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『ひまわりのサムライ』

俺は女と住んでいた。ボロい平屋だったが小さな庭があった。俺は庭の片隅にひまわりの種を撒いた。ひまわりは順調に成長していった。小さな種から大きく太い茎が日々背を伸ばしていく様子を観察するのは、その夏の俺のささやかな喜びとなった。水は毎日やり、酒が分解されて臭いが増した俺の体内の水分も茎回りの土の上に振る舞った。茎はあっという間に俺の身長に追い付き、その翌日には既に俺は追い抜かれていた。蕾は充実し、花を咲かせるまでの時間はあと一回眠るくらいかと思われた。俺は既に30歳を越えていたが、ひまわりの成長する様を毎日眺めていると、まるで俺自身の内面までもが成長していく気分がしていた。背筋の伸びた立派な茎を見ていると、自分の心の背筋もピンと姿勢よく整うのだった。今にも開きそうに膨らんだ蕾を眺めていると、俺は自分の心の中にも立派な花が咲くのではないのだろうかと、そんなことを強く期待して胸を膨らませて毎日待ち続けていたのだった。

だが期待はある日呆気なくへし折られた。夜勤が明けて朝仕事から帰ってくると、ひまわりは首のところからスッパリと切り落とされ、刀を折られ首をもがれた可哀想なおサムライのように、青々とした葉と茎だけを残して所在無げに突っ立っていたのだった。切り口はまだ新しく、白い樹液のようなものがそこから一筋垂れていた。明日にも咲きそうに膨らんで大きくなっていた蕾は、花を咲かせる直前の蕾のまま洗面台の横のコップに突き刺さっていた。

酷く暑い夏だった。最高気温が40度を越える日が何日もあった。湿度も高く不快指数は連日90%を越え、熱中症で毎日バタバタと人が死んでいき、人類最期の夏と思われた。その日も朝から暑く、俺は冷蔵庫の中の缶ビールを一気に飲み干した。良く冷えた黒ビール、香ばしくて芳醇でしっかりとした飲み応えの黒ビールだ。それから俺はバスルームに行って頭から全身に冷水のシャワーを浴びた。途中で女が来て俺の全身を洗った。俺も女の全身を洗った。女は水が冷た過ぎると言ったが、俺は構わず冷水のシャワーを女に浴びせた。俺は中腰になって熱くなっている女の茂みの奥の甘い蜜を吸い、後ろを向かせて紅色の花弁に舌を這わせた。女は次第に水の冷たさにも慣れていき、俺の茎はいつもと変わらず固く強くそそり立っていった。俺自身の存在をも超越しているかのような巨大で堅牢なタワーだった。ビールを飲んだせいか尿意をもよおしてきたので、俺は女の太股に勃起した状態でオシッコを引っかけた。勃起状態で排尿すると持続力が増すことを俺は以前から発見していたのだった。脳が排尿を射精と勘違いしてしまい、それで長く勃起状態を保てるようになるのだろうかと考えているのだが、俺は大脳生理学者ではないから妄想の範囲内だ。女は人肌の温もりのある俺の天然尿素石鹸の感触を羞じらいながらも楽しんでいるようだった。
女の方ももよおして来たので、俺は出来たての女のそれを手で掬い、自分のお腹周りや股間に塗りながら洗ってみた。かなり以前に牛のオシッコで頭や顔を洗うアフリカの少数民族の映像を見た事があったが、彼らの気持ちを少しだけ考えていた。人間にとって当たり前の事とは何なのかと考えていた。

俺も女もその日は仕事は休みだった。女は工場でベアリングの錆を除去する仕事をしていた。俺は錆びだらけのドラム缶に詰まった廃油を回収する仕事をしていた。

女は俺の顔を洗い、髭をカミソリで綺麗に剃った。腋毛も乳首やへそ回りの毛も剃った。茎回りの毛も尻の穴の毛も剃った。
ベッドに行ってゆっくりと時間を掛けて俺たちは交わった。俺は舌と指で女をイカせた後、ナカでも何度もイカせた。「当たる。すごく奥まで当たってる」。女は自分のヘソの上の辺りを指して、「今この辺まで来てる」と言ったが、そこまで膨張させた俺には記憶はなかった。女は対面座位や背面座位でも狂ったように激しく腰を振りまくり、爪を立てられたり引っ掻かれたりして俺の背中は爪痕で赤アザだらけになったが、俺はヨガ式呼吸法を使いながら辛抱強く耐え続け、ナカでは発射しなかった。女は全身汗だくになり、ナカはビショビショでトロトロになっていた。呼吸は乱れに乱れ、「もうダメ。死ぬ。私死んじゃう」と繰り返し苦しそうに叫んでいた。「死ぬ死ぬ」と言いつつも、いつまでも俺の上で腰を生き生きとグラインドさせ続けた。死に近付いているというよりも、顔の表情は逆に若々しさを取り戻していくのだった。

女はかなり喉が渇いて喘ぎながら少しむせたので、対面座位で繋がったまま女の体を持ち上げ冷蔵庫まで移動し、コップに冷たいお茶を注いで2人で飲み干した。再びベッドに戻ってエクササイズを続けた。水分を摂って少しは呼吸も落ち着いたのだが、激しかった女の腰の振りも徐々に弱く断続的になってきたので「そろそろ発射してもいいか?」と聞くと、甘い声で「イって。私はもうたくさんイッたから」と言った。正常位の体勢で俺は腰をリズミカルに振った。女の呼吸がまた荒くなってきたが、俺は分厚い脂肪の貯まった女の脇腹をしっかりと支えながら自分の腰を動かし続け、達する寸前に茎を引き抜き、女の顔面に白く粘り気のある欲望の種を降り注いだ。繁殖することを許されなかった種たちが、女の肌に艶と潤いを与えていた。俺は柔らかくなった茎を女の口に差し込んで、残った最後の一滴まで吸い取らせた。「味は?」と聞くと「甘くて香ばしい」と女は応えた。女は快感に満たされて柔らかな笑みを浮かべていた。「私、何回イッたんだろ?5回目までは数えてたけど。10回以上イッたんじゃない?」と楽しそうに言った。俺はバスルームに行って自分の股間を洗いもう1本ビールを空けると、女の横で無防備な深い眠りに落ちていった。

女の顔は貧相で胸も大きくはなかったが、腹だけは突き出ていた。虫を食い過ぎた蛙のような腹だった。そして俺は永遠にひまわりの大輪の花を見出だせないままでいる。

終わり

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