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小さな気づきとアクションで"つながり"を取り戻す。「サンゴに優しい日焼け止め」と「プロジェクトマナティ」

累計数万個の販売実績を持つ「サンゴに優しい日焼け止め」と、100ヶ所以上のパートナーネットワークに成長した「プロジェクトマナティ」。今回のゲストは、沖縄で生まれた2つのスタートアップを発案・創業した金城由希乃さんです。

9月にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)のフォーラムに招聘されプレゼンテーションを行うなど、多くの人に影響を与え続ける金城さんですが、事業を起こしたきっかけは、自分自身に起きたできごとから心に芽生えた小さな違和感だったそう。地道な事業展開の動機について、弊社バガスアップサイクル代表の小渡晋二がお話を伺いました

小渡
「サンゴに優しい日焼け止め」は、どうやってつくってきたのですか?

金城(以下、敬称略)
今はタイの工場に製造を委託しています。もともと化粧品の製造経験はなく、手探りで始めました。ナチュラルな製品への理解が優れていたのでタイでつくることにしたのですが、パッケージの文言を少し変えるだけでもタイ側とやりとりが必要になり手間がかかります。スピードが落ちて機会損失にもつながってしまうため、自社製造に切り替えるために事務所内に工房を新設中です。

工房併設のオフィスにて

小渡
未経験にも関わらず、日焼け止めの製造販売を手がけようと決めた原動力はなんだったのでしょうか?

金城
一言で言えば、自分にとって大切なことを大切にするために始めました。沖縄市のコザ出身で、中高生時代はもっぱら街で遊んでいたのですが、大学で出会った海の中の別世界が衝撃的に美しく、取り憑かれたように海に通う日々が始まりました。ある日、あまりにも幸せで、幸せすぎてこのまま沖縄にいたらダメになると思ったんです。それで東京に移り、その後ニューヨークにも住んで、戻ってきた。そうしたら、私が惚れ込んだあの美しい海がなくなっていました。大好きだった崖下のシュノーケリングポイントには駐車場と階段ができて観光客が溢れかえり、昔はのんびり泳いでいた魚たちは餌を求めて人間に向かってくる。「なにこれ、こんなの私が好きな沖縄の海じゃない」と拗ねて、しばらく遠ざかっていました。

そんなある日、友達に誘われて海に行った時に日焼け止めを塗っていたら、ダイバーの方から唐突に「あーあ、珊瑚死んじゃうね」って言われて。「海を愛する私が海にダメージを与えているってこと?」と大きなショックを受けたんです。それで調べ始めたら一気に自分ごとになり、始めたのが「サンゴに優しい日焼け止め」です。

「サンゴに優しい日焼け止め」
珊瑚に有害な紫外線吸収剤やナノ成分、合成界面活性剤が含まれていない。

小渡
どんな人に買ってもらうことをイメージしていましたか?

金城
海が好きで大切に思っている人はもちろんですが、そうでもない人にも届けたいと思って始めました。当たり前に思っている海の綺麗さは、なにも考えないでいたらなくなっちゃうかもしれない。「綺麗な海は大切じゃない?」とメッセージを伝えたいけれど、インターネット上には情報だけが溢れていて、気づいてもらうきっかけとなるリアルな物事や場面が圧倒的に足りない。だから、商品にメッセージを載せて、そこらじゅうに置きたいと思ったんです。そうしたら、買った人はその瞬間、優しい気持ちになる。自分は海に優しくしてるんだという気持ちになったら、世の中の優しさの総量が増える。そのためのきっかけづくりをしたいのです。

小渡
商品を通してメッセージが広がり、大切なものに気づくきっかけを多くの人に届けたいという思いがあったのですね。その思いは、プロジェクトマナティにも通底しているように思えます。

金城
はい。プロジェクトマナティも、始めたきっかけは自分自身の身におきた小さな出来事です。サンゴに優しい日焼け止めの営業のためにある離島に出かけた時に、サンセットを眺めようとビーチに行ったら漂着ゴミだらけでした。拾いたいけれど、どこに捨てたらいいか聞ける人もいない。志も時間もあるのにゴミひとつ拾えないことにびっくりしてしまって。結局なにもできなかったのですが、これを「ま、いっか。しかたがない」で終わらせてはいけないと思いました。きっと私以外にも、ビーチに散在する漂着ごみを見て小さな「?」を持つけれど、できることがないから「しかたがない」と見ないふりをしてしまっている人が無数にいるはずだと。そういう小さな見ないふりが、多くのネガティブな出来事を助長しているように思えたんです。だから、小さなきっかけの「?」を大事にできるようにしたくて始めました。

プロジェクトマナティは、ごみ拾いをしたい人が地元の協力者「パートナー」に500円を払い、必要な道具のレンタルやゴミの処理をしてもらう仕組み。

小渡さんはなぜ、バガスアップサイクルを始めたんですか?

