戦闘遭遇をデザインする
位置取りを制する者はLHZを制する、という言葉がある(らしい)。
前記事にも書いたとおり、LHTRPGのスクエアタイル制戦闘は、位置どりや移動の阻止が戦術面でかなり大きなウエイトを占める。このゲームではエネミーは基本的に[ヘイトトップ]のキャラクターを攻撃するよう設計されているため、特定のキャラクターに攻撃が集中しやすい。そのため、プレイヤーは最適な移動経路を予測し、より安全と思われる場所で、耐えられるダメージ量を見積もりながら攻防を展開していくことになる。
ここでシナリオ制作の立場に立ってみよう。そうしやすいことでプレイヤーが喜ぶなら、そういう状況を用意すれば良いのだ。そこで本稿では、戦闘開始から本格的な攻防に突入するまでの戦闘をデザインする方法について解説したい。
配置を考える
戦闘遭遇は、エネミー、プロップ、配置の3つの要素に分解することができる。これらを吟味し、製作者の意図通りに戦闘が展開されるよう組み合わせていくことで戦場を作成していく。言い換えれば、よい戦闘遭遇はこれら三要素をフル動員したトータルコーディネートの産物である。今回は特に、配置を中心に解説しよう。
例えば、4体のPCに対して、4体のノーマルエネミーをぶつける場合を考えてみよう。ビルドやCRによるが、ノーマルエネミーのHPを1体のPCが1手番で削り切ることは一般的な結果ではない。つまり、1ラウンド目終了時点では全てのエネミーが生存状態で、ここまでに誰かしらPCを攻撃する機会を1回は得ることになる。
壁役のキャラクターが順調に単独の[ヘイトトップ]状態になれる状況なら、壁役を操作するプレイヤーは以下が成立するような位置を最適と判断する傾向にある。
多くの場合、攻撃の引き受け役は戦士職が担うことになる。《タウンティングブロウ(SR1)》《武士の挑戦》など、戦士職がもつヘイト減少特技に着目すると、2Sqを基本としていることが窺える。したがって、「PCが移動可能で、エネミーを誘引でき、攻撃役に都合のいい立ち位置が2Sq以内に存在するマス」を作り出すことで、主戦場となる範囲を仕込むことができる。
上図をご覧いただきたい。通常のPCが1手番で移動できる距離は4Sq相当である。壁役の攻撃射程が至近なら、移動に最適だと判断される場所はかなり高い確率で図の中央になる。
このような導線は、仕組みを分かった上で観察すれば露骨に見えるかもしれないが、プレイヤー側からの視点だとはっきりとは観察されにくい。識別不足や情報の見落としの可能性、はじめてみるテキストの解読に集中力を費やすことなどの影響があるからだ。定めた位置で戦ってもらうことで戦闘の絵としても非常に綺麗な構図となるため、自然とプレイヤーに肯定のメッセージを与える形となる。テレビゲームでは正しい行動に対して即座にSEなどで肯定のメッセージを送るしくみがプレイヤーを熱中させる大きな要素となるが、これをアナログゲームに最大限取り入れるとこのような運用となる。
導線外での状況対応
戦闘では、キャラクターは【行動力】の順に移動や攻撃などの行動を行う。さきほどの例ではエネミーの側にPCから接敵する構図を描いたが、行動力の内容次第では例と同じ形にならないこともある。ここで使えるのが、3〜4Sqの遠距離攻撃である。エネミー側から必要以上に接近する必要がなくなるため、こちらの行動後に改めてPC側に接近してもらうことができ、遠距離攻撃をもつ壁役にも対応可能だ。プレイヤー側でも感じることが多々あるだろうが、LHTRPGの遠距離攻撃は近接に比べて非常に小回りがきく。近接攻撃をもつエネミーは耐久力や攻撃効果などをより強いものにするなど、差別化を図ると良いだろう。
