トラッキングデータを用いた打たれにくいシンカー(ツーシーム・シュート)の分析

 シンカー、ツーシーム、シュート、呼称は多岐にわたるが高速でフォーシームよりアーム側に沈む球種(ここでは呼称はシンカーで統一)について検証する。ソニー・グレイのような150km/h近い速度で大きな変化をするシンカーが話題を呼ぶこともある一方で、「大きな変化はいらない、ボール1個動けばいい」と見る意見もある。実際シンカーの変化量はどれだけ失点抑止に影響を与えるのだろうか。

 近年のMLBでは試合中にボールの球速・変化量等さまざまなトラッキングデータを取れるようになった。それらのデータを用いどんなシンカーが打たれにくいのかを検証する。

検証

 シンカーを球速帯別と変化グループにグループ分けしたうえで各種指標を算出する。グループ化の方法は球速を5km/hずつに刻みその球速帯の平均変化量と比較した変化グループを作成する。(下記画像を参考)

 指標を集計した表については全球種の平均値を中間値とし、比較して投手にとって良い結果だと赤が、悪い結果だと青が濃くなるようにカラースケールしている。

 集計対象とする指標はRV/100(100球あたりの得点価値、低いほど失点のリスクが低い)、RV/100との相関が強いO-Swing%(ボールゾーンスイング率)、Whiff%(空振り/スイング)、平均打球速度、PutAway%(2ストライクからの三振奪取率)とする。

右投手対右打者or左投手対左打者の場合

RV/100(100球あたりの得点価値)

 まずは100球あたりの得点価値を示すRV/100について見ていく。右/右、左/左のシンカーはARM側、もしくはDROP側に動くと値が低くなる傾向にある。これらの方向に動くことで失点を抑止する効果があると言えそうだ。特に両者の性質を併せ持つARM-DROP型のシンカーの威力は凄まじい。逆にGLOVE側やRISE側に変化するシンカーは失点を抑止する効果が薄いようだ。GLOVE-DROP型では得点価値が正の値(失点リスクが高い)になってしまうことから横変化の影響のほうが大きい。

また球速は基本的に速ければ速いほど効果があるようだ。

O-Swing%(ボールゾーンスイング率)

 ボールゾーンスイング率を表すO-Swing%もRV/100同様にARMかDROPだと値が高くなる傾向にある。またGLOVEやRISEはボール球を振ってもらえないようだ。

Whiff%(空振り/スイング)

 スイングを試みた打者から空振りを奪った率を示すWhiff%は縦変化がDROPの場合、やや奪いやすくなる。ただ、そもそもシンカーのWhiff%はどの球速・変化グループでも全球種平均を下回ることがほとんどで空振りを奪うのに向いてる球種ではないようだ。

PutAway%(2ストライクからの奪三振率)

 2ストライクからの奪三振率を表すPutAway%はARM-DROPが唯一全球種平均を超えている。その他DROP型が相対的に高いようでWhiff%と強く連動しているようだ。

打球速度

 打球速度はARM型が低くなっている。逆にGLOVE側への動きが大きいシンカーは打球速が速くなる傾向にある。

まとめ

・縦変化はDROP>NOMAL>RISEの順で投手優位になりやすい。
・横変化はARM>NOMAL>GLOVEの順で投手優位になりやすい。
・変化量で影響が大きいのは縦変化より横変化。
・同じ変化タイプなら球速が速いほうが投手優位になりやすい。

右投手対左打者or左投手対右打者の場合

RV/100(100球あたりの得点価値)

 右/左、左/右のシンカーはRV/100が基本的に打者優位となる。シンカーで利き手が異なる打者を抑えるのは難しいようだ。
 相対的にはARM型のシンカーの方が失点リスクが低い。

O-Swing%(ボールゾーンスイング率)

 基本的に異なる利き腕の打者が相手に対してはシンカーでボール球を振らせることは難しいようだ。相対的にはARM型がやや振らせやすいか。

Whiff%(空振り/スイング)

 コンタクトのさせにくさを表すWhiff%も基本的には低い。

PutAway%(2ストライクからの奪三振率)

 PutAway%も基本的に低い。シンカーは異なる利き手の打者を相手に三振を取る球としては使いにくいようだ。

打球速度

 打球速度も基本的に打者優位となっている。

まとめ

・基本的に異なる利き手の打者を相手にした場合のシンカーは打者優位となる。
・相対的にはARM型のシンカーが失点しにくい。

指標網羅表(右投vs右打/左投vs左打)

 PV/100(100球あたりのPitch Value)は、環境中立的なvalueを採用している。打球については打球種類(フライ/ゴロ/ライナー/ポップアップ)の平均的な得点価値を用いている。値は高いほど失点を防いでいることを意味する。

 シンカーは投打の左右が一致する場合、アームサイドへの動きが大きいか、平均よりDROPする軌道が失点を抑えやすい。特に高速のARM-DROP型(シュートしながら沈む)は失点抑止効果が高い。

指標網羅表(右投vs左打/左投vs右打)

 シンカーは利き手が逆の打者には基本的に失点抑止効果(PV/100)が低い。そのため基本的にシンカーボーラーは逆の打者を不得意とすると推測される。逆の打者との対戦で不利にならないためには、カウント球としてやや曲がりが大きいカットボールなど、他の球種の習得が必要となるかもしれない。

今回の分析についてはMLB2017-2021のデータを使用した。
データはBaseball Savantから取得したものを使用している。



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