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グレタさんを押しのけ、ノーベル平和賞を受賞したアビー・アハメド首相とは何者なのか?

昨日エチオピアのアビー・アハメド首相にノーベル平和賞が授与されることが発表されました。
今年のノーベル平和賞は、地球温暖化対策を国連総会で訴え、一躍時の人となったスウェーデンの16歳、グレタ・トゥーンベリさんに与えられるのではないかとの観測から賛否両論が飛び交っていましたが、これで少なくともノーベル平和賞を巡る騒動は終わりそうですね。
さて、では話題の主グレタ嬢を押しのけ、ノーベル平和賞を受賞したエチオピアのアビー・アハメドさんというのはどのような人なのでしょうか?

実は大躍進中のエチオピア

実は私は昨年エチオピアを訪問したことがあります。
日程の関係上寄ることが出来たのは首都アジスアベバだけでしたが、街は建設ラッシュで、高層ビルが次々と建設されており、とてもついこの前までアフリカ最貧国の一つだったとは思えないほどの発展ぶりでした。
マルカト地区などの従来通りのマーケットは想像通りのアフリカンテイストですが、その規模はともかく凄く私が行ったどのアフリカの国よりも大きかったです。
人間以外なんでも売ってるのコピーに偽りなしの、訳の分からんカオスとダイナミックさ。
ともかくパワーを感じました。

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実際マクロ指数でもエチオピアの経済発展は眼を見張るほどです。
人口は1億人を超え、経済成長率は2017年まで4年連続10%越え。
昨年はケニアを抜いてアフリカ第7位、サハラ以南では第4位の経済大国となっています。
こうした経済的な活況の要因は中国の莫大な投資という部分が大きいのですが、その投資を受け入れられる平和な状況を作り出したことも見逃せない要素です。
そしてその立役者こそ、今回ノーベル平和賞を受賞したアビー・アハメド首相なのです。

アビーアハメド氏は国内融和のシンボル的存在


アビー・アハメド首相は、エチオピアの最大民族のオモロ人で初めての首相です。

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実は今まで長らくエチオピアを支配してきたのは第二民族のアムハラ人で、その後少数民族ティグレ人がクーデターでアムハラ人政権を倒し、国を支配してきました。
又エチオピアは宗教的にはキリスト教、イスラム教といった宗教のほかに、エチオピア正教という古代キリスト教の流れをくむ宗教が信仰されています。
アハメド首相は、父親がイスラム教徒、母親がエチオピア正教で、自身がクリスチャンという変わり種で、それ故に多くの民族や宗教をもつエチオピアの国内の融和を進めることができたのです。

長年続くエリトリアとエチオピアとの確執

さて、今回の平和賞受賞の決定打となったのは、隣国エリトリアとの和平を成し遂げたことでした。
エリトリアの歴史はかなりエチオピアと被る部分があるのですが、民族系は若干異なり、長い間エチオピアを支配してきたアムハラ人ではなく、ティグレ人という民族が中心を占めています。
1952年にエチオピアと一緒に連邦国家を作る形で独立したのですが、1962年にエリトリアが連邦の離脱を図ろうとすると、軍事力により強制的にエチオピアに併合されてしまいました。
当然エチオピアに不満を募らせたエリトリアの人たちは、独立戦争を開始。
20年以上にわたる戦いの末、エチオピア国内の内戦やソマリ人の反乱につけこんで、1991年エチオピア国内のティグレ人組織エチオピア人民革命民主戦線と共に首都アジスアベバを陥落させ、エチオピア政府を倒して独立を果たしたのでした。

この後暫くは同じティグレ人政権ということもあり、エチオピアとエリトリアの仲は悪くなかったのですが、それも長くは続きませんでした。
エリトリアの独立で海を失ったエチオピアに対する港湾の使用料を巡って始まった両国の対立は、間もなく国境の都市パドメを巡る戦争に突入。10万もの死者をだしてようやく2000年に停戦したものの、両軍のにらみ合いはその後も18年にわたって続きました。
相次ぐ戦争はエチオピアの足をずっと引っ張ってきたのです。

僅か3か月で成し遂げた因縁の相手との平和

そんなわけでアビー・アハメド氏はまずエリトリアとの和平こそがエチオピアの発展のために最も重要だと考えました。
彼は大統領就任後わずか3カ月後にエリトリアの首都アスマラを電撃訪問。
エリトリアの独裁者イサイアス・アフェウェルキ大統領とのトップ会談で一気に和平協定を締結に導いたのです。
それだけでなく返す刀でエリトリアとジブチの国境紛争を仲裁したり、隣国ケニアとソマリアの仲裁をするなど、東アフリカの平和実現に向け精力的に取り組んでいます。

まだ評価が確定していない現役の政治家が賞をうけることに対する批判は根強くあり、過去の受賞者をみてもそのとおりだと感じるところもあります。
しかし現実問題として、どんなに心から平和を願ったとしても、どれほど素晴らしい理想論を唱えたところで、平和を実現できるものではありません。そこには政治と軍事、経済といった現実のパワーと、そしてそのパワーをふるうことのできる人間の努力が必要なのです。
そう考えると、実際に隣国との和平と、国内の民族融和を成し遂げたアビー・アハメド氏が平和賞を受賞したのは、少なくとも納得できる人選ではないかと思うのです。