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とうちこ奇談集

前書き

 本稿は統治行為論アドベントカレンダー2023の12/19の記事である。
 最初に注意書きを書かせていただく。注意書きを読むと興ざめしてまうので、適当に流してもらいたい。
 本稿は当然全部僕の創作であるし真っ赤な嘘なのだが、僕の趣味で真実味を帯びさせるためにでっち上げの参考文献や実際の地名を出している。文献については実際に存在したとしても全くそんな内容は書かれていないし、僕は読んだこともない。


とうちこ奇談類

とうちこ狐

 狐の憑き物である。
 非常に多くの記録が残っており、多くのエピソードが残っている。確認できる上で最古の記録は幕末に描かれた『三河国名所絵巻』に載っており、長くに渡り信じられている。
 とうちこ狐に憑かれた者について、いくつかの症例が記録されている。
・夜間、”ちこ、ちこ”と鳴きながら踊り狂う。
・生魚をかじる。
・抹茶と油揚げを欲しがり、食さなければ発狂する。
 とうちこ狐には天敵がおり、静岡県浜松市に鎮座する山住神社に祀られた「山住さま」というお犬様がそれに当たる。
 お犬様の姿絵やお札をお迎えし、とうちこ狐を防ぐ習慣が浜名湖や豊川の辺りにあった。

とうちこの火

 夜の駿河湾にぼうっと火が浮かぶことがあり、駿河湾周辺や沼津のあたりではそれをとうちこの火と呼んでいて、決してそれに近づいてはならないとされている。
 早川柴太郎著の『漁村の民俗学 第二巻』にこんな話が載っている。
 ある男が好奇心からとうちこの火に小舟で近くにいくと、いつの間にか自分の舟に幼い女の子が乗っていることに気づいた。目が合うと女の子は
「とうちこが集めた魚ちこ」
といい、船縁を掴みあっという間に男の小舟を転覆させてしまった。
 男が気がつくと海岸に小舟と共に打ち上げられているのだが、男は少しも濡れた形跡はなかったという。
 一説ではとうちこ狐の狐火ではないかと考えられている。

とうちこ(天狗)

 「とうちこ」という名前の天狗がいたと、矢作川の上流辺りでは語られていた。
 具体的に目撃された例は少ないが、当該地域では神様のように敬われていた。以下にとうちこ天狗がやったことだろうという事例を紹介する。
 『根羽村史』によると、夜間に稲番を任されていた男が、田んぼの警備に周っていたところ、背後からけたたましい太鼓の音が鳴り響いた。驚いて振り向こうとした瞬間、目も開けられないほどの雨嵐が吹き付けてきた。恐怖のあまり身を屈め静かに震えていると、しばらくして太鼓の音が鳴りやむとともに風雨も収まり静かになった。とてつもない強風であったので、さぞや稲が倒れているだろうと田んぼの様子をみると不思議となんともなかった。
 とうちこ天狗が太鼓で悪しき者を追い払ったと解釈されている。

「トウチコー」

 『静岡県史 民俗編十一巻』によると、大晦日には入ってはいけない森があるとされている。「ヅクノナイヤウチコバタラキ」をする者が練り歩く時期と考えられており、大晦日に禁足の森に踏み入ると、「トウチコー」と呼ぶような声がするが、首がその方向に曲がらず、身体も振り向けなくなるという。
 言い伝えには”ヅクノナイヤウチコバタラキ”が何か詳細が残っておらず、声の主が何者かはわからない。ただ、ヅクノナイ人とは「怠けた人」を指す方言がある。そのため、怠け者に「ウチコ」を行う仕事をする者なのかもしれない。
 また、「トウチコー」と呼ぶ声の主に捕まった人や正体を見た人の記録がないことが何より怖い。

とうちこタタキ

 山梨県富士吉田市の古くからの言い伝えとされる話。富士吉田民俗学博物館の蔵書『富士の伝説 上』によると、二回りをこえる白樺の巨木に鳥のような獣が飛び乗り「ちこちこちこ」と発する。次に拳を突き出し三度木を殴りつけたのち、再度「ちこちこちこ」と鳴き、たちまちに雲のように消え去る。
 富士吉田では子供に「悪い子にはとうちこタタキがくるぞ」と脅し怖がらせるのだという。

とうちこの祠

 設楽川の野戦の戦火に怯える集落の一人の男が
「とうちことなりてここを護らん」
と言い、集落の守り神として崇められている巨岩の上に乗り身体に油をかけ火をまとい自害した。
 集落の人々は戦火から逃れられるよう一度離れ、戦場が変わり落ち着いたのを見計らい集落に戻ると、家々や畑は踏み荒らされず元のままであった。しかし、守神の巨岩は跡形もなく消えていたという。
 巨岩後には自害した男の墓と共に祠を建て、今でもその場に鎮座している。

 中部地方のみのとうちこの類を集めた本稿だが、関東や東北にもとうちこにまつわる話がある。しかしどれも似たような話がない。これは大変面白い話である。
 例えばカッパというと古今東西で川や海などの水辺にいる妖怪であると認識は一致するだろう。しかしながらこのとうちこというのは、中部に限った話でも狐や天狗と全く異なる二つの話にとうちこが出てくるのだ。
 一体とうちこという言葉はなんなんだろうか。得体の知れない何かの輪郭を求め、明日もとうちこ話を収集するのだろう。

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