『庶民さ』
仕事帰り、私は駅前の大衆居酒屋で友人と呑んでいた。
「俺たちは庶民だよなぁ?」
「そうさ、庶民さ。掛け値無しに庶民さ」
「庶民ってのはハワイなんかには行かないもんだよなぁ?」
「そうさ、庶民はハワイとは全く縁がないのさ」
「例えば商店街のくじ引きでハワイ旅行が当たったとしても、庶民なら行かないよなぁ?」
「えっ?どうして?」
「庶民にはパスポートがないし、飛行機代は別料金だからさ」
「なるほどな。庶民だからパスポートの事なんて気付かなかったのさ」
「知り合いにタダで譲ろうとしても、誰も受け取らないしな」
「えっ、どうして?」
「庶民の知り合いは皆庶民だからさ」
「なるほど、全くその通りだ。それで結局、その当たったハワイ旅行の券はどうなるんだろう?」
「さあな。そんな事、庶民の俺には分かりっこないさ」
(こいつ、もしやハワイ旅行を当てたのか?)
私の心に徐々に不信の念がわいて来る
(こいつ、もしや隠れ貴族か?)
根っからの庶民である私は、クジ引きを当てるのに必要な運さえも持ち合わせてはいないのだ。
おしまい
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