籍やその他属性による差別はアメリカだけの出来事ではない。米国の黒人差別に関心を寄せることはもちろん否定しないけれど、日本にもまだ差別がある。私が行った調べものはほんの一例だ。

茨城に縁のある者として、ニュースで牛久市の入国管理センターが取り上げられる度に、後ろめたい気がしていた。すでに居を移した身であるけれど、茨城を好きである気持ちに陰を差すようなことはしてほしくないと思っていた。センターで働く職員たちの心労も相当なものと思う。
だからこのnoteを書いた。自分にとって近しいことだと思うから調べた。でも私にはひとり分の力しかない。なるべく目と耳を開いているつもりだけれど、すべての差別に今回ほどの労力は正直割けない。ほとんどの問題に対しては、流れてきた情報に反応することで手一杯だ。反応する前に流れ去ってしまうものすらある。

だからここで挙げた以外の問題について、近しいと感じる人たちが各々で考えて、その上で教えてくれたら嬉しい。ここまで長たらしくものを書かなくても、いままで読まなかった報道記事を広めたり、支援団体を調べたりするのでもいいと思う。

#BlackLivesMatter を叫びながら、できることはたくさんある。直接的な利害のない非当事者であるなら、なおさらその声は必要だと思う。

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(1)略奪行為の擁護論 2014.12.14
https://jfissures.wordpress.com/2014/12/24/indefenseoflooting/

(2)東京新聞 牛久入管で何が〈3〉 2020.5.6
https://www.tokyo-np.co.jp/article/10497?rct=ibaraki

(3)UNHCR 日本 難民とは?
https://www.unhcr.org/jp/what_is_refugee

(4)法務省「難民認定制度に関する最終報告」 2003.12.24
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukan13-16.html

(5)難民支援協会 日本の難民認定はなぜ少ないか? 2017.6
https://www.refugee.or.jp/jar/report/2017/06/09-0001.shtml#7

(6)UNHCR 日本 日本の難民申請手続きについて
https://www.unhcr.org/jp/j_protection

(7)gooddo 日本の難民認定率や世界との比較 2020.3.5
https://gooddo.jp/magazine/peace-justice/refugees/japan_refugees/

(8)法務省 収容・送還に関する専門部会開催状況
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00001.html

(9)法務省 収容・送還に関する専門部会 提言骨子
http://www.moj.go.jp/content/001318780.pdf

(10)川村委員意見[1]
http://www.moj.go.jp/content/001318766.pdf

(11)川村委員意見[2]
http://www.moj.go.jp/content/001319472.pdf

(12)宮崎委員意見[2] 2020.3.31
http://www.moj.go.jp/content/001319486.pdf

(13)難民支援協会 日本に来るのは偽装難民ばかりなのか? 2018.2
https://www.refugee.or.jp/jar/report/2018/02/13-0002.shtml

(14) 法務省 ご意見・ご提案
http://www.moj.go.jp/mail.html

(15) にほんご日和 外国人技能実習制度とは? 2019.11.29
https://www.nihongo-biyori.com/world/1513/

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