守備シフトは三振率をどの程度上昇させたか。

近年の野球は三振と四球と本塁打ばかりで、魅力が減っていると複数の監督が問題視。その一因に守備シフトがあると指摘されているのだ。どうせシフトの網にかかってしまうなら、三振覚悟で一発を狙おう――という打者が増えているという主張だ。
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MLBでは内野手を一般的な守備位置の反対側に配置するような守備シフトが年々増加している。この守備シフトが三振を増加させているのではないかと言う主張があるようだ。これについて検証していく。

内野守備シフトを敷くとK%はどの程度変化するか

まず内野守備シフト(以下シフト)を敷くと打者の三振率はどの程度変化するだろうか。方法としては2015-2020年のMLBでシフト状態で300打席以上プレーした打者と投手についてシフトを敷かれなかった状態で推定されるK%(三振率)と実際にシフトを敷かれた状態でのK%を比較する。

シフトを敷かれなかった時のK%を推定する方法としてはシフトを敷かれなかった時(スタンダード状態)の打撃成績のその打者のK%を使い打席に立った数に応じて平均をとるといった方法だ。

例えば守備シフト時に守備がスタンダード状態のときのK%が20%の打者が3打席立ちスタンダード状態でのK%が25%の打者が2打席立った場合は

(0.2+0.2+0.2+0.25+0.25)+(1+1+1+1+1)

と計算してK%の期待値を出す。これを左右に分けて行う。

検証にはBaseball Savantから入手したStatcastのデータを使用する。

画像1

結果は以上のようになった。左打者は期待値に比べシフト状態ではK%が3%程度増加した。一方で右打者は期待値に比べシフト状態ではK%が4%程度減少した。これは15-18年のデータで検証したsninさんの先行研究とだいたい同じ結果である。同じシフト状態でも左右で三振率に差が出るのは非常に興味深いが今回は置いておく。

この差を使いシフト状態の打席数に応じてどれだけ三振を増減させたかを求める。例えば2015年の右打者なら

3875×(-0.042)=-163

といった具合だ。(三振した打席が他の結果に入れ替わったことについてなどの細かいことは一切考慮しない。かなり大雑把な方法であることに注意)

結果が以下である。

SO増減

三振数は60試合しか行われなかった2020年を除くとだいたい年間で三振を250前後増やすようだ。このSO増減を実際の三振数に加算し補正したK%を求め実際のK%と比較した結果が以下である。

SO補正値

K%は年々増加しているがそのうち守備シフトが与えた影響はどの年もわずか0.1%に過ぎない。シフトがリーグ全体のK%に与えた影響は極めて軽微であると言える。

まとめ

・シフトを敷くと右打者のK%は4.2%低下する。

・シフトを敷くと左打者のK%は2.9%増加する。

・シフトがリーグ全体の三振率に与えた影響は0.1%程度である。

近年のMLBではK%の上昇が顕著であり2015→2020で2.9%も上昇している。その原因の1つとしてシフトが挙げられることもあるようだがシフトは大してK%上昇に影響を与えておらずシフトを禁止したところでMLB全体のK%が減少することはなさそうだ。目的に対する手段を見誤らないようにしたいところだ。

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