また、ソロボスとの戦闘などでは初期配置から最初の移動後、まったく移動の必要性がなくなってしまうという問題もみられがちである。この場合は、プロップや特技などでPCの最適位置をラウンドごとに変化させる仕掛けが有効となる。例えば、セットアップでPCの足元に「クリンナップに爆発してダメージを与える」プロップを配置する、などだ。脅威を前に、状況の変化にうまく対応することは楽しいことだ。ダメージ量は、甘んじて受ける状況となった時に魔法攻撃職が即死しない程度までならアフターケアが有効なので過度なストレスとなりにくい。有効に使っていこう。もちろん、避けるタイミングが存在しないような仕掛けは最適位置の誘導となり得ないので、かならず手段を与えること。
また、初期配置から移動を行っても全くエネミーに攻撃できないほど両者の位置が離れている、という状況が考えられる。これは「お見合い」を誘発しゲームの膠着を招くので、初期配置から4Sq以内には基本的に攻撃先などの目標物を含めておいた方が良いだろう。配置はゲーム開始時にしか介入できない項目なので、シミュレーションを重ねて良い位置を探っていこう。
阻止能力の無効化を検討する
移動に関するルールのうち、特に影響が大きいものに阻止能力がある。キャラクターは、基本的に敵対者の存在するSqを通り抜けて移動を行うことができない。このルールは、PCとエネミーの交戦順を想定する時の材料となる。前方のエネミーを無視して後方のエネミーの所へ辿り着くのは困難、というような設計なのだ。ただし、阻止能力は[飛行][即時移動][硬直]など、様々な方法で突破可能であるため、過信せずにむしろそれらを用いるPCに活躍の機会を与える名目で運用するといった方が思い切りが良い。
この阻止能力は、時にはシナリオの導線にとって邪魔になる場合がある。PCに自由に位置どりを考えて欲しい場合だ。そんな時は、エネミーに「このエネミーは[阻止能力]をもたない。」能力を与えてしまうという手がある。エネミーにデメリットを持たせて不満を漏らす者はいないのだ。あるいは[シーンエフェクト]として、「全てのキャラクターは[阻止能力]の対象にならない。」とする方法もある。この記述方法であれば、万一プロップの効果を無視できるPCがいても状況が変化することはない。
まとめ
・戦闘遭遇は、エネミー、プロップ、配置の3つの要素に分解することができる。
・壁役が判断する最適な位置取りを逆算することで、導線を作り出せる。
・プロップやエネミー特技を用いて、PCに移動する理由を提供する。
付録−〈"黒剣の"アイザック〉
以下に本稿の考え方を用いたボスエネミーを提供する。是非、実践編としてエンカウントシートを用意して、このエネミーや他のプロップ、PCの初期位置などを色々試してみて欲しい。
導入としては、黒剣騎士団と合同演習を行うような状況設定にすると、スムーズに戦闘シーンに入れるのではないだろうか。
このエネミーはあなたのシナリオ等に自由に変更を加えて利用していただいて構わないが、シナリオを公開するなどの際はクレジットに「作成:@_baton_」を表記して頂きたく思う。
また、これを書いている間にログ・ホライズンのアニメ第3期「円卓崩壊」が放映開始となった。関わってくださったスタッフの皆様に、感謝と祝福の辞を述べたいと思う。大いに元気をいただきました。ありがとうございます。
▼エネミーの動き
基本的に[ヘイトトップ]のキャラクターを対象に攻撃をするが、範囲内に他のキャラクターが含まれている場合は積極的に巻き込んでいく。攻撃ができるにも関わらず実行しないという選択は、このエネミーの行動としては相応しくない。《苦鳴を紡ぐもの》によって[鎖]タグを与えた後は、《オンスロート》の攻撃後に発生する移動によって間合いをとり、全体のヘイトを上昇させていく。また、至近距離に張り付くキャラクターには《クロススラッシュ》で負担をかけよう。[放心]しているキャラクターは[阻止能力]を失うことを念頭に、通常の移動プランを考えるとよい。
▼Q&A
Q:[鎖:n]タグの強度は、タグの付与時に決定された値のまま変わりませんか?
A:いいえ、[鎖:n]タグとして付与し、強度を参照する時点でnに「与えられたキャラクターと〈"黒剣の"アイザック〉の距離」を代入します。
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