2-26の話

足が12本あるネコをもらうことになった。10本足も14本足も田舎ではよく見たけど、12本足のネコは珍しい。しかもすべて靴下を履いている柄だという。なんでも保健所に保護されたが、辺り一帯はもう手一杯の状態で誰も引き取ってくれないのだという。たとえそれが彼らの常套句でも、私は12本という珍しさにやられてしまい、その日のうちに必要なもの全てを集めてしまうほどあった。暇つぶしになるだろうと思って買ったおもちゃは全てつかわれることなくゴミとなった。

12本足にちなんで「うなぎ」と名付けられたネコは大変賢くよく懐いた。壁に張り付き、天井に掴まり移動する姿は毛の生えたうなぎそのもので、名前を呼ぶと顔をこちらに向けニャーと鳴いた。うなぎはメスで、換毛期になるとそこらじゅうに毛をなすりつけた。12本もあるおかげで腰の数も多く、どこを撫でても嬉しそうに体を波立たせた。

うなぎの可愛さは私の人間関係に大きな影響を及ぼし、しまいにはうなぎみたさに家に人が来るようになった。誰も彼も好きに放題に餌を与え、天井にはりつくことができなくなった時、私は来客に餌やり禁止を言い渡した。今度は天井についた無数の爪痕を名残惜しそうに見上げるうなぎを撮りに、より多くの人が訪れるようになった。ふたたび適正体重を取り戻すまで、うなぎはわたしにつきまとう日々が続いた。何度となく可愛らしさに負けて餌を与えてしまったが、1年も経たないうちに再びかつてのうなぎに戻っていった。うなぎは活動的なネコなのだ。うなぎ目当てにきていた来客も、波が引くように減っていった。

ネコ珍しさに訪れた人にAがいる、Aは今でも足を運んでくれる数少ない友達で今でもうなぎに懐かれることなくあしらわれている。少しでも長居したいがために持ち込んだゲーム機で遊んでいるうちに(あぐらに納まろうともがくうなぎはとてもかわいい)、私とAの仲の方が深まってしまったのだ。Aにプレイヤーとなってもらい、私は携帯端末で攻略情報を与えながらうなぎを撫でる。それが週末のルーティーンとなった。

うなぎは今日もたくさんの足を持て余しながらあぐらの中に納まろうとする。それを横目にAはあぐらの中にチクワを置いてみたりと今日も夢を叶えようと浅知恵を働かせていた。こういう日々が続くといいなと私は思った。

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