見出し画像

ハンバーグの価値

実家を出て以来、自宅で手作りのハンバーグを食べたことがなかった。数年前、自分でレシピ片手に作ってみた。特に難しいこともなく、それなりの味に仕上がった。「実験好きの科学者に、料理下手はいない」というのが持論である。

母親が「お前が大人になる頃、日本も女性の社会進出が進んで必ずしも結婚できるとは限らないから、独り者でも困らないように男だって家事は出来るようにしておけ」という人だったので、子供の頃から一通りの事は仕込まれた。

母親の危惧は半分外れ、半分当たった。


* * *


その昔、当時専業主婦をしていた方にハンバーグをリクエストしたことがあった。即、却下された。

微塵切りが、面倒くさい。

それが理由だった。彼女は玉ねぎに限らず、全ての微塵切りを受け付けなかった。それのみならず、金平ごぼう程度の細切りにさえ難色を示した。揚げ物は油の処理が面倒くさい。煮込み料理は時間が掛かるから面倒くさい。すべては面倒くさいの一言で片付けられた。正直、驚いた。逆にその排除条件で、なにが残るのか分からなかった。

それから約20年経つが、微塵切りを要する料理は一度たりとも見掛けていない。驚くほど徹底している。それ以前に手作り料理など、滅多にお目に掛かれない。「自炊」しなければ、弁当もしくは、ご飯(自分が炊く)+市販の惣菜が並ぶ。病気療養中にもかかわらず、掃除も洗濯も体調の良い時をみつけて自分でする。どうしても根負けしてしまう。勝てない。母親は先見の明があったな、と感謝している。

たかが微塵切り、されど微塵切り。

その差は大きい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?