とうちこ奇談 絵

 休日に商業施設に行った時の話だ。
 この商業施設はデパートと呼ぶには小さい規模の施設である。三階建てで三階と屋上が駐車スペース。一階には大きなスーパーと小さな書店とパン屋が設けられている。また、二階にはホームセンターとイベントスペースが備えられてある。
 このイベントスペースは、クリスマスやバレンタインなどの季節のイベントに物販が行われたり、地域の伝統芸能や小中学生のブラバン隊が演奏イベントが開催されたりしている。
 二階のホームセンターに寄る際にそのイベントスペースに通りがかると、小学生の描いた絵が展示されていた。
 二作品を一列としずらりと並べられ、その上に
「〇〇小学校 げいじゅつ祭」
という文字が掲げられていた。
 「お母さんいつもありがとう」というタイトルの作品やその類似物がほとんどを占めているが、たまに「太郎」というタイトルで桃を抱えた男の子が描かれていたり、「いぬのさんぽ」というタイトルなのに牧草地に遊牧された牛が何頭かいる風景だったりとバーリトゥードに描いて良いもののようだった。
 自分が子供の頃より絵が上手い子が増えたんじゃないかな、と一枚ずつ見ていると一つの絵を食い入るように見てる男性がいた。
 そんなに魅入るような絵があるのかと近づくと彼がブツブツ呟いていることに気づいた。
「これ…俺かな。俺だよな」
 そう言っているのが聞き取れると、彼は何事もなかったように歩いていった。
 彼が見ていた絵は『とうちこ』というタイトルだった。その絵に描かれている人物はどう見ても被写体が彼とは思えなかった。男性でも大人でもない、可愛らしい女の子であり、うつむきがちに一人立っている絵であった。
 また、絵の少女は自分の記憶のどこにもない会ったはずのない顔立ちであった。それなのにしかし、どこか確信めいた認識があった。
 14歳の美少女だ、と。
 どこの誰だか知らないが、何故か被写体の子の齢だけは何故か確信できた。
 若干の薄気味悪さを感じつつ他の作品を足早に観覧し、所用を済ませ帰宅した。

 後日、またそのイベントスペースを横切るとなんとはなしにあの絵のことが気になったので展示を見ると、その絵があった場所には何も展示されていなかった。両隣と下方には普通に絵が展示されているので明らかに不自然な一作品分のスペースが空いていた。
 爪先から冷えるような感覚を覚えその場を跡にした。

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