「無効化競争」を終わらせる-プロップの活用(2)
ゲーム中に、ある障害を無視する・無力化する操作があることは一般的だ。上手く困難を乗り越えられたとき、プレイヤーは達成感と喜びを感じてくれるだろう。しかし、そのデータを作って配置しているのも人である。最初からそれが無かったように扱われるのは正直不本意で、できるなら障害物にも尊厳ある滅びを与えたい、と筆者は考えている。
プロップの2回目となる本稿では、[オブジェクト]と[地形]を中心に解説する。実は、この2つは前回の3種類よりも思い通りに動かすのが難しい。是非、他のプロップとの違いに注目していただきたいと思う。
動かせるものは[オブジェクト]に
【転送装置】
[オブジェクト][機械]
探知難易度:自動 解析難易度:自動
解除難易度:不可
〔起動:インスタント〕このプロップと接触した対象が起動できる。エンカウントシート上の他の【転送装置】が存在するSqから1つを選ぶ。対象はそのSqに[瞬間転移]する。
【攻撃予兆】
[オブジェクト][魔法][火炎]
探知難易度:自動 解析難易度:自動
解除難易度:不可
このプロップは同一のSqに複数設置でき、それぞれ異なるプロップとして管理される。このプロップはラウンド終了時に除去される。
〔滞在〕対象の[弱点][弱点(火炎)]のうち強度が最も大きいもの1つを即座に起動し、23点の魔法ダメージを与える。
[オブジェクト]はキャラクターのように「Sq上に存在する駒の1つ」として設置する。多くは〔起動〕の実行条件をもち、キャラクターのように自律してうごく性質はないが、「〜の場合クリンナップに起動する。」のように単独で効果を発揮するよう記述することもできる。(あるいは〔滞在〕とするのも良いだろう。)[壁]のように、辺ではなくSqを横切る射線に影響を及ぼすこともできる。
気をつけたいのが〔接触〕の実行条件を扱う場合である。同じSqにあっても、[オブジェクト]に接触しているかは状況や宣言によって変わってくる。エネミーの攻撃手段など「GMが明らかに触っていると判断してくる 」と分かるものは問題が少ないが、「触っていないことで影響がある」状況はGMだけで判断できないことも出てくるだろう。できるだけ誤解が生まれないような記述をすることが重要になる。
また、名称から[オブジェクト]は[空間]に比べて「配置が移動し得る」というイメージを与えやすい。戦場構成によっては、ある効果を持ったプロップが頻繁に位置を変えたり、取り除かれたり再配置されたりする場合がある。筆者はこういうプロップは[オブジェクト]として作り、後で位置が変わることを言外に強調している。
[地形]の制限をうまく活かす
【空気だまり】
[地形][天然][容量:3]
探知難易度:自動 解析難易度:自動
解除難易度:不可
このプロップの[容量]の強度が0以下なら,このプロップは効果を発揮しない。
ラウンド終了時に、このプロップの[容量]の強度にー[このプロップが設置されたSqに存在するキャラクターの数]する。〔滞在〕対象は[空間][シーンエフェクト]タグをもつプロップからダメージを受けない。この効果はラウンド終了時まで持続する。
【沈むタイル】
[地形][機械][高さ4]
探知難易度:自動 解析難易度:自動
解除難易度:不可
このプロップの影響下にあるキャラクターが存在しないなら、このプロップがもつ[高さ]の強度は4になる。〔接触〕このプロップの[高さ]の強度は、[4ー(このプロップの影響下にあるキャラクターの数)](最低0)に変更される。(影響下にあるとは、効果を受けていることを表す。)
効果の調整を考える時、最も難しいであろう種別が[地形]である。これは、[地形]が他のプロップに比べて格段に多くの制約を受けているためだ。
[地形]は破壊できないし、動かすこともできず、動くことも、射線を遮ることもない。そして何より、[飛行]状態のキャラクターは[地形]プロップから望まない効果を受けないのである。なお、[空間]や[壁]にそのような制限は特に設定されていない。ある意味不遇のプロップと言えるだろう。
これらはプロップを[オブジェクト]や[空間]に変更することで解決できるが、では[地形]がもつ制約はどんなことに役立ち、[地形]であることはどう活きてくるのだろうか?ここでは、路線として三つを提示する。
一つ目は、[飛行]状態をある種のスイッチとして利用できる点だ。シナリオサイドから[飛行]になる効果と[飛行]を失わせる効果を用意すると、[地形]のデメリット回避を戦場の主題としてしまうことができる。また、[飛行]状態のキャラクターが効果を受けるかを判断できる。
[飛行]が強力だからといって飛行能力をただ失わせるのみだと、そこに割いた枠の分、飛行能力を持ってきたことが損のように感じさせてしまう。最初のラウンドにPCが自力で[飛行]状態になれたとしたら、少し得をするくらいのバランスを目指すことで、解除させられた時の心理的ダメージを減らして「持ってきてよかった!」に着地させやすくなる。
シナリオサイドもプレイヤーサイドも、用意したものが最初から無かったように扱われるのは不本意だ。それに、そういう次元で相手側のデータに対策を取り続けるのは、折角の豊かなデータ多様性を損なうことに繋がる可能性がある。TRPGという遊びの性質上、プレイヤー側にできることは限られる。だから、このイタチごっこを終わらせるかは我々シナリオサイドの裁量次第と言えるだろう。
二つ目は、[地形]プロップをある種の装飾、ランドスケープと見なして配置するというものだ。特にオンラインセッションではBGMや駒などに工夫を凝らし、没入感を高めようとするテクニックが発達している。[地形]はSqタイルで表された地面そのものなのだから、その演出に最も適する。適切な地形を再現し、見た目に優れたエンカウントシートは我々を心躍る冒険に連れて行ってくれるだろう。
そこまで凝らなくとも、ちょっとしたデータが豊かなロールプレイの原動力になることは多い。[飛行]状態のキャラクターにささやかなボーナスを与えつつ、戦場の風景をみんなで楽しもう。ここでは、複雑な効果をもつプロップは避けておくと、無用な相談時間を取らせないですむ。搭載するのは「〔接触〕対象の[疲労]を2点回復する。」くらいの、見た目にも分かりやすい効果にしておこう。
三つ目に、PCを対象としないプロップを作ってしまうというものがある。この考え方では、他のプロップや、飛ばす予定のないエネミーに対してプロップを設置することになる。PCも同様に効果を受けることがあるだろうが、条件に使うタグや記述を工夫して導線を作ってみるといいだろう。
プロップ無効ステータスを利用する
▼特技
《名状し難きもの》
常時_他の[人間]タグをもつキャラクターは、このエネミーに射線が通っているなら即座に[惑乱]を受ける。このダメージに対しては「タイミング:ダメージ適用直前、直後」の行動を行うことができない。このエネミーは《ダッシュ》できない。
地形同様に、特定の能力をもつプロップの効果やダメージを無効にする効果が存在する。特に[暗視]と[水棲]はダメージ以外であっても望まない効果を無効にできるので、飛行同様に注意を払う必要があるだろう。
とくに[暗視]は、例えばプロップ【暗闇】に対しては「【暗闇】により隠密として扱われているキャラクターに対し、射線を通さないことを選んで良い」ということである。ここから、自分から対象に射線を通さないことで利益を得られる状況を作ることが検討できる。
まとめ
・判断を要することには誤解が生まれないように注意して記述する。
・そのリソースを持ってきたことで少し得をするくらいのバランスを目指す。
・フレーバーを主体とする場合は特に簡潔な記述をする。
・効果を受けることを選ばせるデザインも有効である。
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