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[#37] WWDC 2003を終えてPantherについて考えてみる

初出: MacPower 2003年 8月号

例年話題にしている、WWDC(Worldwide Developers Conference)の時期がやってきた。これは開発者にとって1年で最も大事なイベント。ひとつは今後のアッブルの技術の方向性を確認するため、またひとつには懐かしい仲間や、普段は名前しか知らない海外の開発者、アップルの開発チームと直接会って話ができるという貴重な機会である。次の1年間を頑張るための、エネルギー充電の場という意味もある。どんなに忙しくても、見逃すことのできないイベントなのだ。

今年のWWDCは例年よりも1カ月遅れて6月の後半に行われた。遅れた理由は次のMac OS Xのメジャーリリースと予定されている、コードネーム「Panther」の開発の遅れ[*1] ということだ。確かに1カ月遅れただけあって、参加者は比較的安定して動く状態のPantherのプレビュー・リリースを手にすることができた。発売が年末ということなので、半年前の状態としては安定しているし新機能もちゃんと入っている感じだ。NDAがあるのでジョブズの基調講演についてだけしか書けないが、それでも伝えられる範囲でWWDCの雰囲気を伝えることにしよう。

まず最初に、今年は開催地がいつものSan Jose(SJ)から San Francisco(SF)に変更された。理由は特に発表されていないが、スケジュール変更の関係で、もとのSJ Convention Centerが押さえられなかったからではないかと思われる。でも終わってみると、新しいハードやソフトの発表ラッシュ。まるでMacworld Expoのキーノート・スピーチのような盛り上がりであった。なにかアップルの販売戦略に使われている気もする。ひょっとすると、これから毎年SFで行われることになるかもしれない[*2]。本来開発者のためであったWWDCが姿を変えていくかも、というのはちょっと悲しい気もするのだが……。

なにはともあれ、SFへの場所の変更は日本からの参加者としてはとてもうれしい。 それは食事の問題なのだ(笑)。SJははっきり言ってあまり洗練された都市とは言えず、食事も大味なモノが多い。朝と昼はカンファレンスから提供される食事があるとして(まぁ、これがひどいモノなのだが)、夜は自分で探して食べる必要がある。変なものを食べてしまうと、次の日ダウンということにもなりかねない。その点、SFは美味しいモノがたくさんある。しかも量も適度で、探せば日本並みに美味しいモノが見つかるのだ。来年もSFでやってください、お願いします。

さて、話はPanther に変わる。まずはAquaインターフェースの細かい見直しだ。例えば背景の縞模様が薄くなり(なくなってはいない)、出しゃばり過ぎなくなった。またタイトルバーの表示が変更され、アクティブなときとそうでないときの区別がつきやすくなった。個人的にはもう少し差をつけてもいいと感じたが、正しい変更だと思う。なにより、アクティブでないときの半透明をやめてくれたのがうれしい。ただし、メニューは相変わらず半透明のままだ。

標準のコントロールもかなり見直された。まずは全部に関係するが、ミニコントロール。今までの標準とスモールに加え、さらに小さいミニサイズが追加された。一般的に画面が広くなってきているとはいえ、Mac OS 9時代に比べると画面の使用効率がどうしても低くなりがちだ。これで多少は改善されるだろう。

それからSwitcherとして今回標準化されたのが、ラジオボタンのように振る舞う連なったボタン。Finderのピュー切り替えポタンがその典型だ。これはいままで自分で書かないと実現できなかったのが、簡単に使えるようになった。これまでタブで表現されていた部分も、このSwitcherを使うように変更されている。あとはiTunesなどで使われている検索用のフィールドも標準化された。これは作るのが面倒だったので大助かりだ。

Finderの変更については、おおむね正しい方向への変更と思われる。昔のFinderのことはすでにあきらめているので、違うモノとしてみれば、今回のFinderはブラウザーとしてはJaguarまでのモノとは比べモノにならないくらい使いやすくなっているだろう。なにより Open & Save ダイアログが改善され昔の形に近くなり [*3]、さらに新しいFinderとの共通性も身につけたことが何よりうれしい。

さらにはExposéなどという素晴らしい新機能のデモも驚かさせてくれる。ユーザー変更の際のキュービックな効果も、あーバカなことをやってくれるぜ、と大笑いさせてもらった。iChat AVの演出もお土産にもらったSightのデザインも、素直にワクワクさせられる。使って楽しい技術の集大成を見せられた感じだ。

そう、今回の基調講演は1ユーザーとして とてもわかりやすかったと思う。これは何を意味するのか?実はPantherには、開発者がぐぐっとくるような新しい機能は実装されていないということだ。例えば昨年のRendezvous やQuartz Extremeのような、得体の知れない新しい技術というのは何もデモされなかった。WWDCという開発者を対象とした場所で次期OSのプレビューを行っているというのに何故か?

昨年のJaguarではさまざまな新しい技術が登場した。そうした技術をわれわれ開発者はバリバリ勉強して、自分のプロダクトに吸収していった。実はアップルも同じように頑張っていたのではないか。Panther はその成果を発表する場所なのだと思う。

しかしここで1つ疑問がわく。新しい技術を必要としていないのなら、これらの新機能はJaguarでも動くのではないか?$129も出して購入する必要はどこにあるのだ?

バスケ(http://www.saryo.org/basuke/) 来月はblogのことでも、とか先月のんきに書いたが、WWDCを書かないわけにはいかないのでした。blog についてはいつか書きますね、と言っている間に旬は過ぎてますな(笑)。あー、阪神の優勝についても書かないわけにはいかないし。どうする!?

[*1] 開発の遅れ - イラク戦争と重なっていたので、その影響なのでは?とうがった見方もある。それも否定できないタイミングだったから仕方ないが。 [*2] 毎年SFで行われることになるかもしれない - 来年のスケジュールは、今のところSan Jose で5月に行われることになっている。
[*3] 昔の形に近くなり - カラム表示に戻すこともできる。

編集・矢口和則

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