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続・データセンターの移り変わり

データセンターについて、note連投で恐縮です、佐伯尊子です。

データセンターの歴史からみた移り変わりについて、2021年2月にブロードバンドタワーのBlogに記載した記事の続編となります。日本を中心としたお話になります。


(1)2020年代のデータセンターをめぐる動きはどうなっているか?

初稿当時、こんな未来が来るのでは?と考えていました。
白抜き枠が「新規に構築するデータセンター」になります。
この新しいデータセンター(DC)は、いろいろなことに応用できる多機能型になるのでは?と想定していました。

さて、この部分は今どうなっているでしょうか?

図1 新しいデータセンターの流れ(再掲+加筆)

(1)-1それぞれの仕様

1.  次世代携帯電話基地局
現在順次5G基地局が設けられていますが、4G/LTEとの抱き合わせ等でまかなっており、積極的に5G基地局(ミニDC)とはなっていないようです。

2.  通信事業者局舎建て替え
粛々と行っておりますが、NTT法の見直しなど、建築の前段階の議論が活発です。

3.  外資DC/クラウドDC
2010年代までは、大手外資通信事業者やデータセンター事業者のみでしたが、コロナ禍を経て、気づけば外資系のデータセンターコントリビューターが大量に日本に進出しています。
印西地区・彩都地区の外にも積極的に展開しており、過去に類を見ない急ピッチでハイパースケール型のデータセンター建設が進んでいます。

4.  専用DC建て替え
コロナ禍を経て、建て替えよりむしろ新築への投資が高まっているようです。また、データセンターが首都圏に集中していることから、経済産業省は特区を定めるなど、新築データセンターは首都圏以外の地方分散化を図っています。

5.  金融系DC建て替え?機能の移行?
こちらも3項同様新築への投資がメインのようです。また、3項のデータセンターを利用するケースも増え、自社設備を1から構築するより、器を購入する方法も定着してきたようです。

6. 企業のサーバ室
クラウド移行と共に3項に移動する方向と、根強くサーバ室を保有している方向に分かれていますが、新たな構築をする場合は、カーボンニュートラル等設備を構築すること以外にも対応しなければならない事項が増えてきました。

7. 大型電子計算機室
 スーパーコンピューターの能力をいかに引き出すかを中心に設計されたデータセンターのため、建設する数や周期は、一般のデータセンターとは異なっています。
設備の仕様も規格は無く、それぞれ独自です。いち早くスーパーコンピューターの冷却を空冷→水冷にするなど、3,4項の新しいデータセンターに応用できる技術をすでに実現しているデータセンターであるといえます。

(1)-2 トレンドからデータセンターへの要求(前回のBlogから)

データセンターのトレンドは、おおよそ10年単位で新しいニーズや技術がけん引しています。

1. 1990年代~2000年代
自社サーバ室や通信事業者の局舎から始まり、2000年代はデータセンター専業事業者がデータセンターを建設するようになりました。
また、インターネットの商用化や、ダークファイバーの開放など、データセンターを取り巻く環境が整い始めました。

2.  2010年代
外資の通信事業者や、データセンター事業者が大型のデータセンターを建築し始めました。そして、GAFA系のクラウド事業者が日本に上陸、クラウドサービスが開始され、ユーザーも本格的に導入を開始しました。

3. 2020年代
老朽化したデータセンターの改修や撤去が積極的になり、多目的のデータセンターが建設されるのでは?と考えていました。
技術トレンドは、5G、IoTやEdgeなど、ユーザに近いところで生成されるデータを、その場で処理するデータセンターが主流になるのではないか?と思っていました。

(2) 建設投資予想からの推測

国内DC新設/増設投資予想について、IDC JAPANの発表[1] によると、2023年から2024年にかけて、大量の新設・増設が予定されています。

この金額は、コロナ禍前に想像していた投資額と比べ、大幅にアップしています。2027年までの予想額は、資材や人件費等の高騰もあるかと思いますが、ざっくり2019年当時を1として、5倍程度の新設・増設が予定されているようです。

2027年までの予想額は、資材や人件費等の高騰もあるかと思いますが、ざっくり2019年当時を1として、5倍程度の新設・増設が予定されているようです。また、その投資も老朽化したデータセンターを更地にして新しく建設するのではなく、新しい土地にどんどん新しいデータセンターをつくる方向で計画が進められています。

そしてその新しいデータセンターも、多目的の用途に応える柔軟性を追求するものではなく、現行仕様をより強靭にした仕様であると考えられます。

図2 国内の事業者データセンター新設/増設投資予測: 2022年~2027年
Note:2022年は実績値、2023年以降は予測
Source: IDC Japan, 8/2023

(3) トピックから要求される事項

2020年代のデータセンターをけん引するトレンドについて、当初考えていたトレンドとは別に、大きく2つがクローズアップされています。

(3)-1 AI/ML(Artificial Intelligence/ 人工知能とMachine Learning/ 機械学習)用途のデータセンター

ChatGPT という言葉は、ここ1年でニュースにも取り上げられるほど有名になりました。ChatGPTとは、OpenAI が開発した、利用者が入力した内容に対して、自然な対話形式で AI が答えるチャットサービスのことを指します。

