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意外と知らない和音の話[vol.0]

「和声法」「コード理論」「機能和声」
 これらの言葉を聞いたことはありますか?ロックでもジャズでもポップスでもクラシックでも、音楽に深く関わっている人であれば耳馴染みの言葉でしょう。

「一度勉強したけど、よくわからなくて辞めてしまった」「もう完璧に理解している」「そんなもの勉強しなくてもいい」
 音楽理論に対してのイメージは千差万別だと思いますが、多くの人が「小難しく」「曖昧で」「よく分からない」と感じているのではないでしょうか。

 これを書いている私が音楽理論に初めて触れたのは十年以上前のことですが、未だに分からないことも沢山あります。「小難しく」「曖昧で」「よく分からない」と感じることも沢山あります。それでも、少し詳しくなった今、「はじめに知っておきたかった!!」と思うことを、こうして纏めようと思いました。

 貴方が音楽理論に触れたこともない人なのか、挫折した人なのか、もう学ぶ事はないと思っている人なのかは分かりませんが、音楽に触れる全ての人にとって、ほんの少しの助けになれば幸いです。

1.とりあえず聴いてみよう

 「和声法」「コード理論」「音楽理論」など様々な呼び名がありますが、現在それらの根幹にあるのは「機能和声」という考え方が主流です。「機能和声」とは何ぞや。これを説明できる事が、音楽理論の入門です。まずは、下のコード進行を聴いてみてください。

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 いわゆる「お辞儀の和音」って奴ですね。地域差はあるかもしれませんが、一つ目で「起立!」、二つ目で「礼!」、三つ目で「直れ!」だったんじゃないでしょうか。
 この和音進行の中にCG7という二つの和音が出てきましたが、これを「安定」「不安定」に分けるとしたら、どちらがどちらでしょう?殆どの人が「Cが安定」「G7が不安定」と答えるのではないでしょうか。つまり、この進行は「安定→不安定→安定」というわけですね。

 ちなみに、お辞儀の和音で二つ目が「礼!」なのはG7の不安定な響きと頭を下げた不安定な姿勢を対応させているからだそうな。

 それでは、次の和音進行はどうでしょうか?

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 なんだか響きが変わりましたね。少しオシャレになったとか、暗めになったとか、人によって感じ方は違うかと思いますが、ここでもまた「安定」「不安定」について考えてみましょう。まだ、殆どの人が「安定→不安定→安定」と感じるのではないでしょうか?「いや、一つ目の奴、安定なの?」と感じた人もいるかと思いますが......殆どの人は安定に感じるようです。

 それでは、次の和音進行を聴いてみて下さい。

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 流石にこれを「安定→不安定→安定」と感じる人はいないでしょう!一つ目の和音も不安定な雰囲気ではないですが、先ほどまでの進行とはなんだか立ち位置が違うような雰囲気です。

2.機能和声とは?

 三つの和音進行を聴いていただき、和音には「安定」「不安定」のものがある事が分かっていただけたかと思います。機能和声の世界では、「安定した和音」を「トニック」、「不安定な和音」を「ドミナント」と呼んでいます。お辞儀の和音は「トニック→ドミナント→トニック」という進行だったわけですね。

一つ目の進行

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二つ目の進行

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 一つ目の進行は勿論、「トニック→ドミナント→トニック」という進行だったわけですが、二つ目の少しオシャレな進行も「トニック→ドミナント→トニック」で作成されていました。一つ目に使われていたCだけでなく、二つ目に使われていたCM7やCadd9もトニックというわけですね。

三つ目の進行

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 しかし、三つ目の進行は「トニック→ドミナント→トニック」ではありません。DmやF#augonCはトニックではないということです。

 トニックとして扱える和音は、C、CM7、Cadd9だけでなく、C(9,13)、Em7、Am、F#m7-5、GonC、ConE、、、、、無限にあると言えるでしょう。複雑な響きで一見「本当にトニック?」となるものも沢山あります。そして、これは時代によって変化しているものでもあります。

 元々は、Cだけがトニックでした。大昔にはCM7はトニックではないと考える人もいたわけです。しかし、時代が進むにしたがって、曲のバリエーションもどんどん広がっていき、「多少不安定でもトニックとして扱おう!」という和音がどんどん増えていきました

 同じ事はドミナントでも起きています。元々はGやG7だけがドミナントであったのに、Bm7-5、C#7がドミナントとして認められ、最近はGaugonC#なんて和音も話題です。

 トニックの範囲が広がり、ドミナントの範囲も広がり。それでも、三つ目の進行で使われていたDmはトニックでもドミナントでも無いという扱いを受けています。Dmはそのどちらでも無いサブドミナントというものとして扱われます。一体どうしてなのか!

 ここで本題の、機能和声とは一体何かについてお答えします。機能和声とは、和音に「トニック」「ドミナント」「サブドミナント」の内、どの機能があるのか考えるという考え方です。そして先ほども述べた通り、それぞれの機能に属する和音は今日も今日とて増え続けています。

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名称未設定のノート-3

 しかし、それでもこの境界線が交わることは決してありません。Dmがトニックとして扱われる事は......少なくとも2020年現在ありません。多くの音楽理論書は「トニック一覧」と纏めていたりして、これを丸暗記することも悪くはありません。しかし、「トニック」「ドミナント」「サブドミナント」を区切る絶対的な境界とは何なのかを学ぶ方が面白いし、為になると思いませんか?

 この境界線については、また次回(があれば)纏めたいと思います。

3.音楽理論とは?

 ここまで、「殆どの人は」というキーワードが何度も出てきました。じゃあそう感じない人はどうすればいいんだよ!という意見もあるでしょう。そこで、音楽理論とはそもそも何なのか、私なりの考え方を紹介したいと思います。

 「理論」といえば物理を想像する人も多いと思いますが、そもそも物理の理論がどのように作られているか、ご存知でしょうか?門外漢のため、正確では無いかもしれませんが、どれも膨大の実験の末、「どうやらこうらしい」推察するものだそうです。重力加速度を知りたかったらいろんな条件で物を落とすしか無いわけです。そりゃあそうですよね。世界には予め物理法則があって、それを人間が頑張って理解しようとするんですからね。

 奇妙に感じる人もいるかもしれませんが、音楽も同じく、理論の前に音楽がありました。どうやらこの響きが殆どの人に明るく聞こえるらしい、不安定に聞こえるらしい、気持ちよく聞こえるらしい、といったものを纏めたものが音楽理論です。当然、地域、時代、人によって気持ち良さは違います。「殆どの人にある感情を与えたい」という時の助けになる物が音楽理論と言えるかもしれません。

 音楽理論は、偉大な物ではありますが、決して絶対的な物ではありません。「気持ちの良い音楽」の前に屈するのは「音楽」ではなく「理論」の方です。貴方がもし理論に納得できなければ、理論が書き換わるチャンスかもしれません。

 気楽に。気楽に。楽しく音楽理論と付き合っていけることも願っています。

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