小渡
僕は、ご縁がある人物の思いに共鳴する中で事業が起きてくることが多いです。バガスアップサイクルの始まりは、日本の工芸を愛している親友に協力したのがきっかけとなって琉球紅型の先生とつながり、「100年後に紅型職人が花形の職業になるには?」という問いに関わるようになったことです。そうこうするうちにバガスアップサイクルの共同経営者であるSHIMA DENIM WORKS創業者から「紅型で何かしたい」と連絡があり、話をする中で、SHIMA DENIMが持つ廃棄バガス繊維の利活用技術とOkicomのITを組み合わせることであらゆる無駄をなくす新しいアパレル産業のあり方を創造しようと起業に至りました。

学生時代のシンクタンクでのアルバイトに始まり、就職した外資系金融機関でのESG投資への関わりを経て、地球環境への配慮が世界経済の潮流の一つとして確立してきていることに関心を寄せてきました。でも、地球環境が本当に自分ごとになったのは子どもが産まれてからです。次世代に何を引き継ぐのかに向き合うようになり、危機感を覚えて。バガスアップサイクルの事業を通して、新品の生地が反物ごと廃棄されることも珍しくないアパレル産業の無駄の多さに一石を投じたいと奮闘しています。

バガスアップサイクルのかりゆしウェアにはICタグを縫い込んであります。スマホをかざすと、製糖工場から廃棄されたバガスが糸になり、縫製されて製品になり、今までに何回着用されたかといったサプライチェーンが見られるようになっています。今まで目に見えなかったつながりをITで可視化することで、「着用」という価値がどのようにして生み出されているのかに思いを馳せてもらうことを意図しています。

金城
海や畑、珊瑚やサトウキビといった自然環境や生き物も、地球資源から生み出された商品も、もの言わぬ存在です。でも、それらを大切に思う人間どうしは言葉や情報を交換しあってつながり合うことができますよね。プロジェクトマナティの真価も、ビーチのゴミ拾いをしたい旅人の気持ちと、道具のレンタルや拾ったゴミの後処理を担ってくださる地元のパートナーさんが海を想う気持ちでつながれることを可視化できることだと思っています。

そうやって、本当はそこにあるつながりを思い出し、自分とつながっている大切なものごとを大切にする小さなアクションが小波のように連鎖しながら広がっていくことが、地球規模の大きな問題を解決する方法なのだと信じています。

BagasseUPCYCLEが展開するかりゆしウェアをご着用いただきました。
沖縄の自然をモチーフにしたデザイン工房「イチグスクモード」の「オオゴマダラ」(金城さん)と知念紅型研究所の「青海波に帆掛け船」(弊社代表:小渡)

バトンズ編集部より
金城さんは今、グッドアクションの連鎖を生み出すプラットフォームの構想に着手しているとのこと。眼差しの先にあるのは「世界平和」です。
気候変動や戦争といった地球規模の課題は、大きすぎて目に見えず、手にとるようには感じられない現実があります。一方で、目の前にある良い商品を選んだり、気になったゴミを拾うといった小さなアクションが優しい気持ちを呼び起こしてくれること、それが大きな問題に確かにつながっていることもまた現実です。金城さんとの対話は、アクションを呼び起こす小さなきっかけの大切さに気付かせてもらえる貴重な時間となりました。私たちが受け取った小さな心の渦を、読者の皆様にもおすそ分けできたなら幸いです。

取材:2023年10月

バガスアップサイクルは、沖縄の地場産業である製糖業の過程で発生するサトウキビの搾りかす「バガス」の繊維を活用したかりゆしウェアのシェアリングサービスを展開しています。詳しくは、コーポレートサイトをご覧ください。デザイン一覧および那覇市内各所でのレンタルサービスについてはこちらでご案内しております。