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百田尚樹チャンネル(2024年7月15日) 岩田温『流されない読書』(2018年9月)

 「かつては小説家でしたが、最近はYouTuberになりました」と自称するベストセラー作家、百田尚樹氏の動画をみると、日本を代表するベストセラー作家とは…!!!、三十年以上のキャリアを持つ放送作家のプレゼン能力の高さと人を惹き付ける力とは…!!!と、心底感嘆させられる。
 
 中でもファンから「百田劇場」と呼ばれるモノマネがあるのだが、一旦このスイッチが入ると、古代の天皇とそのお后だろうと誰だろうと大阪弁でもって、その会話を延々繰り広げてしまう。

 最初に動画を見たときは、そのあまりの "大阪のおっちゃん" ぶりに、「え、これがあの百田尚樹?!?」と吃驚したものだが、そういえばけんけんも『日乗』に似たようなことを書いていたよなぁと思い出し、

平成24(2012)年11月28日
 学生服着用のクイズ番組の、SP版収録。
 休憩時間に、同じく出演者の百田尚樹氏、佐戸井けん太氏、田尾安志氏とお話をさして頂く。初めてお会いした百田氏、ベストセラー作家的尊大さのない、感じのいいかたであった。

西村賢太『一私小説書きの日乗 憤怒の章』

 本当に、「尊大さ」というものが微塵もないその様子に、「ああ、人を見る目がおんなじだ♪」と嬉しくなったものである。

 で、百田尚樹氏のほうでも、けんけんが亡くなった時に下のような(↓)ツイートをされていたので、いつか氏に、この日のことをお聞きしてみたいものだなぁとふとこっていたのだが、、、

けんけんの性格と行動が凝縮されたような、
生前の姿の目に浮かぶ、嬉しいツイートだった😭

 なんと先日(2024年7月15日)のYouTubeで、昨今の純文学界隈について話す中で、西村賢太について触れておられた(0:21:20~)↓↓↓

 私、西村さんと、一回だけお会いしたことあるんですけど、私はね、西村さんにこう言うたんですよ。
「西村さん、僕は読んでないけど、申し訳ないけど、非常に面白いっちゅう話を聞いてますよ」と。だから「エンタメの世界、入ったらどうですか」と。
 ほな、西村さんは、それまでニコニコしてたんが、急に真面目な顔になって「エンタメは、難しいです」と。「エンタメは、誤魔化しがききませんから」と。
 それを言うた(聞いた)ときにね、「あ、この人、分かってるな」と思ったんですよ。

書き起こし(0:22:00前後)

 百田氏の、「お目にかかったことがある」「お会いしたことがある」、こういう語彙のチョイスや「さん」付けからも、西村賢太を同業者として認めるフラットな視線と敬意といったものが覗われるし、「『苦役列車』は読んだことないんですけど」と西村賢太本人に言ってしまうあたり、読んでもないのに「読んだ、読んだ」、観てもないのに「観た、観た」と言ってしまう人の幾らでもいよう界隈にあってはむしろ、嘘のなさが心地よいぐらいだったのではないか。

 西村賢太自体がエンタメで育ったクチであるし、「何が面白いのかサッパリ解らない」と純文学界隈をディスりまくっていたのは読者の知るところであるが、私が彼からじかに聞いた「俺、○○と○○は天才だと思うんだよなァ」という人たちも、双方、エンタメ界隈の人である。

 西村賢太のエンタメに対する敬愛とそこから生じた謙遜が、百田氏には十分伝わったのだろう。

 しかしこれは私の意見にすぎないが、2012年当時の西村賢太にとって「エンタメを書かない」一番大きな理由は、私小説に殉じたいという気持ちだったと思う。自らを「私小説書き」と名乗る矜持、そして藤澤清造への操だったと思う。
 ただ、本人も書いての通り、そういったものが「側からみれば狂的な戯言ざれごと」だということも知っており、そのまま口にするのを躊躇させるに足る社会性があったということだろう。

 もう一つ思ったのは、「エンタメを書かないのか」とズケズケ突っ込んで聞くような人も、もしかしたらそれまで彼の周りにいなかったのではないか。こういった問いは初めてだったのではないか?
 その結果、瞬時に出たのが「真面目な顔」だったのではないだろうか。

 百田氏の混じり気のない単刀直入さに、西村賢太のピュアな地金が現れた瞬間だったのではないか。

 合いの手を入れるゲストの政治学者、岩田温氏もまた、西村賢太について詳しい様子なのが見て取れるのだが、それもそのはず、この方は西村賢太の愛読者である。 

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