薬局BCPとは ーその5ー

前回は、災害発生直後の初動対応と災害対策本部計画をお話ししましたが、今回はBCPの核となる事業継続計画と救護所支援計画についてお話しをします。

BCP策定のポイントは、「最悪の被害想定」をしてその「事前対策」と「行動計画」を検討することだと前回も紹介しましたが、地震だけではなく、水害、パンデミック、火山噴火、台風等の自然災害や停電、システム障害等の緊急事態対策も同様に検討することで強い薬局になると考えております。

救護所支援計画の概要

東日本大震災、熊本地震の経験から、薬剤師も救護所で必須の職種となっていますので、救護所支援計画についてもこの回でお話ししたいと思います。

薬剤師会では地域防災計画を基に救護所へ薬剤師を派遣することになっています。これは強制ではありませんが、いつ派遣依頼があっても対応できるように計画を検討しておきます。薬剤師会によっては、既に派遣する救護所を決定し通知している場合もあります。

行動計画は「発災後、救護所への薬剤師を派遣する」ことになりますので、その事前対策は「救護所の場所とそこまでのルートの確認」「薬剤師の意思確認」「持参する物品の検討」になります。救護所の場所は、市町村が策定している地域防災計画や防災マップから探して検討します。ルートに関しては、可能な限り広い道路を使用するようにしてください。広い道路は、都道府県が設定した緊急交通路(東京都の呼称)に設定されている可能性が高く、一般車両の通行は禁止されていますが、徒歩は可能ですので、普段から注意して標識を確認するようにしてください。

次に薬剤師へ派遣の意思の確認ですが、薬剤師の自宅から救護所までの距離や小さいお子さんがいたり、介護が必要な高齢者のいる等の家庭環境をヒヤリングして派遣の意思を確認します。派遣する薬剤師が決まったら、持参する物品を検討します。救護所での活動は、主に災害用処方箋に基づく調剤・服薬指導、医薬品の手配になります。持参する物品は、白衣、自分の食料・水、スマホ等の通信機器、薬剤師を証明できる書類、普段使用している医薬品集、調剤用印鑑等になります。

事業継続計画の概要

事業継続計画策定の流れは、優先して継続・再開する事業を選択、目標復旧時間とそのレベルを決定後、最悪の被害想定をしてその事前対策と行動計画を検討します。事前対策と行動計画はより具体的に検討してください。

事業継続計画策定のためにサンプルとして下記の会社と災害情報、被害想定を設定します

(1)優先して継続・再開する事業の選択

薬局の事業は、保険調剤、OTC医薬品販売、在宅訪問服薬指導が主な事業になりますが、優先して継続・再開する事業の選択方法は、売上比率の大きさや患者さんからの要求等で選択します。

Jファーマシーでは、本店は「保険調剤」になり、駅前店では「OTC医薬品販売」になります。これは両店とも別々にBCPを策定した場合の優先業務です。Jファーマシー全体でBCPを策定する場合には、対象店舗は「本店」、事業を「保険調剤」と選択し、このとき駅前店はしばらく閉店して、その薬剤師、事務スタッフは本店の支援にまわると選択もあります。

(2)目標復旧時間とそのレベルの決定

目標復旧時間とレベルとは、地震発生後何時間後または何日目から事業を再開するかの目標になり、レベルは平時と比較して決定します。

Jファーマシーでは、本店で保険調剤を優先して継続・再開する事業と選択しました。本店の目前に大学病院がありますので、早急に調剤業務を再開したいのですが、地震により医薬品は散乱しています。

まずはその片づけを1日目に実施し、2日目から再開することにした場合、目標復旧時間は「2日」とし、そのレベルは「平時の30%」とします。平時の処方箋枚数が200枚ですので、30%では60枚になります。

