2-28の話

昼間、揚げそら豆をぽりぽり食べていると、急に空が暗くなった。予報では1日快晴だったはずだが、急に崩れたのだろうか。カーテンを開けるといつも見える向かいの家がなく、代わりにのっぺりと広がる紺色の何かだった。空にあたるところに目をやると、うっすらと波立っている。私の家は湖の底に沈んでいっているようだ。これでは買い出しに行けない。

ゴンという鈍い音と振動が、無事に着地したことを教えてくれた。私は何をするわけでもなく、ガウンの紐を直し、靴下を履き、自室に戻ってベッドで寝た。これ以上の面倒にかまってられない。寝たという事実が私を冷静にさせることを願う。

浅い眠りを何度か手繰り寄せたあと、私は深い眠りに落ちた。音も動きもない完全な睡眠だった。眠りから覚める少し前に、何か夢を見た気がする。家が湖の底に落ちていく夢。

意識が戻った時、私は日が沈んでいることを祈った。窓の外を確認しなくても良いように目を閉じたまま再び寝ようと試みたが、尿意に負けて体を起こす。18時だった。トイレから出るとなんだか急に全てがバカバカしくなった。何が湖だ。カーテンを開け、窓も開ける。水は入ってこない。ただタプタプと窓の境目を揺れている。どうしてしまったんだ。携帯で何枚か写真をとったが、当然電波は入ってこなかった。

家の中にある水着を引っ張り出し、リュックサックの中にビーチサンダルとジップロックで密封した財布と携帯を入れた。浮き輪がなかったのでゴミ袋を空気で満たし口を結わえた。できることをする。生き抜くのだ。

玄関を開ける。水面は窓と同じように、きっちりと空間を隔てている。まず手を入れてみる。つま先を突っ込む。水風呂と同じ感触が伝わる。どれぐらいの深さかはわからない。空気を入れたゴミ袋を玄関から押し出すと、浮力で体が持ち上がった。私は目をつぶり、湖と思わしき世界に身を入れた。

薄い膜のようなものが私の体をなで全身を覆う。うっすらと発光する膜を目で辿ると、それは玄関につながっているようだ。私が息を漏らすと、あぶくになることなく膜をおしあげ、波紋となり膜を広げた。ゴミ袋の浮力が大きく、息もできないせいで思考のスピードが追いつかない。どうなっているのか。パニックになった私は空気入りのゴミ袋を一つ無駄にしてしまった。どうなってしまうのか。私は目を強くつぶり、私とともに猛スピードで浮上するゴミ袋が水面を叩くのを祈った。

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