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【建築レビュー#001】ブルータリズムにも似た激しさとヴァナキュラーな佇まいが同居する今なお生きる団地 石川県営諸江団地 | 現代計画研究所

前職ではよく団地の視察に行きましたが、その中でも特に印象的だった石川県営諸江団地。
石川県金沢市内にある団地で、茨城県営水戸六番池団地等の設計で知られる建築家・藤本昌也(現代計画研究所)により1980年に竣工しています。

  • 所在地:金沢市諸江上丁298

  • 竣工年:S55年(1980)

  • 設計者:現代計画研究所

  • 構造等:RC3階建 121戸

  • 敷地 :12,478㎡

  • 延床 :9,652㎡

  • 受賞 :金沢都市美文化賞

視察したのが2017年頃で、すでに管理開始後40年近く経過していましたが、いまだに生活感が感じられる生きた団地でした。

当時、住宅の大量生産期が過ぎ公営住宅では「住戸規模」や「団地景観」、「プランの多様性」などの重要性が挙げられており、この諸江団地でも様々な提案・試みがなされています。

1.住戸・住棟構成の特徴

RC造3階建ての住棟は、1,2階がメゾネット住戸で、3階に小型のフラット住戸が配されています。3階住戸は界壁に乾式壁を採用して将来的な大型住戸への転用も視野に入れて計画されています。

1,2階のメゾネット住戸と3階の小型住戸の組み合わせによる住棟構成
敷地の外周に面して住戸へのアプローチ動線が設けられており、街に対して顔を向けた配置計画

敷地の外周沿いに住棟をぐるりと配置した計画となっており、周辺住宅地との相隣関係の醸成が目指されていることが伺えます。駐車場や住戸へのアプローチも基本的には外周側から設けられており、共同住宅でありながら戸建て住宅のような独立性のある住戸計画です。
現代的なオートロックマンションとは全く異なる思想ですね。

また、各住棟は雁行しながら立体街路によって連結され、各部には共同庭等が配されるなど、上層においても回遊性のある豊かな共用部が計画されています。

配置図 団地内に自然を抱える囲い型配置
住棟と住棟をつなぐ立体街路
立体街路に面して設けられた空中庭園

当時はハートビル法(バリアフリー法の元となる法律)の施行前であり、だからこそできたという側面もありますが、公営住宅という設計上縛りの多いフィールドにおいて、前述したような工夫によってこれだけ多彩な表情を持つ住宅となっています。

また、当時スロープの設置義務はありませんでしたが、ファミリー世帯の生活に配慮し、ベビーカーや自転車利用のために長大なスロープが設けられています。

ベビーカー・自転車のために設けられた長大なスロープ

2.ファサード・景観上の特徴

一番の特徴は、やはりこのコンクリートの荒々しさを残したブルータリズム香るデザイン。
杉の特殊型板を使用したという外壁に、金沢の自然風土への配慮から選ばれた赤茶を基調とした色彩計画。経年による風合いが増し、地域になじみ温かみの感じられるファサードとなっているように感じます。

コンクリートの荒々しさが感じられる特徴的なファサード
住棟は一部雁行し、変化にとんだファサード
雪国であることからサンルーム付き住戸となっている

住棟サインには金沢の詩人室生犀星の文字と加賀紋のタイルが使われているとのことで、今見ても古さを感じないデザイン。

詩人室生犀星の文字が使われた住棟サイン

3.緑豊かなランドスケープデザイン

住棟は囲い型配置となっており、どの住棟も広場に面し、豊かな緑を感じながら生活ができるよう計画されています。
広場の緑は管理が行き届いており、成熟した樹木が団地の魅力をさらに引き出しているように感じました。

管理開始後40年ほど経過し、緑がのびのびと育った魅力的な中庭空間
各棟のバルコニーが中央の広場に面するように計画されている


ファサードにおいても住戸企画においても、本当に公営住宅かと思うほど随所に多様性が感じられる、魅力的な団地でした。