見出し画像

[#13] 誰のためのJISキーボード?

初出: MacPower 2001年 7月号

この原稿は、PowerBook G4で書いている。日本で買ったものだが、キートップにひらがなの表示はない。アメリカに住む友人に、キーボードだけ英語版のものと交換してもらったのだ。ホントに感謝している。というのも、プログラマーにとってはUSキーボードのほうがJISキーボードより格段に使いやすいのだ。メインマシンをPowerBook G4に切り替えたばかりのころはJISキーボードのままだったので、作業効率がガクンと落ちた。打ち間違えが増えるのは、もちろん慣れていないという理由もある。だがたとえ慣れたところで、C言語を扱うプログラマーが頻繁に使用する ( ) [ ] { } ' " : ; =-+* などの記号はUSキーボードのほうが使いやすい位置に並んでいる。困ったものだ。

JISキーボードにはほかにも問題がある。キーボードショートカットに記号が割り当てられている場合、記号によっては[shift]キーを押さないといけないのだ。例えば[+] キーが含まれていると、JISキーボードでは[shift]キーと[-]キーを同時に押す必要がある。悪いことにMac OS 8以降は標準で[⌘]キー以外の修飾キーをサポートするようになったので、日本語環境で[⌘]+[=]のキーボードショートカットを選ぶには [⌘] +[shift]+[-]キーを押さないといけない。もし、この組み合わせに別のショートカットが割り当てられていたらアウトだ。

こうした本質的な問題を抱えているJISキーボードの問題点を整理してみると、

・記号類の配列の違い
・[caps lock]キーと[control]キーの位置
・キートップに表示されたひらがな
・[かな]キーと[英数]キー
・ホームポジションのずれ

などが挙げられるだろう。今回は、このうち「記号類の配列の違い」について考えてみたい。

USキーボードとJISキーボードを比べて特にどちらが優れているとは言わないが[*1]、JISキーボードの記号の配列からはいろいろな疑問がわいてくることは確かだ。「@」なんて日本語で頻繁に使われるものではないはずなのに、なんでデカいツラして便利な位置に配置されているのか?JIS規格を作った人たちは、そんな昔からいまの電子メールの隆盛を予知していたわけではあるまいし・・・・。数字の「0」には、何で [shift]キーを押したときの文字が割り当てられていないのだろう?なぜこんなにいい位置を空けたままにしておくのか?こんなもったいないことはない。クォーテーション記号とダブルクォーテーション記号は互いに関連する記号なのに、それぞれ数字の2と7の上というまったく関係ない場所にあるのはなぜ?そもそも何で、JISキーボードより先に存在していたUSキーボードと違う配列を選んだの?なぜ?アメリカが嫌いなの?ビンゴなの?

こうした疑問の答えを探していくと、何とも面白いことがわかった。JISのキーボード規格は、もともと日本語のかなをキーボード入力できることだけを目指していて、ほかのキー配列には何の興味もなかったらしい。そのため記号の配列は、ISOの国際標準規格を採用していたのだ。何と! JISキーボードの記号配列は国際標準にのっとったものだったのだ。オレはすっかり、勝手に決められた日本独自のものだと思っていた。JISの策定にかかわったみなさま、ごめんなさい。

しかし!国際標準とはいえ、無条件に受け入れられるわけではない。やはりどうしてもこの配列は使いづらい。それはなぜか?その答えとも言える1つの事実がある。

実は、ISOで定められた記号の配列は使う頻度とか人間工学に基づいたものではなく、単純にキーボードという機械の都合を優先した作りになっているのだ。入力される文字と文字コードを見比べてもらうと一目瞭然なので、文字コードの配列の一部を抜粋してみる。

これを見ると、キーボードの数字とその上の記号は文字コード表で1段ずれて並んでいることがわかる。つまり、16個ずつずれているのだ。同様にアルファベットとそれに続く記号は32個ずつ、ちょうど2段ずれている。これは、機械にとって非常に都合がいい仕様なのだ。電子機器であるキーボードが攻字コードを生成する場合、この順番に並んでいると仕組みがとても簡単になるというメリットがある。

この仕様が制定された75年当時は、キーボードはとても苦労して作られていたのだろう。それを考えると、こうした機械の都合が優先されたこともそういう時代だったのだと納得できなくはない。しかし現在のテクノロジーをもってすれば、人間がキーボードにそんなに気を遣う必要はないはずだ。そもそも現代のコンピューターでは、キーボード自体は文字コードなど生成していない。文字コードは、OS側がソフトウェア的に作り出しているのだ。

前時代的な仕様のために人間が縛られているという現実がわかると、JISキーボードにはますます我慢できなくなる。このまま機械の都合のために人間が苦労していていいのか?何かばかげているように思えてこないだろうか?次回に続く。恨みは深いぞ。

バスケ
シエスタウェア代表取役。今月はWWDCに参加してきたが、特に新しい情報はなし、ジョブズかMac OS Xの改良を続けると言ったことが話題になったけど、そりゃそうですよ、いまのままじゃ使えないもん。それ以外はとても現実的なセッションの連続で、役には立ったけど夢じられなった。そんなWWDCでした。

[*1] 特にどちらが優れているとは言わないが - もちろん、プログラマーにとってはUSキーボードのほうが優れている。絶対にそう。

編集・三村晋一


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?