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[#26] Xserve成功の鍵は何か?

初出: MacPower 2002年 8月号

アップル初のラックマウント型サーバー「Xserve」。サーバービジネスには関係なくとも、あのデザインに惚れた人は多いだろう。かくいうオレもそのひとり。WWDCでの突然の発表には結構びっくりしたが、これは欲しい機種だ。何とか買うための理由をつけねば。とはいえ、最近ネットビジネスに多少なりともかかわるようになって、1Uのラックマウント型サーバーの大きさや騒音、熱対策の必要性などから、自宅で使うには無理がありすぎることもわかっている。ぐう。

それでも、買うための理由を何とか考えてみる。Xserveを導入すると、「ウチの目の前にある首都高速の騒音も気にならなくなる」とか、「4本脚を付けてテーブルとして使える」とか、「外から疲れて帰ってきても、インジケーターが暗やみで出迎えてくれる」とか……。そうだ、電源を入れなければ、騒音も気にならないぞ!しかし、インジケーターは光らない!どうする!?と、まぁ、いろいろ考えたけど、やっぱり無理だ。自宅への導入はあきらめざるを得ない。残念。

さて、UNIXとなったMac OS X。真価が発揮されるのは、サーバー用途であることは間違いないだろう。Xserveには、そのサーバー版であるMac OS X Serverが組み込まれている。あれだけ素晴らしかった旧Mac OSのユーザーインターフェースを捨て去り、Mac OS X や同 Serverでアップルが得たものといえば、プリエンプティブなマルチタスク環境だ。特に最近のデュアルCPUのG4マシンなら、対称型マルチプロセッシングのおかげでMac OS Xの性能をフルに生かせる。

そして、メモリー保護もシステムの安定性にとって大事な要素だ。サーバーのソフトウェアはたくさんの仕事をこなすために同時にいくつも起動している。そんな状況なので、メモリー保護によって、バグのあるプログラムがほかのプログラムに影響を与えないということは、OSの非常に大きな強みなのだ。サーバー自体が落ちる心配がぐっと減る。

さらにはJava。Mac OS Xは登場時点から、Java 2に準処した最強の環境として認められている。最近は、ほかの環境より少し遅れているようにも見えるが、以前のように取り残された感じはほとんどない。Mac OS Xの素性がUNIXであるからだろう。しかも、サーバー系のビジネス製品を販売している会社が、Mac OS X を公式にサポートするケースも増えている。

しかし以上のようなOSに関するメリットだけでは、Xserveは単なるUNIX マシンとしての使い方しか実現できない。ほかにも、価格の安さ[*1] とかデザインのカッコよさとか(笑)ウリになるポイントはあるが、全体的に見れば取り立てて強みとなるべき点は少ない。ほかに、Xserveを積極的に導入する要因となり得るポイントはあるのだろうか?

もちろんある。これまでのMac OSがサーバーとして使われてきた実例を考えてみると、容易に想像できる。ポイントはやはり「AppleScript」だ。Mac OS 9の時代にも、Macをサーバーとして使っているWebサイトは結構たくさんあったが、面白い使われ方をしているサイトの裏ではAppleScriptが頑張っていた。「QuickTime」を使って画像を取り込んでみたり、「ファイルメーカー Pro」を利用してデータを集計したり、「GraphicConverter」で画像を作成したり……。このような処理を行うために、AppleScriptが活躍していたのだ。

「そんな単純な処理は、Macじゃなくても簡単にできるぞ」と一蹴されてしまうだろうが、もう少し複雑な例だとどうだろう。例えば、「Adobe InDesign」を用いた自動組み版サーバー。こんなものをUNIXベースで作ろうとすると、かなり大規模なサーバーアプリケーションの開発プロジェクトになってしまう。しかし、AppleScriptが使えれば話は違う。すでに実績もあるので、開発に難儀することもないだろう。

またAppleScriptの良さとして、GUIによる通常のオペレーションとの違いが少ないことが挙げられる。確かに、AppleScriptはスクリプト言語でありプログラム言語なので、取っつきにくい部分はある。とはいえ、PerlとかJavaなどでサーバーアプリケーションを作る場合とは異なり、基本はGUI環境での作業からさほどかけ離れていない。AppleScriptは、目で見て操作する作業を自動化するスクリプト言語だからだ。このメリットは、サーバーアプリケーションを開発する際に、かなりの強みになるだろう。

ただし、問題もある。それは速度だ。AppleScriptの実行速度はお世辞にも速いと言えないのだ。Mac OS X対応になってずいぶん改善されたが、サーバーで使うとなると遅すぎるぐらいだ。何しろサーバーは、同時にたくさんの人がアクセスしてくることが前提になる。なので、並列処理を効率的に実行することがとても重要なのだ。現状のCarbonアプリケーションの仕組みで普通にAppleScript を組むと、1つのAppleEventの実行中にはほかのApple Eventを受け付けられない。これは、サーバーアプリケーションとしては致命的な制限なのだ。

しかし、この問題も「Jaguar」でだいぶ改善されることが期待できる。先日のWWDCで聞いた話では、AppleScriptの新バージョンが Jaguarとともに登場するそうだ。これまでのAppleScriptとは内部の仕組みからして全然違う、新しい構造になっているという。そして、スピードも圧倒的に速くなるのだ。アプリケーションプログラマーに対しても、新しい仕組みのフレームワークを提供するそうなので、新たなソフトを作るときにAppleScriptにより簡単に対応させられる。素晴らしいではないか。

Mac OS Xになってから、AppleScriptの質がどんどん向上している。Xserveでついに花開くことができるのだろうか?期待大だ。来月は、AppleScript がなぜ速くなるのかを技術的に想像してみようと思う。

バスケ(http://www.saryo.org/basuke/)シエスタウェア代表取締役
伊豆大島に自転車乗りに行って来た。うーん、楽しい。2年前にMTBを買って以来結構ほったらかしていた。もったいない。あと、伊豆大島、いいところだ。また、行きたいぞ。

[*1] 価格の安さ - そう、恐るべきことにほかメーカーのサーバー製品に比べてアップルの「Xserve」は安い。価格競争にも勝てそうなくらいなのだ。サポートの実績が積めれば、きっと成功しそうな感じ。

編集・三村晋一

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