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立体音響には音楽の未来と希望が詰まっている (2)

立体音響には音楽の未来と希望が詰まっているの第二弾です!
第一弾の記事はこちらから読めますので、ぜひご一緒にお読みいただけたら嬉しいです。

第一弾のときにも書いたように「立体音響」にはいくつものフォーマットがあり様々な方法があり、設定の仕方等様々なことが試行錯誤がされています。

なぜ私が「360度立体音響」でやろうと思ったのか?

答えはシンプルです、「立体音響の中で一番面白そうだったから」です。これに尽きます。
「360度立体音響」は、地面が無く宙に浮いている感じということで「自分が音の真ん中にいる」という非日常空間です。とてもわくわくします。

立体音響の、
Dolby Atmosや、
Auro 3D(こちらは自分では使ってみたことは無いです) 等は、
地面がある設定なので「自分の下」には空間がありません。

ちなみに、Dolby Atmos は [Dolby Cinema] という映画館で体験することができます。

ですが「360度立体音響」はとても面白そうなのに、困ったことに制作のためのソフトやプラグインがほとんど無い…
探したところスペインのソフト [DSPATIAL Reality VR] を見つけ現在のメインとして使っています。

なぜこのソフトを選んだのかというと、
「360度立体空間に設置した音に直接リバーブをかけることができる」というのも大きな理由でした。立体音響でとても難しい問題が、リバーブのような残響を加えることなんです。

例えば、
Dolby Atmosの7.1.2に対応するリバーブは、Logic Pro内のリバーブ [Space Designer] や、いくつかの会社から販売されています。(Dolby Atmos 7.1.2についてはこちらをご参照ください)

上からのみ鳴っているような「動き回らない音」であれば、従来のステレオのときに用いられる「Send」という方法で頭上のスピーカーにリバーブを設定して鳴るようにすればオーケーです。

ですが、動き回る音に対してはどうしようか。360度立体空間のリバーブのプラグインは無いし…なので自分なりに考えた設定を書いてみようかなと思います。

360度立体空間のリバーブで使っているプラグインとその考察

こちらは私が考えてみた設定なので、他にもいろいろあると思います。

1つめ:DSPATIAL Reality VR内で設定できるリバーブ
これについてはこのソフトを使っていないと使えないので詳細は省略します。
この1つめのリバーブで、全体の残響の質感をつくります。動き回る音に対してもその動きに追従してリバーブが加わるので便利です。

2つめ:Audio Brewers [ab Reverb]

これは、おそらく現在唯一のAmbisonicsで設定できるリバーブだと思います。
Ambisonicsを簡単に言うと「全方向に音が鳴っているように空間を作ることができる」といった感じです。Ambisonicsについては詳しくはこちらをご参照いただけましたら。

この [ab Reverb] で、
・前方向の上
・後ろ方向の上
・前方向の下
・後ろ方向の下

の、従来のステレオの左右以外の「4方向の空間」にリバーブを加えています。

LRの左右には設定しなくても良いの?と思う方もいらっしゃるかと思います、私もそれは考えました。
この [ab Reverb] は、例えば「前方向の上」と設定したリバーブでも左右にリバーブ成分が流れていく仕様になっています。
それと、
左右のリバーブに関しては1つ目の [DSPATIAL Reality VR内で設定できるリバーブ] にて、左右に設定した音(動いた音)のリバーブに関してはそれで充分な量ができていると感じているので、あえてこの2つめの [ab Reverb] では設定していません。

立体音響を触ってみて「私が感じたこと」なのですが、
・左右に関して:従来の方法が左右から音が鳴るので感知しやすい
・上下前後に関して:従来の方法ではこれらの空間は無いので「少し大げさに表現しなければ感知しにくい」
と思いました。

なので、この2つめのリバーブはその感知しにくい「上下前後の空間をより感じてもらうため」に設定したものです。
例えるなら、お芝居等の舞台でお客さんにしっかりキャラクターが伝わるようにするための「厚塗りパキッとメイク」のようなものでしょうか。

3つめ:Audio Brewers [Imager, Upscaler]

これは、2つの [ab Reverb] の密度を濃くするために使っているという感じです。こちらも2つめと同様に極端な感じに設定しています。
最初は [Imager, Upscaler] は使っていなかったのですが、使うとより空間が伝わりやすくなるような感じがして追加で設定しました。

4つ目:NovoNotes [3DX]

これは3つめのプラグインまでは出力が「Ambisonics」になっているので、それをLRの「Binauralにするためのデコーダー」として使っています。

立体音響の「聴き方」と「求めるもの」について私が感じていること

私は、ヘッドホンやイヤホンで誰でもいつでも聴くことができる「Binaural」での制作にとても魅力を感じています。

特別なスピーカー配置ができる会場というのはそうたくさんあるわけでは無いし、期間や費用での制限も出てきてしまったり、聴く場所(どこに座るか)等で聴こえ方が変わってしまったり等あると思います。

もちろんスピーカーによる立体音響はとても興味深く、これからもっと様々なプロジェクトなジャンルで広まっていくと思います。

おそらくですが、会場に複数のスピーカーを設置して立体音響の作品を流した方がヘッドホンやイヤホンで聴く「Binaural」音源よりも立体的な解像度は高いと思います。実際に様々な空間にスピーカーが設置してあるのですから、物理的にそうだと思います。

360度立体空間では、Dolby Atmosの7.1.2のように「スピーカーをいくつ設置すれば良い」という基準がありません(もちろん様々な設置方法があるのは存じています)。

しかし、ヘッドホンやイヤホンで誰でもいつでも聴くことができる「Binaural」であれば、それらの制約から解き放たれ、立体音響の世界に手軽に体験することができるので大きな可能性があるのではと思っています。

私自身が「立体音響に求めるもの」は、「Binaural」による [驚き] と [偽感 (ギミック感)] です。
[驚き]に関しては:なんでヘッドホンやイヤホンの両耳から音が鳴っているのに立体的に聞こえるんだろう?という驚き。
[偽感 (ギミック感)]について、私はこれが一番大事なのではないかと感じているので下記に詳しく書いてみます。

例えば絵画の場合、キャンバスに描かれた物体等に「影を付ければ」立体的に感じますよね。描かれている紙は平面なのに立体的に感じる。トリックーアートは特に顕著ですね。
もしかすると、ピカソの「ゲルニカ」のようなキュビズム的な解釈も、立体音響で挑戦しても面白いかもしれません。

大げさにやったり、実際の空間とは違うような「ちょっと変な(ウソのような)表現」を混ぜたり等。少しオーバー気味にやった方が、より伝わっておもしろく感じてもらえるのではないかと期待しています。

なので、立体音響は時には「リアルな実際の空間」を表現しなくても良いと思っています。
純粋に「リアルな実際の空間のみを再現するだけのもの」になってしまったら、立体音響の発展は止まってしまうのではないかと考えています。

[偽感 (ギミック感)] もアリ!という柔軟な感じで、直感的に自由に、たくさんのミュージシャンが「立体音響」「空間オーディオ」の作品を制作して新たな音の文化が広まっていったらなと思っています。
「立体音響には音楽の未来と希望が詰まっている」と。

お読みいただきありがとうございました。

UN.a 宇津木 紘一


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