目標復旧時間とレベルの決定は、経営者の判断になります。大学病院前の薬局としては、地震発生後6時間には調剤を再開すると判断する経営者もいれば、3日から再開するという経営者もいます。近隣医療機関がクリニックの場合、クリニックが開業してから調剤再開となれば目標復旧時間を「クリニック開業と同時」と設定し、クリニックには開業のタイミングをあらかじめヒヤリングしておきます。

(3)対策の検討

目標復旧時間「2日」、レベル「30%(処方箋60枚)」を可能とする対策を検討していきます。災害情報&被害想定だと、7日以上停電で照明は点きません。分包機・パソコン・電子天秤等の機器も破損して使用できません。この状況下で対策を検討します。

1日目の行動計画は「片づけ」、「医薬品在庫の確認、病院へ処方可能人数等の報告」「報告時、在庫切れした場合の代替薬への変更の確認」、「業務に必要な備品の準備」になります。

2日目から調剤業務を開始しますので、業務毎の事前対策を検討します。平時は、①受付→②入力→③調剤→④監査→⑤投薬・服薬指導→⑥会計→⑦薬歴作成となりますが、地震発生後の流れは、「②入力」が停電で不可なので、①受付→②調剤→③監査→④投薬・服薬指導→⑤会計→⑥薬歴作成になります。

それでは、業務ごとに事前対策を確認していきます。

①受付

電子カルテ・オーダリングを導入している病院だと処方箋の発行は停電で不可能なので、どのような処方箋を使用するか病院に確認しておきます。受付は処方箋を預かり、保険証を持参した患者さんがいた場合、番号を控えるのが原則ですが、持っていなければ処方箋の裏に、患者さん情報を記入します。

②調剤

処方箋60枚を調剤するには、薬剤師2名、事務スタッフ1名がいれば調剤可能です。薬剤師2名、事務スタッフ1名の人員確保をします。調剤室は窓がありませんので照明が必須です。懐中電灯の準備を考えてしまいがちですが、懐中電灯を持って片手で調剤はなかなかできませんので、全体を照らせるランタンを用意します。

分包機は停電で使用不可、電子天秤は落下破損しているため、一包化不可、粉薬不可で錠剤のみの調剤となります。処方日数も90日は不可能ですので、7日以内とします。処方内容に関しては病院との事前協議が必要になります。

③監査、④投薬・服薬指導

薬歴システムは使用できませんので、監査、投薬・服薬指導は、使い慣れた医薬品集、患者さんへのヒヤリング   

をもとに実施します。患者さんがお薬手帳を持参していれば併用薬の確認も可能です。ですから、お薬手帳への体調変化や経過観察等の記載とその携帯の必要性を啓発していくことが重要になります。

⑤会計

会計は「一律500円預かる」、「災害時なので預り金も取らない」など、経営者の判断が必要になりますので事前に決定しておきます。預り金で会計をする場合は預かり書が必要となり、預かり書を事前に準備し保管場所を検討します。

⑥薬歴作成

薬歴に関しても、処方箋の裏に記入します。調剤報酬上の薬剤服用歴管理指導料に準じた内容が理想と言えますが、災害時には臨機応変な対応が求められます。重篤な副作用に関わる患者情報を最低限聞き取り、その情報を控えておけば事後のトラブルも軽減できるでしょう。

以上、事業継続計画における具体的な対策についてお話ししましたが、ここに記載した対策が全てではありません。皆さんの薬局の立地や近隣医療機関の状況、店舗内外のインフラ等で対策は変わってきます。複数薬局を経営している会社でも、薬局毎に事前対策と行動計画が変わってくるのも現実にありました。また、目標復旧時間とそのレベルについては経営者の判断も変わってきます。ガイドラインを参考に策定は難しく、なかなか策定に踏み切れないこともこういった理由にあります。

最後にもう一度書きますが、BCP策定のポイントは、最悪の被害想定をして具体的な事前対策と行動計画を検討することです。その結果、災害に強く生き残れる薬局になり、患者さんへの医薬品の供給も可能という事です。

あとがき

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