具体的には、MicrosoftのBingに用いられています。またGoogleのBardはOpenAIとは別のアプローチで実現しています。例えば、ChatGPTを利用して何かを調べる場合、Chatの向こう側では、DC内で今までとは違う自然言語処理(NLP/ Natural Language Processing)の計算を行っています。

また、ChatGPTと共に、AIをビジネスに活用した画像や音声認識、スマートスピーカーや自動運転などのサービス等が始まっています。これらのAI利用は、今後ますます発展していくことが予想されます。

このように用途がとても広いAIですが、実際にはGPU (Graphics Processing Unit)やTPU (Tensor Processing Unit)などの高性能なハードウェアが計算を行っています。

そのため、既存のメモリやCPUを使ったサーバ以外に、大量のGPUやTPUを搭載したサーバが活躍しています。GPUやTPUを搭載したサーバは、従来のサーバよりも、より高密度高発熱、高消費電力であり、1台当たりの質量も重くなっています。

そのため、データセンターに求められる仕様が、高発熱体を冷却する冷却能力の高さや、それに見合う電力量、また今までよりもより床耐荷重が高いこと等が求められています。

これらのことから、AI/ML用のデータセンターという枠組みができました。冷却1つとっても、空冷だけでなく、水冷を用いるなどスーパーコンピューター等の大型電子計算機用のデータセンターが必要とする仕様と重なる部分があります。

NVIDIA社は、自社のチップを搭載したハードウェアやネットワークの能力を十分引き出せる仕様を持ったデータセンターを、コロケーションパートナーとして、認定かつ紹介しています。この動きは、今まで規格等で定めていたデータセンターの冗長性のランク付けとは別の動きとなっており、大変興味深いものです。

(3)-2 SDGやカーボンニュートラル対応データセンター

世界的に、発電機等が排出するカーボンに対する厳しい制限が課せられています。日本政府が推し進めている2030年目標2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、データセンターも例外ではありません。

既存のデータセンターも含め、データセンターの使う大量の電力をどのように賄うか?が問われています。日本では一般的に通常は商用電力を使ってデータセンターを運用しています。

その商用電力は、(石炭+石油+ガスが占めている)火力発電に頼っているところが大きいです(図3 [2]https://www.renewable-ei.org/statistics/international/ 参照)。日本の目指すカーボンニュートラルの目標に向かって、JDCCを中心として、自然エネルギー利用に対する国の支援等の提言を行っています。

図3. 国別の電力 (2023年3月22日更新)
出典:自然エネルギー財団 

データセンター内の省エネルギーを実現するためにデータセンター事業者が行っている主な事項を3つ挙げます。

1.  PUE (電力使用効率) を改善し、データセンターの電力消費を下げる
ブロードバンドタワーのPUEも熱循環や空調運転の効率化、その他節電や省電力化のための様々な施策を施し、日々低減を図っています。

2. 再生可能エネルギー利用促進
利用する電力を再生可能エネルギー(以下、再エネ)由来のグリーン電力によってまかなうことで、RE100などの国際的な環境イニシアティブへの対応が可能になります。
また、海外のハイパースケールデータセンターと同様に、国内のデータセンター事業者も商用電力以外の電力を構築、もしくは購入し、再エネの積極的な活用をしていかなくてはならない状況です。

3. カーボンオフセット制度の導入
既にカーボンオフセット制度を利用して電力をまかなっているケースもあります。このような仕組みを用いて、1つでも多くのデータセンター事業者が、カーボン削減に対応していく必要があります。

しかし、(3)-1項で示したように、これからは強力なAI/MLのサーバ等がデータセンターに設置されることが多くなるため、今までと同じ方法、対応スピードだけでは、目標とするカーボンニュートラルを期限内に達成できなくなる可能性があります。そのためにも、今から技術的にも政策的にもより効果的な技術や導入方法について検討を進めていく必要があります。

(4) まとめ

2023年のデータセンターの状況と、今後について考えてみました。

-  2019年当時と比べ、建設ラッシュはまだまだ続き、ピーク時にはコロナ前の5倍という考えられない投資額の元、データセンターが建設される予定であることが分かりました。

-  そのデータセンターも、今まで以上に高発熱かつ大量の電力を必要とするため、床耐荷重や冷却機能が更に強化された仕様が望まれます。ハードウェア機器メーカが指定データセンターを推奨する動きも出てきました。

-  データセンターで利用する電力をカーボンニュートラル化する動きが積極的になってきました。

(5) 感想

「この文章を何年後かに読み返して「全然違う方向に進んでいる」未来だったら…」と結んでいましたが、全然違う方向ではなく、その当時の方向をより深化させている未来が来ていることを感じました。

カーボンニュートラル化は、喫緊の課題ではあるものの、ブロードバンドタワーもその流れになんとかついていけているかな?と思っています。また、AI/MLは、当時は全く想定していませんでしたが、その普及速度には目を見張るものがあり、今では皆さんの開発や検索の基盤の1つになりつつあります。

データセンターを構築する技術は、まだまだ進化していくなぁとつくづく感じました。これからも要チェックです。

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